『キラキラまわる』より
「令さまと一緒のティーカップ、楽しかったね」
蔦子さまの言葉が笙子の頭の中で勝手につぎはぎされていく。
「はい」
令さまがいなかったらもっと楽しかったです。
笙子です。
最近出番が増えて嬉しいかぎりです。
というか、蔦子さまと一緒のシーンが増えて嬉しいのです。
今回なんて蔦子さまとデートですよ!
なぜか姉の後押もあって、遊園地に行けることになったんだけど、何か変なものでも食べたのかな。
そういえば、お正月の写真の時になんで蔦子さまのことわかったんだろう。言ったことなかったはずなのに。
最近ちょっと謎な姉なのです。まあ、蔦子さまとのデートの前にはどうでもいいことだけど。
デート自体は往きにトラブルはありましたが、それはまさに災い転じて福となすというか、本当に「神様の思し召し」だと思ったのでした。
別の収穫もあったし。
「ところで、蔦子さまのカメラって伯父さまの影響なんですか?」
「さあ? どうだったかしらね。どうして?」
「だとしたら、伯父さまに感謝しないといけないなと思って」
最近まで、私には欲しいものがありました。
何を隠そう、蔦子さまの写真が欲しかった。隠してないですか。そんなことはどうでも良いんです。
蔦子さまの写真というのは、いわゆる集合写真の類ぐらいしか出回っていないのです。
さすがに蔦子さまの写真を蔦子さまに頼むわけにはいきません。蔦子さまが撮れない唯一の被写体です。
ましてや蔦子さまは写真に撮られることを好まれないお方。
考えた末、私は一つの結論を出しました。こうなったら自分で撮るしかない、と。
でも蔦子さまのように相手に気付かれないうちに撮るなんてことはできません。
そこで私は写真部に入部しました。蔦子さまと一緒にいられる時間も増えて一石二鳥です。
常にカメラを持って蔦子さまのそばに引っ付いて隙をみて激写するしかありません。
ですから『三年生を送る会』でのことはある意味願ったりでした。
隠し撮りの技術は他ならぬ蔦子さま自身がお手本です。
外的に口実を与えられたわけですからバレたとしても言い訳できます。
それは小さな奇跡でした。
カメラを構えた蔦子さまの真剣な横顔。
もうこんな写真は一生撮れないかもしれない。
それでもいい! と思っちゃうくらい、それは凛々しい蔦子さまの写真でした。
これはもう愛の成せるわざ、というやつでしょうか。この写真は肌身離さず持っていることにします。
公開してしまうのがちょっと惜しい気もしますが、秋の学園祭には『写真部エースの肖像』というタイトルで出そうかと思います。
え? 三年生を送る会ですか? 三年生を送る会で2年生の蔦子さまを写真部エースというのはさすがに躊躇われるじゃないですか。いくらあんな3年生でも。だからもちろんタイトルは変えましたよ。
こうして、蔦子さまの写真が欲しいという野望は達成されたわけですが、人間とは欲深いものです。
今度は蔦子さまとのツーショット写真が欲しい。
そう思った私を誰が責められましょうか。
新たな野望に向けて邁進することになった私でしたが、これは難問でした。なにせ私と蔦子さまのツーショット写真。
蔦子さまに頼むわけにも、私が隠し撮りするわけにもいきません。
写真部の他の部員に隠し撮りを頼む? ………私が嫌です。
そしたらですよ。
今回のデートです。
こんなにあっさり手に入ることになるとは!
カメラが壊れた時はどうなることかと思いましたが、そのおかげで新たな野望も成就できたわけで。
伯父さまに大感謝です。
あー、今日は良い日だった!
……しかし、人間の欲望とは(以下略)
紅薔薇のつぼみは蔦子さまがカメラを持っていないことに気付いていないし、紅薔薇さまは気付いていて何も言わない。
まさにそのとおりでした。私のツボに大ヒットでしたが、その時ふと思ったことがありました。
蔦子さまはいつもファインダー越しに人を見る。だからこそ、誰よりも客観的にその対象の主観を取り込めるのかもしれない。変な言い方だけど、たぶんそういうことなんじゃないかと思う。
だとしたら、私の主観もわかってくださいね。蔦子さま。
笙子です。
私はさらなる野望の成就の為に、頑張っています。