「乃梨子さん。乃梨子さんからも、祐巳さまに言ってやってください!」
私がビスケット扉を開けたとき、いきなり瞳子が詰め寄ってきた。
「なに? どうしたの?」
前にも似たようことあったよな……。それはそれとしていつものじゃれ合いだな。
仲がいいのはいいことだけど、何もこんな風に巻き込まなくてもいいのに。
そう思いながら、私は瞳子をのけて中をのぞいた。
中には、当然祐巳さまがいた。
「ごきげんよう 乃梨子ちゃん。瞳子ちゃんと同じ髪型にしてみようと思ってがんばってみたの。どう?」
祐巳さまは、いつものように、春の日差しのような、柔らかいほほえみを浮かべて私に言った。
「今日は用事を思い出しました。たまには瞳子と二人で、ゆっくりとお茶でも楽しんでください」
私は祐巳さまの質問に答えず、そう言ってビスケット扉を閉めた。
「ちょっと乃梨子さん!」
ビスケット扉の向こうから、瞳子の悲鳴が小さく聞こえていたがそれを無視して私は薔薇の館を後にした。
生け贄は瞳子一人で十分だから。
祐巳さまの髪型はある意味瞳子に似ていたといえるだろう。……多分。
瞳子と同じ髪型にしたとおっしゃてた祐巳さまは、いつものツインテールに人参をぶら下げられていた。