「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」
黄薔薇のつぼみ島津由乃が、関連各クラブに配布するプリントの枚数を確認しているのは、ここ薔薇の館。
「いぃ、むぅ、なぁ、やぁ……」
いかにも彼女らしい、やや古典的な数え方をしている。
それを微笑ましい表情で見詰める同僚、福沢祐巳と藤堂志摩子の二人。
「よし、これで合ってるわね。じゃ、ちょっと席を外すから、ここをお願い」
言うなり由乃は、慌しい足取りで、階段を駆け下りて行った。
「……なんだか、彼女らしいね」
「そうね」
残された祐巳と志摩子は、互いにぼそりと囁いた。
「ちゅう、ちゅう、たこ、かい、な」
紅薔薇のつぼみ福沢祐巳が、仕事で用いる備品の数をチェックしているのは、ここ薔薇の館。
「ちゅう、ちゅう、たこ、かい、な……っと」
いかにも彼女らしい、普通では有り得ない数え方をしている。
それを少し複雑な表情で見詰める同僚、島津由乃と藤堂志摩子の二人。
「うん、不足分はこれだけだから……。じゃ、ちょっと申請してくるから、ここをお願いね」
言うなり祐巳は、たどたどしい足取りで、階段を駆け下りて行った。
「……なんだか、彼女らしい……って言っていいのかな?」
「そうね」
残された由乃と志摩子は、互いにぼそりと囁いた。
白薔薇さまは一体どんな数え方をするのだろうと、興味津々で彼女の様子を窺う祐巳と由乃。
丁度志摩子は、何かを勘定しているらしく、電卓を叩きながらペンを走らせていた。
しばらくすると、書類に目を落としたまま、指折り数えだし始める。
来たか? と思いつつ、二人して志摩子を注視する。
しかし、呟くように口を動かしているため、声がよく聞こえない。
仕方なく、志摩子の声を聞き取ろうと身を乗り出した祐巳と由乃の耳に飛び込んだのは。
「ぼ、ん、さ、ん、が、へ、を、こ、い、た」
それを聞いて、思わず脱力する祐巳たち。
(おいおい良いのか? 実家がお寺のキリシタンさん?)
(正しくは、“こく”のではなくて、“ひる”ものだけどね)
二人の心のツッコミを知ってか知らずか、
「ぼ、ん、さ、ん、が、へ、を、こ、い、た」
と、繰り返し数え続ける志摩子の姿は、普段と全く変わり無いものなのだった。
「坊さんが、屁をこいた……、と」