【2666】 天使なんかじゃない  (さおだけ 2008-06-30 17:27:01)


なんかkeyがナイスな感じにあるのですが…とりあえず感謝しておこう。
学校でコレどうするかなぁ〜って考えてて授業は出てるだけの状態。
ま、いっか。笑

本編 【No:2663】→【No:2664】→【No:2665】→ これ
本編とか書いてるのは短編で内容が決まってたりするからです。





  ■■ SIDE アウリエル



使者が来た。
人間として間借りしているこの家へ、よく天使がやってくる。
そしていつも仕事を持ってきては私に決断やら作戦やらを考えさせる。
それは【アウリエル】という肩書きを持つ私の義務。
たまに面倒だとは思う事もあるけれど、私別に嫌ではない。
だって、世界と大切な人が滅ぶよりいいじゃない?そうでしょう?

「お姉さま」

「あれ?いらっしゃい」

私の背後には、気がついたら妹が立っていた。
まだ下級天使の妹は、困ったような顔をしながら私を見つめていた。
何かを言いたいようだけど、私には何も言えない事が分かっているのか、何も言わない。
私はここへ、【世界の救済】と【妹の進級試験】のために来ていた。
事実、前者が大半なのだけど。

「お手伝いします」

「いいよ、それより夢魔退治をお願い」

「………はい」

妹はやっぱり寂しそうに私を見つめた。
妹の通っているリリアン女学園には、私達の【空間】と同じような制度がある。
それは姉妹制度。妹を姉が導くとかそういうやつだ。
そしてこの子は私の大切な妹。

「では、行ってきます」

「………いってらっしゃい、―――」

「はい」

試験も兼ねている以上、私は何も口出しできない。
天使になってから初めて姉の加護なしに行動している妹は、大そう不安なのだろう。
だけど……ごめんなさい。今の自分にも誰かに気を配っている事が困難なの。

世界は故郷。
人間は天使。
天使は夢魔。

こんなに私が不安定になるのは、いつ以来だろう。
天使になる直前か、私のお姉さまが輪廻に戻られた時か。

「………ごめんなさい」

考えなければならない事が沢山あるから、まだ暫くは感傷に浸らなくて済む。
遠くの空から夢魔が降りて来た気配がして、私は視線をやった。
妹でも対処できる。
まだ、本体はこの世界に来ていないのだから。

「いくつ年を重ねても、私はまだまだ【妹】なのよね……」

本体が降りてくるのは、冬あたりかな。
私のところにやってきて引切り無しに情報を流す使者に、私はまた溜息を吐いた。






  ■■ SIDE 祥子



乃梨子のカミングアウトから早一週間が経過した。
そろそろ体育祭の用意で忙しくなる時季。
今年は2年生の修学旅行も中止となり、代わりに文化祭に力を入れることにもなった。
他校でいうところの生徒会もてんやわんやと忙しくなってくるのである。
【夢魔】を別にしても。

「お姉さまは、どう思われます?」

「うん?……そうだなぁ、祥子さまの女将さん姿が見t」

「違います」

どこまで話しが飛んだのですかっ。
そんなに見たいのなら今度私の家にご招待してファッションショーでも致しますっ。
………は!こんなのだからお姉さまの特技は【人を混乱させる事】なのよね。
この天然栽培、世間に汚染されずに大きくなられた、いわば大きな子供!

「それではなくて……乃梨子の話しです」

「乃梨子ちゃん?ああ、うん。それが?」

「それがって…どこまで私を感服させるのよ。なんとも思わないのですか?」

「うん、別に」

ケロリ。なんだかそんな擬音の意味がようやく分かった気がする。
本当に不安も期待も何も思っていない模様のお姉さまは、私の手を握った。
お姉さまは一緒に帰る時、よく誰かの手を握っている。
蓉子さまや私、親友である志摩子さまに令さまの誰かの。

「ではお姉さま、夢魔についてはどう思われます?」

「夢魔ねぇ……なんか複雑な感じ」

「そうですか」

あんまり聞いた意味がなかった。
夕方の太陽の傾いたこの時間帯、空が朱色の染まる頃。
なんだか不気味な雰囲気を醸し出す中、お姉さまの繋がれた手が温かい。

「祥子さま、どうしたの?」

「口調が戻ってますわ、お姉さま」

「あ、うん。ごめんね」

「いいえ」

何度言っても直らないお姉さまに安心させられたなんて、ちょっと口惜しい。
だから私は、無言でお姉さまの手を握り返すことにした。
驚いた表情をしたお姉さまは、すぐに嬉しそうに顔を緩めた。
その顔がまた歪んだのは、もしかしたら私の見間違いかもしれない。



  ■ ■ ■



夢魔が前よりよく現れるようになった頃。つまりは文化祭の近づいた頃。
私はなんだかお姉さまから距離をとられていると感じるようになった。
体育祭ではあれだけ傍に居てくださったのに、気がつけば数歩分離れていた。
握ってくれた手も、最近はとんと握ってくれない。

私の身近での問題はこれくだいだが、世界ではまた厄介な事になっていた。
アメリカでは銃を持ち歩く人も急増し、日本でも銃刀法の基準が変わりつつある。
それについてはあまり語らないが、一番期待しているのは由乃だという事だけ付け加えよう。
毎朝ニュースの話しをしてくる友人を思い出し、私は意を決めた。


「で、やっぱり日本刀よね?」

「違うわ。やっぱり散弾銃じゃ……ってだから違うわよ」

「じゃぁ何よ?」

昼休み。私は由乃と一緒に昼食を食べていた。
薔薇の館へは行かずに、中庭の涼しくなった風に当たりながら話を切り出す。
由乃に話題の提供を求めると、大変物騒なものになるから駄目だ。

「なんだか、お姉さまに避けられてる気がするのよ……」

「祐巳さまに?」

そんな事ありえないだろう?と由乃。でも実際にそう感じているのだ。
土日だってあんまりデートとかしてくれなくなったし、放課後はさっさと帰る事も多い。
それに……態度が素っ気無い気がしてならない。

「ふ〜ん?あの祐巳さまがねぇ……反抗期じゃない?」

「真面目に考えて欲しいわ……」

「そんな事言われても…でも、やっぱり本人に聞いた方がよくない?」

「お姉さまに?」

「だって、祐巳さまの事は祐巳さまにしか分からないし。駄目なら紅薔薇さまとか」

「蓉子さまね………」

由乃は「私でも出来ることなら協力するけど、今は何も出来ないから」といった。
でも、確かにそうかもしれない。もしかしたら気のせいかもしれないし。
私は由乃に礼を言うと、「帰りにでも聞いてみるわ」「がんばれ〜」と話しを終えた。
これだけ楽観視しているのは、由乃も【ありえない】と思っているからだろう。
予鈴が鳴ったので私達は教室へ向かった。



  ■ ■ ■



そもそも、どうしてお姉さまの態度が冷たいと思ったのか、その説明からだろうか。
詳細を話しているとノロケとか愚痴になりそうで嫌だけど……妹として、そう思うのよね。
どういう風かというと、こんな感じね。
壱・【夢魔】や【天使】はともかく乃梨子の話しすらあっさり流してしまう。
弐・どっかで説明したけれど、触れ合いが少なくなり、デート回数も減少。
参・壱はともかく乃梨子をさりげなく庇う発言までする。……けして嫉妬ではなくてよ。
私の考えすぎ、ならいいのだけど……

私はお姉さまに薔薇の館に残ってくれるようにとお願いした。
「? うん、分かった」と戸惑ったように、だけど頷いてくれた。
ここで断られたりしたら決定打だったのだけど……と、私は少し期待する。
残されたのは私とお姉さま。
どう切り出す?私は深呼吸をした。

「それで、どうしたんです?祥子さま」

「敬語はおやめください」

「あ、あれ……?」

頬を自分で抓っても効果はありませんわよ。
でも……こんな普段の繰り返しとも言えるような会話が嬉しい。というより和む。
悪魔だの夢魔だの正当防衛だの銃刀法改正だの、世界がいくら五月蝿くとも、私達は変わらない。
どこかできっと、私はそれを望んでいたのではないだろうか?
街に警備員が巡回するたびに不安になり、襲われた情報を聞くたびに恐怖する。
目の前にいた人が、次の日にもぅ会えない。
自分のどこかでそんな恐怖が根付いているようで、知らずに不安になっていたらしい。

「お姉さまは、私を避けてなんていませんわよね?」

こうなったら聞いてしまおう。
そして安堵して、また明日にでも【ありえない事だった】と肯定してしまおう。
そんな、願望にも似た感情を抑えて、私はお姉さまを見た。
でも、私を迎えたのは、驚いた表情。バツの悪い表情。そして―――拒絶。

「そんな事……あるわけないじゃない?」

「――――」

嘘、バレバレですお姉さま。
表情が豊かで嘘の吐けないお姉さまだからこそ分かる、不自然な表情。
私はパニックに陥った。嘘ならもっと上手に吐いて欲しいとまで思った。
どうして?
この反応からして、お姉さまは意図的に私を避けていた。
なのに嘘を吐いている。どうして?どうしてお姉さまは私を庇う発言をするの…?

「…………もぅ、いいです……」

「ち、違、違うの祥子、これは……」

「いい訳なんていりませんっ」

避けていた。でも、私を傷付けないように庇っている。
どうして?当てはまる理由が無い。だって、避けるくらいに嫌いなら、そう言えばいいのに!
お姉さまの事が理解できない。妹なのに。お姉さまが、そう望んでくれた存在なのに!

私は館を飛び出した。
避けられていた事を確認して、悲しくて。
お姉さまの妹なのに、お姉さまの事がなにも分かってなくて、不甲斐なくて。
車を呼ばず、バスにも乗らず、私はリリアンから遠ざかる。

不運な事に、人通りのないところで、私は【夢魔】と遭遇した―――。






  ■■ SIDE ―――



必死で。
■■が■■と■■していたから、もぅ理性なんてなくなりそうだった。

また、また私は、大切な人を失うの?
私の■■■■が居なくなる。
どうしてだろう。
どうして、こんなに世界は意地悪なのだろう。

嘆かずにはいられない。

神様なんていない。お釈迦さまも創造主も。
キリストもマリアさまも全部―――全部は人間が作り上げた幻想なのに!

私は、祈らずにはいられない。

やめてください。たすけてください。
どれだけ痛苦を強いられても構いません。どれだけ拷問にかけられようとも構いません。
崇めます。奉ります。ご奉仕いたします。ですからどうか、この些細な願いを叶えてください。

私は、願わずにはいられない。

諸行無常。移ろい行く浮世。
そんな事、とおの昔から知っていた事だというのに―――



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