【248】 言うなれば蒼白  (joker 2005-07-21 22:00:54)


「あ、祐巳ちゃんだー!」

 昼休み、大学の敷地から祐巳を見かけ、高校の敷地へ駆け出す聖。もう、人としてどうかと思う。
 祐巳の数メートル手前から、スピードを落とし、足音を消し、気配を消し、忍者の如く祐巳の背後から近づく。恐らく、人生で最も無駄なスキルであろう。
そして、
「ゆーみちゃん!(グワァバ)」
 数歩の距離を一瞬で縮め、思いっきり祐巳に抱きつく(というか、もはや飛びかかる)聖。

「……………」

 だが、いつもと違い、無反応な祐巳。あの「ぎゃあ」とか「ぐわぁ」とかの怪獣の鳴き声を出さない。

「祐巳ちゃん……?」

 おそるおそる祐巳の顔を覗きこむ聖。その時、祐巳が顔をあげ……

「触れるな!このセクハラガイジン!!」


……………場が硬直する……………


「……なーんちゃって。びっくりしました?聖さま。」
「………………。」
「………あの〜、聖さま?」
「………………。」




その夜
「はい、小笠原ですが。」
「あ、祥子?ひっさしぶりー。」
「聖さまですか?一体こんな時間に何の用です?」
「いやね、祐巳ちゃんの事なんだけどさー。」
「祐巳がどうかしたのですか?」
「今さらだけど、私、祐巳ちゃんを甘やかしすぎたかなー、と思って。」
「確かに聖さまは、お姉さまより祐巳の事を可愛がっていましたからね。」
「そうなんだよねー。だからさ、祥子に祐巳ちゃんをちゃんと指導してあげてほしくてね。」
「そんなの、聖さまに言われるまでもありませんわ。それで、用と言うのはそれだけですか?」
「いや、祥子に、一応謝っておこうと思って。」
「は?」
「じゃあね〜、祥子。」
「え、あ、ちょっと!」

 不可解な謎を残して、電話を切られ、いぶかしむ祥子。とりあえず、明日、祐巳に事情を聞こうと自己完結した。


翌日。
「ちょ、どうしたの?祐巳?そんなに目を腫らして?」
 朝一番に会った祐巳の目は泣き腫らした後が残っていた。
「祐巳、本当にどうしたの?」
 心配して、優しく問掛ける祥子に、祐巳は一言。

「聖さまが怖かった。」

と。


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