【2436】 わたわたしてる君達の仕事は?  (柊雅史 2008-01-10 22:50:32)


 私立リリアン女学園。
 天下に名高いこのお嬢様学校には、生徒会と言うものがない。
 生徒会が存在しないから、生徒会長もいないし、会計も書記もいない。
 それでいて、リリアン女学園は行事の開催・運営などの大部分を生徒の自主性に任せるという、自由な校風で知られていた。
 生徒会がないのに?
 その答えは簡単だ。確かに、リリアン女学園には生徒会がない。生徒会長も会計も書記もいない。
 だがリリアン女学園には『山百合会』が存在する。
 三人の薔薇さまを中心に、そのつぼみやつぼみの妹が所属する山百合会。三人の薔薇さまに優劣はなく、生徒会長とは微妙に異なるのだが、山百合会のしていることは、俗に言う生徒会とほぼイコールである。
 行事ごとに専門の委員会は組織されるものの、その委員会を指揮するのも山百合会であるし、部活動の予算管理はもちろん、外部の学校との交流なども担当する、正にリリアン女学園の心臓部分。
 そんな、他の生徒の憧れの的である山百合会の様子を、今日は少しだけ紹介しよう。


     *   *   *


 山百合会の執務室は、中庭に面して建つ薔薇の館にある。
 歴史を感じさせる薔薇の館は、一種の神秘性すら漂わせ、静かに佇んでいr

「令ちゃんのバカーーーーーーーーー!!」

 ……。

「令ちゃんのバカバカバカバカ! もう……もう、ホントに、バカなんだから!」
「ご、ごめんよ、由乃ぉ〜! 謝るから、謝るからぁ〜!」

 山百合会の執務室は、中庭に面して建つ薔薇の館にある。
 歴史を感じさせる薔薇の館は、時々窓の向こうから暴走した少女の怒鳴り声と最上級権力者(黄)の情けない声が聞こえてくることもないこともないのだが、概ね、基本的に、通常であれば、一種の神秘性すら漂わせ、静かに佇んでいる。

 建物同様、歴史を感じさせる扉を開くと、そこは小さなホールのようになっている。
 ひんやりとした空気が満ちるその空間は、足を踏み入れたものが自然と気を引き締めたくなるような、威厳のようなものを湛えた空間であr

「で、ですからお姉さま……すぐに抱きつくのは止めてくださいと」
「違うよ、瞳子。瞳子は『人前で抱きつくのは止めてください』って言ったじゃない。だから、誰もいないところで抱きついているだけ〜」
「そ、そんなの屁理屈ですわ」
「それに、私って不器用だから。正面からタイを直せないんだよね。こうやって、後ろから直す方が上手く直せるってことを発見したの」

 ……。

「……祐巳、瞳子ちゃん。こんなところで何をしているのかしら?」
「あ、お姉さま。ごきげんよう」
「ろ、紅薔薇さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう。それで? 私の問いに答えてくれないかしら、祐巳?」
「え、瞳子のタイを直していただけですよ?」
「お、お姉さまはその、正面からだと上手く結べないそうなのですわ……」
「……なるほど。祐巳、実は私も正面からだと上手く結べな」
「その点、祥子お姉さまは正面から結べるのですから、凄いですわ。お姉さまのように、抱きつく必要はありませんですものね?」
「く……」

 た、建物同様、歴史を感じさせる扉を開くと、そこは小さなホールのようになっている。
 ひんやりとした空気が満ちるその空間は、時々足を踏み入れたものが赤面して扉を閉め直したくなるような最高権力一家(紅)のタイ結びをネタにした桃色修羅場が繰り広げられていることもなくはないが、概ね、基本的に、通常であれば、自然と気を引き締めたくなるような、威厳のようなものを湛えた空間である。

 執務室はギシギシと音の鳴る階段を上った先にある。
 ビスケットのような扉を開くと、そこでは紅・白・黄の薔薇さま方と、そのつぼみやつぼみの妹が、日々生徒達のために、よきリリアン女学園を築くために、真剣な面持ちで会議や業務を行っていr

「それでは、第256回某薔薇姉妹はガチなのか会議を開催しまーす」
「だ、誰がガチですか、誰が!」
「え〜、私は別に白薔薇とも乃梨子ちゃんとも言ってないよね、祐巳さん?」
「う、うん。そうだね」
「まぁ、ガチと言えば白薔薇、白薔薇と言えばガチと言えなくもありませんけど」
「瞳子ー!」

 ……。

「よ、由乃。あまり乃梨子ちゃんをからかうのは」
「じゃ、第512回令ちゃんが昨日買ったコスモス文庫の128ページに描かれていた三つ編み少女と短髪少女の薔薇咲き乱れるイラストについて詳細に検討する会議ー」
「由乃ー! だ、だからゴメンって。そんな気はないって……!」

 ……。

「あら、いやだ」
「どうしたの、志摩子さん?」
「間違えて、乃梨子の紅茶を飲んでしまったわ」
「え!?」
「ごめんなさい、洗ってくるわね」
「い、いいよ! 別にいいよ! 大丈夫だよ! 気にしないよ! 頂きます!!」
「「「「「 ガチ 」」」」」

 ……。

「だからね、祐巳。正面からタイを結ぶ時はこうやって……」
「意外と難しいですよね。私は後ろから結びます、やっぱり」
「そ、それはダメよ! 瞳子ちゃんだって迷惑でしょう!?」
「……お姉さまが正面から出来ないのですから、仕方ありませんわ」
「…………瞳子ちゃん?」

 えー、ビスケットのような扉を開くとー、そこでは紅・白・黄の薔薇さま方と、そのつぼみやつぼみの妹が、なんかどうでも良いことで騒いだり謝罪したり赤面したり百合の花を咲かせたり嫉妬したりデレッたりしている時もあるみたいですけどー、まぁ日々生徒達のために、よきリリアン女学園を築くために、真剣な面持ちで会議や業務を行っているんじゃないですかねー。



 私立リリアン女学園。
 生徒会のないこの学園支えている山百合会の仕事振りを、本日は紹介したつもりであるわけなのだが。
 山百合会――君達の仕事は……?


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