【256】 驚愕の新イベント  (琴吹 邑 2005-07-24 03:41:18)


がちゃSレイニーシリーズです。


「志摩子さん、ありがとう。ね、瞳子。言いたいことお姉さまにぶつけちゃえ。いいづらかったら、私は消えるわ。食べおわったし」

 そう言って、乃梨子さんは走って向こうに行ってしまった。

「ね、瞳子ちゃん。肩を抱き寄せる。本当に祐巳さんのことが好きなのね。ちょっと荒療治だけど、わたしたちもそれでうまくいったのだもの。祐巳さんや瞳子ちゃんの役にたちたいわ」


 そう言って、微笑む白薔薇さまは、マリアさまのように優しそうで………。

「私をお姉さまだと思ってごらんなさい。いつものあまのじゃくは消して」

 その言葉自体は少し不満だったけど、私は、白薔薇さまに身を任せた。
 昨日と同じように後から抱きしめられる感覚が物凄く心地よくて。
 こんな風に心から誰かに甘えたのは、いつ以来だろう。
 何も考えずに、ぼんやりと、白薔薇さまの暖かさを感じていた。

「白薔薇さまがお姉さまだったら、良かったのに」

 あまりにも白薔薇さまに抱きしめられるのが気持ちよくて、思わずそんな言葉が口からこぼれた。
 白薔薇さまは乃梨子さんがいるし、私は今のところ祐巳さま以外の人を姉にするつもりは全くなかった。
 ただ、そんな風に想像するのは結構楽しい事なのではないか。そんな風に思ったのだ。
 その言葉に、白薔薇さまは笑って言った。

「じゃあ、乃梨子にふられたら、瞳子ちゃんに妹になってもらおうかしら。山百合会の仕事もわかってるし、祥子さまも瞳子ちゃんは優秀だったって言ってたし。もちろん私も瞳子ちゃんのこと大好きだし」
「じゃあ、白薔薇さまが乃梨子さんに振られたら喜んで、お受けいたしますわ」

 そんな話をしていたら、ふと、由乃さまの声が聞こえた。
 何か物凄い形相をして、こちらの方に向かってきたのだ。
 その隣でわたわたしている祐巳さま。その様子を遠巻きに面白そうに眺める、真美さま、蔦子さまを見かけて、あわてて白薔薇さまから離れた。
 乃梨子さんの公認とはいえ、こんな所を写真付きでリリアンかわら版に載せられたらたまった物ではない。
 白薔薇さまの方はというと、小さく溜め息をついてご自分の右手首を左手で軽く撫でていた。
 そして、何かを決心したように正面を向き、由乃さまたちに声を掛けた。

「ごきげんよう。祐巳さん、由乃さん。何かご用?」

 私はその言葉に首をかしげた。
 今の台詞、何でもない言葉なのだが、少し非難めいた口調が混じっていたから。

「いえ、珍しい、組み合わせだから、何の話しているのかなと思ってね」

 由乃さまの言葉も、まあ、この人の場合は気分によってまちまちだから、良くあることなのだけれど、ずいぶんととげのある言葉だった。
 でも、この手のとげのある言葉を黄薔薇さま以外に向けるのはあまり無いことだ。

 白薔薇さまと由乃さまが何故かけん制し合ってる?
 不思議に思って、祐巳さまを見るけど、祐巳さまも目をぱちくりとさせているだけだった。

「ええ、スールの話をしてました。瞳子ちゃんに妹になってもらう約束をしました」

 そう言って、白薔薇さまは一度ちらりと祐巳さまを見て、私の方に話を振った。

「ええ!? ほ、ほんとなの? 瞳子ちゃん。志摩子さんそれに乃梨子ちゃんは?」

 目をほんとにまん丸くして、祐巳さまが叫ぶように聞いた。
 なるほど、白薔薇さまはたしかに嘘は言っていない。あえて誤解させる言い方はしているけれど。
 白薔薇さまは意外とお茶目なんだなと思いつつ、その質問に答えた。

「はい、致しました」
「え! 本当!?」
「はい、乃梨子さんに白薔薇さまが振られたらと言う条件の時ですけど」

 その言葉に、祐巳さまはかなりほっとした表情を見せた。少しは私のことを気にしてくれているのだろうかと祐巳さまを見ながらぼんやりと思う。

 「えっとね………」

 由乃さまの発言を遮って、白薔薇さまが驚くべき発言をした。

「瞳子ちゃん。約束通りロザリオはもらってくれるのね?」
「へ?」

 祐巳さま、由乃さま、そして私の声が綺麗に重なった。
 固まっている私たちを尻目に、白薔薇さまはブラウスの袖のボタンをはずし、袖をめくりあげた。
 そこにあるのは、いつも乃梨子さんの首に掛かっていた、あのロザリオだった。

「そんな話聞いてないわよ……」

 由乃さまが、絞り出すようにそう言った。

「これは、私と乃梨子で決めたことだから」

 そう言って、白薔薇さまはにっこりと笑った。

「でも、今はやめときましょうか」

 そう言いながら、遠巻きに見ていた蔦子さまと真美さまを見て、まくり上げた袖を元に戻した。

「瞳子ちゃん。返事はもう一度、今度しっかり聞かせてもらうわ」

 そう言って、白薔薇さまが、教室の方へ向かうのと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
 私も、祐巳さまも、由乃さまも、呆然として白薔薇さまの背中を見ていることしかできなかった。




【No:268】へ続く


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