【2700】 マヨネーズ入りプリン三分クッキング美しき姉妹愛  (MK 2008-07-08 17:52:46)


 作者 注:いつものように誰かさんが黒いかも知れません。そこに注意してお楽しみ下さい。
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「ふんふ、ふんふ、ふ〜ん」
 私のすぐ隣から明るい鼻歌が聞こえてくる。
 誰であろう、私のお姉さま、私の愛しい人、私の大切な人、福沢祐巳その人である。
 そのお姉さまが、土曜の午後、私の家、同じキッチンでボウルの中身をカチャカチャとかき混ぜている。
 これを幸福と言わずして何と言おうか。

 カチャカチャカチャカチャカチャ、ぴた。
 しかもエプ、エプエプ、エプロンを着けて。正に眼福。

 カチャカチャカチャカチャカチャ、ぴた。
 普段も料理は作っているけれど、今日はいっそう力が入るというもの。

 カチャカチャカチャカチャカチャ、ぴた。
 正に至福。

 カチャカチャカチャカチャカチャ、ぴた。
 ………。

「お姉さま、先程から時々手が止まっているようなのですが」
 カチャカチャカチャ、ぴたり。
「あ、あははは。いや、瞳子のエプロン姿が可愛いなあって」

 ぼんっ。
「お、おお、お姉さまっ。私を見るより、手を動かして下さいっ。手をっ」
 はあはあはあ。耳まで熱いのが自分でも分かる。
 マリア様、幸せなのはいいのですが、このままでは死にそうです。いえ、死にます。

 カチャカチャカチャカチャカチャ…。
 再び、台所に規則正しい音が鳴り響き始めた。
 私たちが遅めのお昼用に食事を作っているのには訳があって…。



「料理の修行中?」
「そう。お姉さまのね、料理の腕を少しでも学んでおきたいなあって思って」
 木曜日のお昼休みの時間、お姉さまと由乃さまがそんな話をしていた。
「まあ、でもまだまだなんだけどねえ。切り方にしても色々あるし、煮方、焼き方とか。お姉さまってば、料理教えてって頼んだら、泣いて喜んだのに、教えるときは細かいところまで、びしばし厳しいんだもん。やんなっちゃう」
「あははははは」
 やんなっちゃう、と言った割には由乃さま、かなり嬉しそう。やっぱり愛しいお姉さまと一緒だからだろうか。
「それでね。今度の土曜もさ…」

「あ、そうだ。瞳子」
「はい、お姉さま」
 由乃さまの延々と続く、最近の苦労話という名ののろけ話をあっさり放っておいて、お姉さまが尋ねてきた。
「今度の土曜日のお昼とかって空いてる?」
「はいっ、空いてます。空いてますよ、絶対」
 即答。いえ、考える前に体が動く、とか言うアレである。たとえ空いていなくても、空けるつもりでいたけれど。
「それじゃ、さ。土曜のお昼、一緒に料理しない?」
「はい、喜んでっ」
 考える前に以下略。
 向かいに座って、志摩子さまと仲良くお昼をしていた乃梨子が、手を止めてこっちに向かって変なジェスチャーを…。え?やめとけ?
 いいえ、これはまたとない機会です。姉妹になりたての私たちが仲を深める為の、これは言わば、試練です。
 …いえ、試練ではなくチャンスです。チャンスなのですから、絶対。

「それじゃ、ウチで作る?」
「いいえ、お姉さま。ぜひ私の家で」
「いやいや、私が誘ったんだからさ、ね?」
「いえいえ、ここは妹である私が」

 こ、この状態は。『喫茶店でどちらがお勘定を支払うかレジ前で押し問答を繰り広げている奥様方』の図。第三者が介入するか、どちらかが決定的なカードを切らないことには収まらない泥沼の合戦。しかもこの場合、間を取って祥子さまの家で、なんて手段は使えない、否、使いたくない。
 自分としても第三者の介入で、あらぬ方向へ話が持って行かれ、折角のお姉さまのお誘いが水の泡になることだけはどうしても避けたい。ここは第三者の介入が入る前に、自分が持っている『決定的なカード』を切らなければ。
 お姉さま、私とお姉さまとの間で唯一私がお姉さまに勝り、お姉さまが超えられない壁というものを、ここでご覧にいれて差し上げます。(この間、約0.5秒)

「お姉さま、私の家のキッチンならば様々な食材が使い放題です。それに全ての食材は独自のルートで仕入れた物。生産者の顔まで分かる代物です。安全性も問題ありません。世界の食材をお姉さまが調理出来るんですよ。お姉さまの腕の見せ所です。と言う訳で、私の家にいらっしゃいませんか」
「…いや、私そこまで料理人じゃないし」
 どこで間違えたのか、お姉さまに瞬殺された。しかし、ここで引き下がっては切り札の意味がない。
「…世界中の甘味が揃っているとしても?」
「んじゃ、瞳子の家で作ろっか」

 フィーッシュ!
 釣れた、釣れました。
 と、まずは第一関門突破したという気分になり、少し浮かれていた。その為、お姉さまの不意打ちに私は無防備だった。
「それでね、マスタード・タラモ・サラダ・サンド作りたいんだけど、どうかなあ。瞳子好きだよね」
「は、え?」
「それと何かデザート作りたいよね。簡単な所でプリンなんかどうかなあ」
「は、はあ。って、何で私がマスタード・タラモ・サラダ・サンドを食べるのを知ってるんですかっ」

 自分が時々食べているのに言うのもどうかとは思うけれど。
 ミルクホールに売っているパン類の中で、マスタード・タラモ・サラダ・サンドは置いてある数が少ない。それはとりをもなさず人気が低いことを示しており、どの程度低いかと言うと、あんパンを十とすると、マスタード・タラモ・サラダ・サンドは一かそれ以下である。
 因みに姉妹になってからは、一緒に食べる時は割と弁当を作ることが多く、パンは朝に時間の余裕がない時くらい。更に言うと、マスタード・タラモ・サラダ・サンドは今のところ、お姉さまの前で食べていた覚えはないのだけれど。
 い、いえ、お姉さまに私の嗜好が知られても困る訳ではありません。
 ありませんけれど、気にはなる訳でして。
「あれ、何だったっけ。忘れちゃった、あははは」
「もう、お姉さまは。全く」
 忘れちゃった、と言いながら、お姉さまが乃梨子の方をちらりと見たのを私は見逃さなかった。
 おそらく、乃梨子と、そして恐らくは私のことも想って、『忘れた』と言ったのだろう。
 乃梨子も、そんなお姉さまの百面相に気づいたようで、口だけで『ごめんね』と言ってきた。

「お姉さまは好きな具材はありませんか。タラモサラダだけでは彩りに欠けます」
 私は、先程のことには触れず、話を進めることにした。
「そうだね、ツナマヨサラダなんてどうかな」



 そして今日、私の家の台所で、私とお姉さまが並んで遅いお昼を作っているところである。
「これ位でいいのかな」
「はい、グラニュー糖と牛乳が混ざれば大丈夫ですよ。それでは先程かき混ぜた卵と合わせて、均一になるまで混ぜて下さい」
「はーい、分かりました。先生」
「お姉さまっ」
「えへへへへ」
 私が料理の手順を教えながら作業を進める内に、いつの間にか先生の位置づけになっていた。
 私はというと、ジャガイモが茹であがる間に、たらこの皮を取って、牛乳・レモン汁・塩と混ぜ、一方でツナ缶を開け、こちらはマヨネーズと水切りした少量のタマネギ、塩こしょうと混ぜ合わせて…と。
「お姉さま、味見は後でお願いします」
「あ、ごめんね。甘い物を見ると、つい」
「お姉さま」
「…はい」
 おあずけをされた子狸がしゅんとした感じが可愛いらしい。…ではなくて。
「お姉さま、そちらを濾し器に通してバニラエッセンスを入れたら、こちらで食パンを切って貰えますか」
「うん、分かった」

 茹であがったジャガイモの皮を取り、つぶして先程のたらこを加え、よく混ぜ合わせて…と。
「お姉さま、パンの耳を食べないで下さい」
「あ、お腹空いちゃってたから、つい」
 いつものお昼の時間はとうに過ぎているのだからしょうがな…むぐ。
「瞳子もお腹空いてるから怒りっぽいんだよ、ハイあーん」
 と言いながら、パンの耳を私の口に押し込むお姉さま。
「おねえふぁま」
 むぐむぐ、と抗議の声を上げながら、心の中では激しいビートを刻む音楽を大音量でかけながら、暴走した真っ赤なスポーツカーが駆け抜けて行った。

 こ、これは、この状態は。『新婚さんが一緒に料理をしながら、奥さんに味見をして貰う際についあーん、としてしまった』もしくは『新婚さんが一緒に料理をしながら、何か言おうとして振り向いた旦那さんの口についあーん、としてしまった』状態。
 あーん、とされてしまった方は何も言えず、口に放り込まれた物をもぐもぐと咀嚼する以外にない訳で。
 実際、お腹が空いていた私は抗議の声はそれだけで無くなり、もぐもぐもぐと…。
「そういえば、余ったパンの耳ってどうしてるの?」

 もうなんと言うか。
 激しくビートを打ち鳴らす私の心のうちを知ってか知らずか、のほほん、と聞いてくるお姉さま。
 こういうところが………いいんですけれど。
「冷凍してパン粉とかですよ」
「ふーん」
「ふーん、とか言いながらパンの耳を口に運ばないで下さい」
「もぐもぐ…ほふぁ、とうこも」
「だからお姉さ…むぐ」

 などと脱線しながらも、私はサンドの具材を混ぜ終わり、お姉さまの方もプリンの生地をカラメルを入れてある型に流し込んで蒸し器へ。
 お姉さまがちょっと手間取っていたようだけれど、プリンはこのまま二十分ほど蒸して出来上がり。
 パンにマーガリンとマスタードを塗ってから、具材を挟み込んで斜めに切って、お皿に盛りつけ。これでサンドは出来上がり。
 残った具材とレタスでサラダを盛りつけて、完成。

「出来ました。お姉さま。プリンは食べ終わるころには出来ますよ」
「わあ、美味しそうだねえ」
 お姉さまが満面の笑顔で料理を見つめていると…
 くぅ〜〜〜〜〜。
 二人のお腹が、早く食べ物を入れてくれ、とばかりに同時に鳴りひびいた。
「………くくっ」
「………ぷっ」
「「あははははははは」」
「じゃ、早く食べよっか」
「はい、お姉さま」

 二人で料理をテーブルに並べて、向かい合って座る。
「「いただきます」」

 私は、お姉さまが一口目を食べるのをドキドキしながら見つめていた。
「…瞳子、そんなに見つめてちゃ食べにくいよ」
「お姉さま、ごめんなさい。でも…気になって」
「ふふ、瞳子の作ったものなら美味しいに決まってるよ。じゃ、改めて頂きます」
 お姉さまはそんな感激で涙が出そうな台詞を言うと、マスタード・タラモ・サラダ・サンドを頬張った。

 ぱくっ、もぐもぐもぐもぐ…。

 ドキドキ。
 美味しいだろうか。
 もし失敗していたらどうしよう。
 でも味見はしたし。
 ドキドキドキ。
 そんなことが頭の中でグルグルと回っていて、お姉さまのその一口目を飲み込むまでがひどく長く感じられた。

 …ごくん。

「ん〜〜〜〜〜〜」
 びくっ。
 お姉さまの、そのうなり声に一瞬悪い予感がして私は体を震わせた。
「〜〜〜おいしっ。瞳子、美味しいよ。タラコのぷちぷち具合とかサラダのシャキシャキ具合とか最高っ」
 ほっ、良かった。
 タラコのぷちぷち具合とかサラダのシャキシャキ具合とか、よく混ぜ合わせた甲斐が…ってあれ?
「お姉さま、それは味ではなくて食感の感想じゃないですか」
「はう。…えーと、タラコの海の香りとかマスタードの清々しい匂いとかが」
「それは香りの感想です。…お姉さま、お口に合わなかったんですね」

 好みの分かれるマスタード・タラモ・サラダ・サンド。
 その嗜好の分かれ目というものの前では、私の料理の腕など…としゅんとしていると。
「いやいやいやいや、瞳子。美味しかったのは本当だから、本当だから、ね」
「でも、お姉さまはお味の感想をおっしゃっては下さいませんでした…」
 あわてて駆け寄り弁解するお姉さま。でも私は落ち込んだままで。
「そ、それは…。ちょっと…ね。あの…」
「不味かったなら不味いとおっしゃって下さい!そちらの方がまだましですっ」
 くわん。
 私の声の余韻が部屋に響いた。その後にしんとした静寂が部屋を支配する。
 ゆらり。
 お姉さまの姿が揺らぐ。感情が高ぶりすぎたようだ。

 お姉さまは怪獣だ。その前では、私は自分を制御することすらままならない。
 私はうじうじとし始めた。その一方でたかが料理くらいでなどと思っている。

「………辛くて」
 私の思考がぐるぐるとし始めた頃、お姉さまが口を開いた。ぽりぽり、とほっぺたを掻いている。
「…今日のは明太子ではなく、ただのタラコですよ」
 うじうじしていた私は軽く睨みながら、そう返した。
「いや、パンの端っこにマスタードの固まりが付いててさ…それで」
「お姉さまのは、少なめにしておいたはずですがっ。そんなでまかせなど聞きたくありませんっ」
 そう言いながら、頭に血が上っていた私は、先程お姉さまが食べていたサンドを手に取ると、そのまま自分の口に運んだ。
 冷静であったなら、ふちにべっとり付いていた黄色の固まりに気が付いていただろう。それに、食べる場所にも注意が回っただろう。

 その時の私は冷静ではなかった。
 だから、黄色い固まりが残っている、お姉さまが一口目を食べていた場所に私は囓りついていた。
「あ」
「…!!!」
 その時、私の口の中に広がったのは、タラコやジャガイモの味がかろうじて感じられるマスタードの辛味だった。

「ん〜〜〜〜〜〜」
 それは奇しくも、先程お姉さまが一口目を食べた時に出したうなり声。
「と、瞳子。はい、水っ」
 ごきゅごきゅごきゅごきゅ、ぷはっ。
 私はお姉さまが手渡した水で、口の中のものを流し込んだ。
 その後で、私は涙目でお姉さまを見つめた。
「お、おねえさ、ま…」
「ん。何かな、瞳子」
「マスタードが残ってて辛いなら辛いとおっしゃって下さいっ。さっきのうなり声は辛さを我慢していたんですね。変に食感とか香りの感想にこだわるから不味かったのかと思ったじゃないですか。大体、これではマスタードそのものです。何かの罰ゲームですか。そうすると、私はお姉さまに罰ゲームをした極悪人ですか。それなのに、お姉さまは食べた直後に水も飲まずに、満面の笑顔で美味しいなどと。正気の沙汰ではありません。お姉さまの舌がどうかなったらどうするんですかっ」
 ぜはーぜはー、ぜはーぜはー。
 マスタードの辛さと、感情の奔流に流されるまま叫んだので、私の喉がどうにかなりそうだった。
「…瞳子」
「なんですか」
「ごめんね。折角、初めて作ってもらった料理だから、何か言わないとなあって思って。まあ、辛かったのは辛かったんだけど、瞳子の、手作りだったから、ね」
「………はい」
 お姉さまの素直な感情が入り込んできて、私は今度こそ素直に頷いた。

「それにしても瞳子」
「何です?お姉さま」
 席に戻ってから、お姉さまが少し照れながら話しかけてきた。
「いくら気が動転していたからって、食べて確認しなくても」
「そ、それは、その…ごめんなさい、お姉さまを疑うなんて」
「いや、いいんだけどね。ただ…」
「ただ?」
「間接でも恥ずかしいなあ、と」
 お姉さまは、囓り取られてるサンドの端を指さすと、さっき私に手渡したグラスに水を注ぎ、やっぱり辛かった、とばかりに飲み干した。

 ぼんっ。
 お姉さまは怪獣だ。その前では、私は何も対抗することが出来ない。
「お、おお、お姉さまっ」
 また私の声が部屋に響いた。



 ピー、ピー、ピー。
 私たちがメインのサンドを食べ終わるくらいに、キッチンからタイマーの音が聞こえてきた。
「あ、プリン出来たみたいだね」
「あとは水で冷やせばそのまま食べられますね」
 蒸し器から取り出して、水に浸す。じゅわっ、という音と共に湯気が立ち上る。その中に甘い香りが混じっていた。
「おー、上手く出来たみたい」
「お姉さまのおかげです」
「瞳子の指導が良かったからだよー」
「うふふふふ」
 明るい雰囲気の中、二人でプリンを並べる。
 今回作ったのは四個。一人二個のプリンがテーブルに並べられた。
「じゃあ、改めて…」
「「いただきます」」

 ぺちぺち、ぷよんぷよん。
 スプーンで軽くつつくとプリンがゆっくりと揺れた。柔らかさも大丈夫みたい。
「うん、美味しい。良い感じに出来たみたいだよ。瞳子」
 お姉さまが明るい笑顔でそう言った。それを見て私もプリンにスプーンを付ける。

 おや。
 プリンの中にカスタードの黄色とは違う、白いクリーム状の固まりが入っているのを見つけた。
 クリームプリンの予定はなかったし…と、プリンを流し込む所でお姉さまが手間取っていたのを思い出す。
「お姉さま。プリンに何か入れましたね」
「あ、分かった?瞳子をびっくりさせようかなと思って。名付けてびっくりプリン。どう?」
「どうって、お姉さま、ネーミングがそのままです」
 まあさっきみたいな、マスタードが一杯などというアクシデントはないだろうな、と私はプリンをそのまま掬い取った。
「でも、これは何です?生クリームを混ぜる時間なんてなかったはずですけど」
 作り置きの生クリームとかあったかしら、それともクリームチーズかしらと考えながら、私はそのプリンを口に運んだ。

「生クリームなんかじゃないよ。マヨネーズをね、ぐりっと入れてみました」
 ぱく。

 口の中に広がるカスタードプリンの甘味。
 その甘味を感じたかと思えば、甘味を弾き飛ばしてやってくるマヨネーズのコクと酸味。
 その後で申し訳なさそうにやってくるカラメルの苦みと甘味。
 それらが渾然一体となって生み出される、素晴らしきハーモニー。
 …不協和音でした。

「お、お姉さま」
「美味しい?」
 見ると、先程の私がしていたように、少し心配そうな、しかし笑顔で私を見つめるお姉さま。
「はい、美味しいです」
「わあ、良かった。瞳子の口に合って良かった」
 マリア様、ごめんなさい。私は嘘を吐きました。
 でも、お姉さまの笑顔を崩したくはなかったのです。
「はい、お姉さまの作ったプリン、美味しくていくらでもいけそうです」
 心の中で懺悔をする私に、天は裁きをもたらした。

「あ、じゃあ私の分、一つあげるね」
 満面の笑顔でプリンを差し出すお姉さまに、私は笑顔で頷くしか術はなかった。



「瞳子、また一緒に料理しようね」
「はい、お姉さま」
 帰りの玄関口で、靴を履いたお姉さまは笑顔で私を振り返った。
「…瞳子、ありがと」
「なんです、お姉さま。改まって」
 少し照れくさそうに、私の頭に手を乗せると、そのまま『なでなで』をした。
「五十九回」
「何のことです?それに、これは…その、恥ずかしいです」
 お姉さまは『なでなで』をやめると、私に『ぎゅー』っと抱きついてきた。
「お、お姉さまっ」
「六十回。今日は瞳子の『お姉さま』を一杯聞けたからね。私が『瞳子』って言った分の倍くらい。これは、その分のお礼」
 お姉さまは、体を離すとカバンを置いてから、『ぎゅー』で曲がった私のタイを結びなおした。
「ね」
「…はい」
 そして私はお姉さまのタイを。
「それじゃ、またね」
「はい」


「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」


 お姉さまは怪獣だ。それはもう色んな意味で。


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