【2415】 リリアンの白い魔王小野寺涼子の吶喊  (若杉奈留美 2007-12-06 20:20:32)


久々登場、イニGシリーズ。



『…人間ども…どこまで反抗すれば気が済むのかしら』
『我々も打てる手はすべて打ちましたが…』
『冬が来る前にあいつらを倒しておかなくてはならないのに。
こんなことでは南方系の血をひくわが一族は滅亡してしまう。今すぐなんとかしなさい』
『学園に特別選抜の別働隊を送ります』
『もう冬まで時間がない。急ぐのよ』
『かしこまりました』
『もし、しくじれば…』
『…しくじれば…?』
『あなたも処分するわ』
『……』


翌日、調理室では悲鳴が飛び交っていた。

「きゃっ、ごはんの中にGがっ!」
「いったいいつの間に…」
「いやだ、こんなところに虫が!」

その日調理実習をしていた2年桜組はすべてのメニューがだめになり、授業を中止せざるを得なくなった。
同じような状況が、職員室やミルクホール、さらには食べ物と縁は薄いはずの教室にまで広がり、
一刻も早く対策を取るべきとの声が学校中に渦巻いた。

その日の薔薇の館。

「…智ちん、大丈夫?」
「冗談は自分の部屋だけにしてほしいよ」

ぐったりと机に伏せる智子と、気遣う純子。

「冗談で済むレベルじゃありませんよ、智子さま」

眉間にしわを寄せながら涼子は言った。

「どうやら久々のミッション…ですね」

ちあきがうなずく。

「それも可及的速やかに…ね。今回は被害も大きいことだし」

薔薇の館にコールが響いた。

『今回のミッションは、リリアン全校舎のG軍団撲滅!
久々だけど一緒に頑張ろう!』
『ラジャー!』

翌日早朝。
山百合会の権限でリリアンは臨時休校になった。
Gたちとの激しい戦闘に、一般生徒を巻き込まない配慮だ。
G側司令官の言ったとおり、学園内随所に精鋭が配置され、油断ならない。

「サンダードリルストリングス!」

強い雷を放ちながら、瞳子は手にした棍棒から螺旋状のエネルギーを発射した。

『なんのこれしき!』

手負いのGはさらに攻撃を強め、自らの触角を伸ばして瞳子と美咲の体を束縛した。

「瞳子さま、美咲!」

叫ぶ涼子の声に反応し、祥子が剣を取り出した。

「バーニングソード!」

燃え盛る剣によって2人の体は自由にされ、それと同時にGの触角も切断された。
これに怒ったGは大声をあげながら祥子に体当たりしてくる。

「ぎゃっ!」

思わず倒れこむ祥子に、Gが止めを刺そうと近づいてきた。

「…まだ死ぬわけにはいかないわ」

ふらつきながらも立ち上がり、いつのまにか近づいていた菜々とともにボールを投げた。

「エッセンシャルボール・プレミアム!」

濃度100%のオイルがGの体に炸裂し、

『ぐわっ!』

あっという間に消滅した。

「…今回は相当しぶといわね」

熱湯での攻撃が効かず手こずる蓉子の額には、嫌な汗がにじんでいた。

それからどのくらいの時間が経っただろう。
G側陣営がにわかにあわただしい動きを見せ始めた。
何事かと警戒を強める山百合会軍団に向かって、10匹×10匹の隊列を組んで、四方八方から向かってくる。

「なんなのあれは!?」

叫ぶ祐巳に、ちあきは冷静に答えた。

「重装備密集歩兵方陣です」

かのアレクサンドロス大王の父、マケドニア王フィリッポスが考案したこの陣形は、機動性には欠けるが近距離の攻撃には有利である。
狭い部屋が複数あるリリアンの校内の至る所に配置されているため、山百合会は3隊に分かれて戦っていた。
そのうち調理実習室にいた1隊から、緊急連絡が入った。

「なんだって!?」

涼子が叫んでいる。

「どうしたの涼子ちゃん!」

駆けつけた蓉子に、涼子は辛そうに答えた。

「…理沙が…やられた…」

その瞬間、涼子の表情に言葉では言い表せない憎しみと怒りがこもった。
白いオーラがゆらりとゆらめく。

『許さない…俺の、仲間を…よくも』

あたりが突然グラグラと揺れ始めた。
信じられないほどのエネルギーが、涼子を白い魔王に変えてゆく。

『全軍退却!』

コントロールを失い逃げまどうG軍団に、涼子は渾身の一撃をぶつけた。

『ホワイトローズ・コズミック・シェイク!』
『ぎゃあああー!』

絶叫を残してリリアンのG軍団は消え去った。


夜中の病院。
現れた医師が告げた、あまりにも重い事実。

「ほんのわずかに頚動脈からはずれていましたが…もうあと1cm下の方をやられていたら…確実にだめだったでしょう」

調理実習室でさゆみを守ろうと、密集方陣6隊分の集中攻撃を一身に受けた理沙。
Gたちは人間の急所を知り尽くしていたらしく、6隊すべてが頚動脈付近に集中するという、想像するだけでも恐ろしい攻撃を受けたのだ。
そのため出血が止まらず、一時は生死の境をさまよった。
今は、出血はどうにかおさまったが、未だに予断を許さない状況。

「理沙…お願い。目をあけて。もう一度お姉さまって呼んで。
私のせいでこんなことに…」

泣き続けるさゆみを見かねた白薔薇チームは、ある決断を下した。

「サイキック・ヒーリングをやろう」

サイキックという名がついているため誤解を招きそうだが、要は衰えかけている理沙の生命エネルギーを呼び覚ます試みである。
エネルギー自体はすべての生き物に(もちろん、Gにも)宿っているが、他者のそれを呼び覚ます力は誰にでもあるわけではない。
リリアンでも白薔薇の名を継ぐものだけに受け継がれた力である。
涼子がまず理沙の右手を握り締める。
続いて純子が左手を握る。
志摩子、乃梨子、聖がベッドの周囲で輪を作り、エネルギーの場所を作る。
そして意識を集中する。
こうすることで深い無意識の部分に働きかけるのだ。
白薔薇チームの祈りに、紅薔薇、黄薔薇両チームの思いがつながった。

『理沙ちゃん、目を覚まして。まだ死ぬには早すぎるよ』
『もっとやらなきゃいけないことはたくさんあるのよ』
『君を失うことを、私たちは望んでいない。君は私たちの、大切な仲間だから』

やがてあたりが白み始め、夜が明け始める。
太陽が病室を照らし始めるのと同時に…

「…う、う〜ん…」

理沙の目はゆっくりと開かれた。

『やったあー!!』

その場にいる全員の目に、喜びの涙があふれた。



『…申し訳、ございません…』
『すぐさま処分しなさい』
『御意』
『おい、何をする!やめろ!うわ〜っ!』

『私たちは…まだ負けてはいない!』


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