【245】 サファイア納得いくまでリアリティ  (くま一号 2005-07-21 05:01:52)


「瞳子ちゃん。」
「はい、祐巳さま。」
「これは、重いテーマかも知れないわ。宗教に志摩子さんほど真摯じゃない私たちは、間違ったことを言うかも知れないけど、SSだよーということで寛容にスルーしてくださいませ。」
「サファイア……マリアさまのお話になるのですね。」
「そうなの。私たちはクリスチャンじゃないですから。」

「祐巳さまと祥子さまは同じ疑問を抱いたのですわね。『サファイアなんて高価なものはマリアさまには似つかわしくないのではないだろうか』と。」
「そうなの。マリアさまのこころを聞いていてね。」
「マリアさまは青空、樫の木、うぐいす、山百合、サファイア、という歌詞なのね。」
「よく覚えていたと思うわ。普通の幼稚園のマリア祭だと5番まであんまり歌えないのよ。」
「え〜どうして?」
「マリア祭って5月でしょ。4月に入園してきた3歳児、4歳児が5月に歌えるのって一番がせいぜいなんですって。作者友人の幼稚園の先生情報。」
「あはははは、たしかにそうかもしれませんわね。」

「JASRAC(日本音楽著作権協会)のデータベースによると作詞作曲者は佐久間彪という方。あ、JASRACのデータベースに載ってるからといって著作権管理はJASRACに委託されてないからね。典礼聖歌ですから、使用の制限はされていないらしいです。著作権は放棄されていませんけれど。」
「えー、日本の曲なのですか。翻訳だと思いこんでました。」
「そうでしょ? サファイアの真意を探るのには作られた時代へさかのぼらなくてはいけないわ。瞳子ちゃん。」

「カトリックって保守的ってイメージ、意外にありませんわね。」
「そう。第二バチカン公会議、1963〜65に開かれたカトリックの改革路線を決定づけた会議があるのだけど。」
「第二次大戦終結後十数年ですわね。戦後に価値観は変わった。科学も技術も進歩してカトリックが対応できない矛盾したことが増えた。現代社会にどう対応するのか激論があったのですわね。」
「それというのも第二があるんだから第一があったのよ。19世紀に。それは第一次大戦前にその時の世界から目を閉ざして、カトリックが閉じこもってしまったような会議だったの。だから」
「今度はそうしてはならない、と、志は高かった。ここで信仰の自由とか、後のプロテスタントとの和解やユダヤ教、イスラム教徒の対話路線につながっていくのですね。」

「それで、佐久間彪神父は東京の教会の主任司祭をしておられました。奉献文の翻訳や典礼聖歌の作曲選定の委員として、第二バチカン公会議の改革を日本に持ち込む先頭に立たれた。そういう背景の中で『マリアさまのこころ』は生まれたの。」
「それで日本の神父さまが曲を作ったんだ。ふーん。」

「先頃なくなられた法王ヨハネパウロ2世は、ある意味世界を変えた法王だったでしょう。共産圏の崩壊にポーランド出身の法王として積極的に手を貸し、世界中と対話を重ねて『空飛ぶ教皇」と呼ばれた。」
「その時代、日本の聖歌が生まれていったのですね。」
「ヨハネパウロ二世は同性愛には厳しかったわね。」
「うむむむ。」

「それで瞳子ちゃん、そもそもマリアさまがサファイアなのはなぜだと思う?」
「うーん、きれいな宝石だから?」
「うん、まあそうなんだけど、青い色だからというのが重要らしいわ。」
「はあ、歌でもまず「青空」ですわね。」
「ヨーロッパ中世から澄んだ青空のような青色、というのはマリアさまを表すいろだったの。」
「へー。」
「それで司祭の法衣や装身具にもよく使われたのよ。」

「でも、それじゃやっぱりサファイアは庶民には手が出ないじゃないですか。」
「とっころが、違うんだなー。中世ヨーロッパで『サファイア』と言われたのは今のサファイアだけじゃなくラピスラズリを含むのよ。」
「ああ、ラピスラズリ! きれいな青い石ですよね。なんか細かい透明や不透明のいろんな青のかけらが集まったような石ですわね。」
「うん、瞳子ちゃんの言ったとおり一つの結晶じゃなくて、そんな石なのね。だから、石の粉を練り上げて人工的に作ることも昔からできたのよ。」
「はああ、中世に人造宝石。」
「そんな大層なもんじゃないわ。だから、庶民がお守りとして持つのに、別に高いものじゃなかったのよ。」

「じゃあ、今はどうなんですか?」
「瞳子ちゃん、これ、瞳子ちゃんに似合うと思って。」
「ゆゆゆ祐巳さま、これ、これ、私にですか。」
「そう。指輪よ。本物のサファイアの。」
「えー、そんな高いものを。」
「千円。」
「はああ。人造石ですね。」
「うん。サファイアが工業的に利用されるようになって、人工サファイアは技術が進んで安くなった。キュービックジルコニアほどではないけど、そのへんで中学生でも買えるようなアクセサリーに本物がついていることも珍しくなくなったわ。」

「つまり、中世のラピスラズリであれ、今の人造サファイアであれ、高いものじゃないんですね。」
「ほんとうにいいものはもちろん天文学的値段が付くわよ。でもマリアさまのために持っておくのは、今も昔も庶民にとって難しいことではなかったのよ。」

「ふーん、作者がどんなつもりで書いたのか聞いてみたいですわね。」
「佐久間神父、一昨年あたりに教会の主任司祭をご勇退なさったけれどご健在よ。だからこの問題の究極の回答は『作った人に聞いてみれば?』なのだけど、それは迷惑。」
「歌詞の解釈っていろんなことを自分で考えてみるものですわね。特にこれは聖歌ですもの。」

「聖歌も時と共に意味が変わる。それを乗り越えて歌い継がれていくものなのよ。」


「そーゆーわけでぇ。」
「なななんですか、祐巳さま。」
「これをマリみて7つのアンタッチャブルその3に怪盗紅薔薇が勝手に認定します。」
「あれ? 3つもでてきましたっけ?」
「その1 グノーのアヴェマリアは、原曲通りだと連弾で弾くことができない。」【No:25】
「ああ、ありましたね。」
「その2 ミス・クイーンはXXXXXXXXXXXXXXという意味である。」【No:238】
「いやああああああ。」
「その3 サファイアって中世にはラピスラズリのこともさした。別に高価じゃないのよ。」
「ふーん。で、7つまで続けるんですか?」
「わかんなーい。適当に7つっていったんだもの。」
「いい話だったのに。」


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