スーパー祐巳ちゃん 科学者編
【No:2646】の続き
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波乱の火曜日��
「何なのよこれ・・・」
祐巳は学校にきたことを後悔していた。
紅薔薇の蕾の申し出を断った一年生がいる―――
昨日の出来事にもかかわらず、既に高等部全員に噂が伝わっているようだった。
一躍、祐巳は時の人となっていた。
「そりゃそうでしょ」
机に伏せる祐巳に、蔦子がカラカラと笑いながら話しかけた。
「何せ、あの祥子さまを振ったんだから。さすがにこの蔦子さんでさえビックリしたわよ。
それにしても・・・」
蔦子は祐巳の顔を覗き込んだ。
「今日の祐巳さんはいつもと何か違う。
この祐巳さんは・・・そう、初めて会った時、入学式の時に見た祐巳さんなのよ」
そういうと、蔦子はパシャパシャと祐巳の写真を撮った。
「な、何を言っているの？」
「ん〜何ていうか、今日の祐巳さんは私の写真魂を刺激するのよ。
入学式の日にも思ったのだけれど、あ、そういえば身体測定の日もだったと思う。
何ていうか、他の日とは何かが違うのよね。
・・・そうか！わかった！」
蔦子はがっしりと祐巳の手を掴んだ。
「祐巳さんは、何か大きな出来事があると輝やくのよ！
祐巳さん！あなた、祥子さまの妹になるのよ！
山百合会に入れば、あなたはきっとすばらしいほど輝くわ・・・」
蔦子はどこかに行った。遠いどこかに。うっとりとした目つきで。
祐巳は心に刻み込んだ。
武嶋蔦子は危険。近づくな。要注意。
「祐巳さん」
急に誰かに呼ばれ、祐巳は声の聞こえた方へと顔を向けた。
「一緒にお昼食べましょう」
天使のような微笑を浮かべながら、志摩子はそう言った。
はて。
祐巳は考えた。
たいして仲がよかったとは思えない志摩子からの誘い。
一体、何をさせようと言うのか。
今日の祐巳は疑い深くなっていた。
考え込んでしまった祐巳に、苦笑いを浮かべながら志摩子は説明をした。
「きっともうすぐ、新聞部の方が取材しにくると思うの。
だから教室を出ておいたほうがいいと思うのだけれど。ついでにお昼をご一緒に、と思って」
「えぇ？！取材？！
行く行く！一緒にお昼食べよう！」
祐巳は慌てて志摩子の手を掴んだ。
「志摩子さん」
「どうしたの？祐巳さん」
「いつもこんなところでお弁当を食べているの？」
ここは講堂の裏手。
一本だけ桜が混じっているが、他は全てイチョウの木。
目立たない場所の上に、知っていたとしても今の時期は誰も来ないだろう。
いかんせん、臭いが・・・
「季節限定よ。春と秋の天気のいい日」
「春と秋？」
「そう。春はこの桜を見ながら食べるの」
「秋は？」
「銀杏が落ちるから、それが楽しみで」
志摩子は嬉しそうにクスクスと笑った。
「ま、まさか・・・ニオイフェチ？」
「もちろんそれもあるけれど、食べるのも好きなの。
本当は誰にも取られたくはないのだけれど、祐巳さんは特別。
ずっと一緒に拾いたいと思っていたの」
はい、これ。そう言って祐巳に手渡した物。
それは銀杏袋。それも、普通の袋ではなさそうだ。
拾いやすいように改良されている。
祐巳は思った。
藤堂志摩子は変人だ。
「それにしても、祐巳さんはどうして祥子さまの誘いを断ったの？」
唐突に志摩子が尋ねた。
「そ、それは・・・」
そんなめんどくさいこと真っ平ごめん！
それが祐巳の正直な思いであった。言える訳がない。
「普通断ると思うけれど？初めて会ったんだもの」
「そうかしら？」
「そういう志摩子さんこそ。
祥子さまの誘いを断ったんでしょう？どうして？」
「私の場合は簡単よ。
祥子さまは銀杏がお嫌いなのよ。だからよ。
ほら、祐巳さん。早く食べてしまわないと、銀杏を拾う時間がなくなってしまうわ」
一体銀杏の何が、彼女をここまで動かすのであろう。
これ以上は聞いてはいけない。そう本能が感じ取り、祐巳はただ黙々とお弁当を食べることにした。
その後。
やはり祐巳は銀杏を拾うはめとなっていた。
もちろん拾った銀杏は、全て志摩子にあげた。
悪い悪いと言いながらも、志摩子の顔は満面の笑みであった。
「お近づきになれてよかったわ」
志摩子の言葉に、祐巳は苦笑いを返した。