【2600】 悪戯な天使出来るだけ  (クリス・ベノワっち 2008-04-15 15:49:51)


『静、何してるの?』
『んー、ちょっとね』
にやにやしながらキッチンに立つ私は、さぞかし不気味に思えたのだろう。
『料理?うそー、静がぁ?』
『失礼な。それに、これはお料理じゃなくて、お菓子作り…。いや、ネタの仕込みかな…』
『ネタノシコミ?』
イタリア人には理解不能な単語か。
『出来たら、ちょっと頂戴ね。そのネタノシコーミ』
言いながら小母は奥へひっこむ。どうやら彼女の中では、この見馴れない食べ物の名前だと思ったらしい。まぁ仕方ないけど。
『私もイタリアで見たことないしね』
もうすぐ出きるであろう二種類の食品を見ながら思う。彼女達は、コレを見たらいったいどんな顔を見せてくれるのだろう。とても楽しみだ。


『静、何してるの?』
『んー、ちょっとね』
にやにやしながら裁縫する私は、さぞかし不気味に思えたのだろう。
『お裁縫?うそー、静がぁ?』
『失礼な。それに、これもネタの仕込みよ』
『ネタノシコミ?』
昼間聞いたであろうその単語。食物の名だと思っていた彼女はどう解釈するんだろう。
『嘘……あんた、そんなモン私に食わせたの?それが原材料なの?』
言いながら小母はトイレに駆け込む。どうやら彼女の中では、これをどーにかして調理した結果、あれが出来たと思ったらしい。
『いやいや、ありえんだろ』
もうすぐ出きるであろう二種類の『のぼり』を見ながら思う。彼女達は、コレを見たらいったいどんな顔を見せてくれるのだろう。とても楽しみだ。
そして今、トイレの扉を見ながら思う。小母はいったいどんな顔をしているだろう。とても不安だ。


当日。今、私はローマで彼女達を待っている。志摩子さんによると、彼女達はここを通る予定だと言う。きっと志摩子さんは、私が乃梨子ちゃんに会いたいのだ、と思っているのだろう。ところが、だ。実は、私は彼女に正体を明かすつもりなんてなくて。私の悪戯につきあってもらおうと思っていたりする。それも彼女には気付かれない様に。
パタパタと風にはためく『のぼり』が私の笑いをさそう。およそローマに似合わないその『のぼり』は確かに目立っていた。日本語、いや漢字で書かれている為に、現地の人や観光客も遠巻きに眺めていったりする程だ。満足のいく出来に喜んでいると、観光客の一団がこちらを見てきょとんとしている。

「……嘘」
「……あるもの、なんですのね」
表情を変えずに固まっている乃梨子ちゃんと、『のぼり』を見上げ呆けてる瞳子ちゃん。
笑い出したいのを堪えながら、私はスゥと息を吸い込み、ネタの仕上げにかかる。


「ローマ饅頭は、いらんかねー!」

パタパタと風に踊る『ローマ饅頭』の『のぼり』の隣で、私のゲームが幕を開けた。
ただ一つ残念なのは、祐巳さんの驚く顔が見れないこと、かな?


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