おかしい。
受験ミスにより、このリリアンに入学した二条乃梨子は、通い始めて三ヶ月のハイスクールライフに違和感を感じていた。
何がおかしいのかはわからない、が、なにかがおかしい。
例えば、最近よく話しかけてくる、顔を赤く染めた瞳子とか。
気配を感じさせずに背後に回り、あたまを撫でてくる針金ストーカーとか。
放課後になると、今度は青信号とたぬきちゃんがべったりとまとわりついてくる。
この間なんか、廊下を歩いてたら、祥子さまが突然紅茶を淹れて持って来て「べ、別に貴女の為に淹れたんじゃなからね!」とのセリフを残してさっていった。
正直似合ってないんでやめてほしい。
あのヘタ令さまですら、山百合会の仕事の後、「こ、これよかったら食べて………」とクッキーをわたしてきた。
そういうイベントはあの青信号とやらかしてください。
そんなわけで、不思議と身の危険を感じる今日この頃。
何か取り返しがつかないことになりそうなので、取り敢えず我が姉である志摩子さんに相談してみようと、休日に志摩子さんの家をたずねたのだった。
回想おわり。
「と言うわけなんだけど、志摩子さん何か心当たりある?」
志摩子さんの部屋でくつろぎながらそう聞いてみる。
「……そう。皆動き出したのね」そう言うとあたしの傍に来て座り、肩に手を置いて話し出す。
「いい乃梨子。落ち着いて聞いて頂戴」
その静かな迫力に思わず「う、うん」とうなすぎ、身を固くする。と、目の前のマリア様は、とんでもない事をおっしゃられた。
「乃梨子はね、リリアンの生徒だけを魅了する特殊なフェロモンを発しているのよ。」
「………………は?」
「今は乃梨子と親しい人達だけ、症状が出ているようだけどリリアン全体にその症状がでるのも時間の問題ね」
あまりにもトンデモな方向に進んでいく話に、思わず思考力を手放したくなるが、ふと思う。
「え、ちょっと待って?!でも志摩子さんはあたしと一番よくいるけど大丈夫なの?」
「ふふふ、乃梨子ったら」
と笑う志摩子さん。そうだよ、あたしと志摩子さんには何より硬い絆があるんだから、大丈夫にきまってんじゃない!
と、いつの間にか肩に掛かった手に力が入っているのに気付く。
「私がそんな回りくどい手を使うわけないじゃない」
ゆっくりと倒される体。
「乃梨子」
「し、しまこしゃん?」
近づいてくるマリア様のような顔。そして
「いただきます」
こうして白薔薇の蕾は散ったのであった。