「乃梨子さ〜ん。 私たち、お友達ですわよね? 」 うりゅうりゅ。 ぺったり。
………忍耐だ。 忍耐。
「乃梨子さ〜ん。 どうしてお返事して下さいませんの? 瞳子がこんなにも悲しんでいるのにぃ。 」 しくしく。 ぺとぺと。 すりすり。
…… 「瞳子。 解った。 相手してやるから。 だから、背中に頬擦りするのは止めな。 」 こんな所を誰かに見られたら大騒ぎだ。 まして志摩子さんにでも見られようものなら、あんた命の危機なんだよ。気が付いてる? こっちは貞操の危機だけど。
「ふにゅー。」 すりすりすり。 「乃梨子さんが優しいと幸せですー。」
っとに、しょうがない。 「ほら、こっちに来なさい。」 くるりと体勢を入れ替える。
「ひざ、貸してあげるから。」 背に腹は代えられないというか、背と膝を取り替えたと言うか。
なんでか、志摩子さんも私の背中に抱きついて頬擦りするのが好きなんだよね。 それでもって、野獣はテリトリーを侵されると恐ろしいんだよ。 瞳子。 今、あんた本気でやばかったって……。 解ってないなこりゃ。
「むふふー。 乃梨子さんのお・ひ・ざー♪」 くりくり。
「こそばゆいから、膝頭に文字を書かない! 、、、えーと、それで」 何の話だったっけ。
「ああ、そうそう。 それで、ナニを悲しんでるのよ?」
「それは、もちろん祐巳さまですわ!!」 不愉快な事を思い出したせいか、頭をぐりぐりと押し付けてくる。 って、あんた。そのドリル。 ほんとに髪の毛なの? やたら食い込んでくるんだけど。
「いつまで経っても、ロザリオをくださらないし。 茶話会なんてお開催きになられるし。 いまだに祥子さまの親戚扱いだし。 ちっとも、ちっとも1人の下級生として見て下さらないし。 わたくしなんて、眼中に、っ眼中にな、、、、」 ううぇー、うううぇー
「よしよし。」 ゆっくりゆっくり頭をなでてやる。 偶には、気持ちを吐き出しても良いよ。
「祐巳さまー。 好きですー。 瞳子を見てーえうえぅ。 」
それにしても、前回は酔わせるのに一升瓶まるごと必要だったのに ( 【No:80】参照 ) 今回は、カップ3杯で、ここまで乱れるかね。 なんでだろう。 …そう言えば、前のときはアッサムを切らしていたから、ダージリンの秋摘みで代用したっけ。 今日はアッサムのクラッシュできっちり煮出したけど、その差かな? 瞳子情報ってことで、祐巳さま高く買ってくれないかな?
長閑なことをぽけらっと考えながら、空を見上げると、温室のガラス屋根の向こうはすっかり紅に染まっていた。 気が付くと、瞳子は膝の上で眠っている。 泣き疲れたらしい。 時折、くすんとはなを鳴らすのが子犬みたいだ。
もうちょっとして、酔いが覚める頃合いに起こしてやるか。 そうしたら照れ隠しに盛大にキャンキャン吼えるんだろうなぁ。 まあ、威勢がいいほうが松平瞳子らしいし、好きだけどね。
「大丈夫。瞳子。 あんたは祐巳さまに好かれているから。 自信持ちな。」 耳元で囁いてやると、 眠りながらなんだかくすくす笑っている。
まあ、わたしもあんたのこと好きだけどさ。 ぜったに面と向かっては言ってやらないんだ。 だって、恥ずかしいじゃない。
ふと、ほほをくすぐっているドリルを除けてやる。
人生で一番大事な親友が、こういうドリル少女ってのも何だかなー。 って思うけど。
誰かを好きという気持ちは、結局理性では止められないんだ。 ね、志摩子さん。