※設定上ある人物に不幸があります。苦手な方はご遠慮を。
プロローグ
朝になった。
そして目が覚めた。
そう、わたしは目を覚ませた。
また一日が始まる。
そう、わたしには一日が始まる。
いつもと同じように支度を始める。
先週から高等部に上がったが以前とあまり変わりはない。
制服に着替え、髪を梳かす。
そして数年前から習慣となったことが一つ。
机に置かれた写真立てに向け、心の中で話しかける。
おはよう、いってきます
声に出さないのはそれを両親に聞かれた場合、また心配をかけてしまうから。
また悲しい顔をさせてしまうから。
階下に降りてお父さんとお母さんに挨拶をして、
いつもと同じように食事を摂る。
朝食は談笑しながら一緒に摂るのが福沢家では当たり前。
いつもと同じ穏やかな時間。
いつも通り。
そう、この風景がいつも通りになってしまった。
まるで最初からそうであったように。
時間になったのでカバンを持ち玄関に向かう。
いってきます、と言うと返事が返ってくる。
いってらっしゃい、気をつけて。
そのどこででも聞くような使い古された定型句から、どこで聞くよりも真摯な響きを感じられるのはきっとわたしの気のせいではないだろう。