【2690】 ダウト!電波的な祐巳  (さおだけ 2008-07-05 00:38:42)


ついやっちゃいました。
Keyが私を誘惑するみたいに面白く出てくるものですから…
ついでしたが、反省という概念が無いという事ももののついでに謝罪します♪(おい

ちなみにクロスものですが…ブギーポップが分かるなら大丈夫でしょう♪
ヤマなしオチなし意味不明ですが、原作が分かる人ならうなづいてくれる、かなぁ。
…………まぁいいや、とりあえず天使の話しを進めなちゃな……。






放課後、誰かに【体育館裏】に呼び出されたら、普通はどんな事を思うだろう?
もしも相手が異性なのなら、どこか青春めいた想像をするかもしれない。
でもここはリリアン。つまりは乙女の花園である。
それなのに体育館裏に呼び出したのが異性だったら通報ものだ。
つまりは同性、同世代の女の子達という事になる。これはいいだろうか?
次に付け足すべき事項は、私tが【紅薔薇の蕾】だという事だ。
つまりは相手が【紅薔薇の蕾】として呼び出したのか、【私】として呼び出したのかで話しは変わってくる。
私は手紙で放課後の体育館裏に呼び出しされたのだが、相手も用件も分からない。
手紙にか一言、『お話した事があります』とだけ。
注目を集める私という立場に居る人間なら、多少の揉め事もありそうなものだ。
私1人で解決できるか。つまり問題はそこなのである。

「お待ちしておりました」

「………」

私をそこで待っていたのは、このリリアンでは珍しい、というか世間一般でも珍しい髪型の少女。
小柄な体躯からは下級生を連想させるが、如何せん顔の半分が見えない。
茶色のちょっと癖のある髪を下で二つに結び、顔は前髪で見えないという。
何、この子。
待っている者は他にいないし、待っていた発言からも手紙の差出人は彼女だろう。
彼女は鞄を両手で持ってチョコチョコと私の元へ駆け寄る。

「小笠原祥子さまでいらっしゃいますか?」

「え、ええ……」

「お会いしとうございました」

そのまま駆け寄った勢いを殺す事なく、彼女は私の足元に跪く。
一瞬具合でも悪くなったのかと背中をさすってやろうと思う。
しかし彼女はそのまま上を向き、口を開いた。

「我が身は貴女の領土。我が心は貴女の奴隷。
 我が主、小笠原祥子さま。貴女に永遠の忠誠を誓います」

私らしくもなく思わず固まっていると、彼女は私の靴にキスをした。
祥子は飛び退いた。
この子、私の靴にキスをしたの?しかも奴隷だの忠誠なの、言っている事の意味が分からない。

「あ、貴女、なんなの?」

「私は祥子さまの下僕です」

「下僕?下僕ってどういう意味か分かってるの?」

「祥子さまの為に働く人間のことです」

「働くって、何を?」

「何でもいたします」

日本語だし、ちゃんと言葉も通じているのに。
私にはこれ以上この子と話しても無駄なように思えてきた。
なんというか、この子は精神的波長が自分とは極度に違っているように思うのだ。
私は彼女に背を向けて走りだす。
後から呼び止める声が聞こえたが、無視をして。
私がこんなに尻尾を巻いて逃げ出すなんて、生まれて初めての試みだった。
ちなみに淑女を目指すこの学園内で走ったのも初めてだった。



  ■ ■ ■



私は薔薇の館で溜息を吐いた。
さっきの体育館裏での出来事が溜息の原因である。
祥子の溜息を珍しいと思った紅薔薇こと水野蓉子が首をかしげる。

「どうしたの、祥子」

「………なんでもありませんわ」

こんな事、お姉さまに言えるわけがない。
突然下僕を名乗る下級生に靴にキスをされた、なんて事。
それにしても……あれはなんだったのだろうか。もしかして紅薔薇の妄信者?
ありえなくはない。ああいう子に限って噂を丸呑みしそうだ。
私は溜息を吐く。
アンニュイな江利子さまのような雰囲気は、本人を喜ばせるだけなのに。


なんとか仕事を終えると、私はさっさと帰ろうって事になった。
早く帰ってシャワーでも浴びればすっきりすると思うし。
が、祥子の期待はあっさり打ち破られた。
マリア様の前で祈りながら立っているのは、あの子なのだから。

「…………」

声をかえようかと悩む。
というか声をかけたくなかった。係わりになりたくないし。
しかし彼女は祥子が固まっている方を見て、口を開く。
その行動に淀みは見られなかったし、気がついていたのだろう。

「ごきげんよう、祥子さま」

「ご、ごきげんよう」

顔は見えないけれど、挨拶が普通だったので安心した。
そりゃ普通は初っ端から下僕発言をするとは思えないけど、前科があるし信用はできない。
ちょっと警戒態勢に入りながらも、私はマリア様に祈った。
祈る事が隣の彼女のことなのだから、結構笑えない。

「……………ねぇ、」

「はい、なんでしょう」

「貴女名前は?」

「福沢祐巳と申します」

「そう……」

やっぱり言葉は通じている。
もしかしたらさっきの言動は私の頭の中で翻訳しきれなかった語彙がバグでも起したのか。
ありえない事でもないかもしれないと、私は彼女――福沢祐巳さんを見る。
相変わらず顔は見えないけれど、とても柔らかい雰囲気を感じる。

「貴女は……私の、何?」

「?」

意地悪な聞き方だっただろうか。
だけど今の私には他の聞き方を知らないし、ストレートで聞こうと思った。
ここで【下級生】とか【後輩】、またはそれに順ずるものを言われたなら、私は―――

「何を言っているんです?私は貴女の忠実なる下僕。ただそれだけです」






私は、何を言おうとしたんだっけ。
紅というか黄色に染まりつつある空を見上げながら、私は今日で一番大きい溜息を吐いた。
天然なのか、隣の彼女はさっきのお姉さまのように首をかしげるばかり。
でもそんな仕草が可愛らしいと思うのは、序々に彼女色に染まろうとしているからなのか……

「そろそろ帰らないと、お身体に障ります」

「そうね……」

そろそろ夏が来るとは言え、まだ少し肌寒いものね。
私は極めて脱力しながらも帰路につく。
暗くなりそうな夜道で私を送る、なんていうものなから、私は車を呼んで帰らせた。











  ■ ■ ■



「朝起きたら夢だったなんて、そんなオチを期待したのだけど……」

「何か夢にしたい事でもあったのですか?」

「いえ、夢の話よ」

「そうですか……?」

彼女が私を【主】と呼ぶようになって早1ヶ月。
否定し続けた話しも今では笑い話にするまでに諦めがついた。

出会って1週間後には、お昼を一緒に食べるようになった。
自分で作ってくるというお弁当を見ておかずを交換したりもした。
出会って2週間後には彼女の前髪を整えた。
本当はとても可愛らしい顔で、しかもよく表情が変わるという事が分かった。

それからまた暫くして、私は彼女を祐巳と呼ぶようになった。
【主】と【下僕】の話しを聞くと【前世の因縁】を持ち出すところが未だに分からないけど、どうでもいい。
そろそろ夏休みに入って、この子とは会わなくなるのかもしれない。
でもそれを寂しく思う自分がいて。
私は別荘に彼女をつれて行こうと計画している。
私は【主】だから、一言言えば絶対にしたがってくれるし。

「祐巳、夏の予定は決まってる?」

「祥子さまの為以外の予定など、予定のうちにはいりません」

「そう。なら―――」

割り切って付き合えば、彼女の隣ほど居心地のいい場所などない。
リアリストの彼女の隣で、今日も私はマリアさまに祈った。




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