果てしなく短いですねー……まぁいいか……
祐巳編 【】 弐 【】
蓉子編 【ここ】 弐 【】
祥子編 【No:2680】 弐 【No:2684】
乃梨子編 【No:2672】 弐 【】
由乃編 【】
本編 【No:2663】→【No:2664】→【No:2665】→【No:2666】→【No:2668】→【No:2669】→【No:2673】
→【No:2674】→【No:2675】→(【No:2676】)→【No:2679】→【No:2682】→【No:2683】→
【No:2686】
目の前で寝ている子に、私はとても見覚えがあった。
当時のように子供っぽい髪型ではなく、下ろしてはいたけれど。
私が【この子】を、見間違えるはずがなかった。
前世、人間であった頃の孫。とても人懐っこい笑みをうかべる大切な孫だった。
目を覚ました【この子】は、辺りを見回してから自分の手を見ていた。
小さな手。
とても綺麗な、可愛らしい手。
「目が覚めたのね」
【この子】は私を見て、いや正確には私の背中にある羽を見て自嘲した。
そんな彼女には、当時の面影なんてまるでなかった。
「天使……? 私のお迎えは、悪魔だと思ってたのに……」
「管轄というものがあるのよ、天使には」
「かんかつ……」
何も知らない【この子】は、訝しげに眉を顰める。
私は無言で彼女に白い布をかけた。生まれたばかりの彼女は何も身に纏っていない。
しかし彼女は布を被ったまま、微動だにしない。
ここまで、【あの子】は壊れてしまったのか。
私達の太陽は輝く事を忘れ、まるで廃人のようになっていた。
泣きそうになる。だけど、泣くわけにはいかないのだ。
「貴女の犯した罪は、3つ」
「みっつ……」
私は【アウリエル6代目】として、【この子】に接しよう。
ここは輪廻に含まれないのだから、きっとゆったりとした時間が【この子】を癒してくれる。
そう自分を叱咤して、私は言わなきゃいけない事を話した。
なのに、【この子】は「罪を償わなければならない」と言った私に目を瞑って見せた。
まるでマリアさまに祈るように、手をしっかり組んで。
そして小さく俯いた事で、私は斬首刑を思いおこした。
殺して。
そう言っているようで、私は悲鳴を飲み込んだ。
やめて。【貴女】がこんな事をする必要はないのだから。
生前からよく私の【妹】とすれ違っていたけれど、もしかして原因はそれ?
あああ、意味はない。こんなところで原因を知ってどうする。
私は口を開いた。
もぅ、私には【見守る】という事なんて出来そうもなかったから。
「私の妹になりなさい。そうしたら、罪の償い方を教えてあげる」
【この子】は生前のように表情を変え、最終的には頷いてみせた。
きっと償い方を知りたかったのだろう。
私は少し安堵した。
まだやり直せる。【この子】は消滅を選ぶ事なく、天使として生きられる。
抱きしめた身体はとても小さくて、私は涙を浮かべそうになった。
強く強く抱きしめると、彼女は頬に川を作っていた。
■ ■ ■
彼女は地上時間で1年という歳月をかけて元気を取り戻した。
人形のようだった子が、私の補佐として、また私の妹して勉強をしている。
勉強の時は「もぅやだ〜〜」という表情を見せるようになった。
お茶の時は「美味しいですか?」と顔で聞いてくるようになった。
昔の親友のように、私は百面相、と呼んだ。
最初に呼んだ時は泣きそうになったけど、きっと懐かしんだのだと思う。
「美味しいわ」
「はい!」
嬉しそうに抱きついてくる【この子】を見て、私はただ微笑んだ。
ゆっくり傷を癒していきたい。
そして、いつの日にか自分から「人間になりたい」と思ってもらいたい。
また輪廻の世界で会いましょう?そんな、些細な目標があった。
「祐巳、おかわりしてもいい?」
「勿論ですっ お姉さま!」
地上に夢魔が現れるだとか、【あの子】の親友の妹が天使になっただとか。
その頃の私には知るよしもなかった。
本当は、もっと傍に居てあげた方がよかったかもしれないわね。
だって、あんなに【笑顔】を作るのが上手になったなんて、気付かなかったから……。