【2701】 記憶飛んだの私を助けてくれる人  (さおだけ 2008-07-08 18:41:58)


そろそろ祐巳を回復に向かわせなければ……。

祐巳の章  【No:2692】(再会編) 【No:2694】(過去編)
蓉子の章  【No:2687】(始り編) 
祥子の章  【No:2680】(再会編) 【No:2684】(過去編)
乃梨子の章 【No:2672】(始り編) 【No:2697】(現世編)
志摩子の章 【】(再会編)
由乃の章  【No:2696】(前世編)

本編 【No:2663】→【No:2664】→【No:2665】→【No:2666】→【No:2668】→【No:2669】→【No:2673】
    →【No:2674】→【No:2675】→(【No:2676】)→【No:2679】→【No:2682】→【No:2683】→
    【No:2686】→【No:2695】→【ここ】




  ■■ SIDE 瞳子



私が悪魔になったそもそもの原因は、乃梨子さんが自殺をしたから。
うつ病にでもかかったかのように空ろで空虚極まりない乃梨子さんが死んだ。
その時、私は傍に居たのに止めなかった。
【死ぬな】なんて慰めを言ったところで、乃梨子さんが救われるはずもない。
だから「死にたい」という呟きを聞いた時「そう」としか答えなかった。

「お姉さまっ!」

叫んでから私は自分のミスに気がついた。
しかし隣の乃梨子さんは気付かない。頭の中は【お姉さま】で一杯のようだ。
ばれても問題はないけれど、今は黙っておこう。
乃梨子さんの情報処理レベルの限界を超えてしまいますものね。

「乃梨子さん、祐巳さまは!?」

「あっち!」

どっち!なんてお約束を聞くつもりはないけれど、本当に迷った。
後から一目散に乃梨子さんが飛んでったので付いていく事が出来た。
天使だから、天使であるお姉さまの居場所が分かるんでしょうね……
ちょっと羨ましい。
私だって【お姉さま】の妹ですのに……だいたい5〜6回前の世界では。

乃梨子さんについていくと、だんだん天使の数が増えていった。
さっきまで殆ど居なかったのに…もしかしたら祐巳さまが危険な状態だから?
不安が募る。

「そこの悪魔、そこで何をしているの?」

「アウリエルお姉さまの友達だから干渉しないでっ」

乃梨子さんが私を呼び止めた天使に言い放つ。
アウリエルさまの友達、という言葉は効果絶大のようだが、いかんせん気に入らない。
悪魔だけど……悪魔ですけどお姉さまの妹なのに……

「妹さま、アウリエル7代目はこちらです!」

「今いく!」

ビルに沿って飛んでいる天使の1人が上を指して呼ぶ。
という事は祐巳さまはビルの屋上に!
私は乃梨子さんのように鳥っぽくない、蝙蝠のような羽を広げ、飛ぶ。
乃梨子の視線を感じたけれど、今は気にする余裕がなかった。
お姉さまお姉さまお姉さま!
絶対に消滅とか馬鹿げた死に方だけはしないでくださいねっ!



  ■■ SIDE 祥子



いろいろと忘れられてる気がするが、まだ病院の敷地内にいた。
蓉子さまは私の後ろを歩いて付いてきてくれている。ちょっと警戒している感じだけど。
………まぁ突然殴りにかかったら警戒くらいするか。もっと殴りだかったけど……。

「えと、それで祥子ちゃん。どうやって記憶を取り戻すのかしら?」

「蓉子さまは病院で引篭もっていたので、とにかく歩いてみます」

「…………………そう」

無計画のばれた瞬間だった。
そんなところに救世主という名のタヌキが飛んできました。
茶色の天使っぽいタヌキは私達を見て「………なにしてんの?」という。
とても渋い顔をして。

「どうやって記憶を取り戻すのか分からないのよ」

「………そうよね、何も言わなかった私が悪かったのよね。ごめんなさい」

「なんか腹が立つから謝らないで頂戴」

タヌキは私の頭にちょこん、と座る。
溜息を吐いてるタヌキを振り落とそうかとも思ったけれど、とりあえず無視。
もしかしたら協力しに来てくれたのかもしれないのだから。

「それでポポ、どうすればいいの?」

「そうね……とにかく蓉子には色々と覚悟をしてもらうわ」

「私?」

ポポは蓉子さまに向き直り、疲れたような声を出す。
と、一瞬だけ表情を苦痛にゆがめた。
しかし祥子の上にいるので蓉子にしか分からないのだが。

「ポポさん?」

「………なんでもないわ。それより、記憶喪失のそもそもの原因が何だかわかる?」

「夢魔に襲われたから…ではないの?」

「違うわ」

溜息ひとつ追加。
私達はポポの言葉にただ戸惑う事しかできない。


「蓉子の記憶喪失、根本的な原因は【忘却】って言う力が掛けられてるのよ」



  ■■ SIDE ポ―――



痛い。
胸部辺りがズキズキする。
もうそろそろモタナイかもしれない。
でも、このままにしては壊れてしまう。
何が?
全てが。

「蓉子に忘れさせたい記憶があって、それを祐巳が消したの」

「記憶ってのは【人格】形成するいわば人間の材料」

「それを消すってのは存在の根本的否定を意味するのよ」

分かる?
ちょっと詳しく説明する時間がないけど……
適当に理解してくれればいいわ。

「蓉子を【殺した】のは祐巳の罪。天使は罪の重さの【力】を与えられる」

「力を削り続けて、力がなくなったときに強制的に天使は廃業させられる」

「反省ってのが一番の近道だけどね」

ズキンズキン……!
【私】と一緒にくっ付いてきた【祐巳】の一部が悲鳴を上げる。
「やめて」「言わないで」「嫌われたくない」「死にたい」「放っておいて」

「ともかく、【それ】を消すためには方法が2種類あってね……」

「他者の手によって強制的に思い出すか、自らが【それ】を打ち破るか」

「どっちにしろ、覚悟がないなら知らないふりでもして寝なさい」

「待っている時間がないから、思い出したいなら強制的にでも……」


壊れかけの硝子に、また新たに砂が入れられていく。
これではいつまでモツのか分からないじゃないか。
胸が痛む。
とうとう祐巳が耐え切れなくなった【力】が私にまで流れ込んだか。
乃梨子は……瞳子は、間に合わなかったのかしら……


「もう、駄目……」

私は祥子の頭から滑り落ちた。
咄嗟に祥子が拾ってくれたからよかったものの、落ちたら衝撃で消えかねなかった。
もともと【物体】としては不安定極まりない身体なのだから……。

「悪いわね、時間がないから強制的にいくわ……」

【私】の中で何かが膨張する。
理解したらのまれてしまう【何か】が、私の中で膨張する。
どす黒いそれは【私】という理性の塊を食い荒らす勢いて侵略してくる。
痛い。
私が、居なくなる……!

「……私は、謝る事なんてしないから……っ」

【私】の一部が蓉子に向かって飛んでいく。
縫い包みだった私は、黒い燃えカスのような物体に変わり、消えた。

私の一部が蓉子達の頭に直接呼びかける。
どこかに【見ている】意識はあるのに、私自身どこにいるのか分からない。
まるでテレビ画面を見ているような状況が、しだいに砂嵐にかき消されていく。


    どこかで、私は【祐巳】と再会する。

                     泣いているあの子を慰めようと、私達は融合する。

                                そして、私達は、

 痛みを感じるとこすらなくなって、ただ、【何か】にのまれていく。

       ああ、これは憎しみか。

                       お前は世界が嫌いだものな。
             
              まぁ、私も世界は好きではないわ。

    くるしい。








  ■■ SIDE 乃梨子



お姉さまが胸を押さえて蹲っていた。
顔面蒼白で、額には脂汗が滲み、歯を食いしばって。
あの美しい羽はまるで水分のなくなって萎れた植物のようになっている。

「お姉さまっ!!」

「祐巳お姉さまッ!」

瞳子が泣きそうな顔で叫んだ。
お姉さまの身体は冷たくなっており、触ると黒い【何か】が私の中へ伝わってきた。
私は思わず手を離す。これが【夢魔】に汚染された存在………。
恐怖で顔が引きつる。
しかし隣の瞳子はそんな事全く考えすらせずに、お姉さまを抱きしめる。

「お姉さま、しっかりしてください!」

泣きそうにまで歪んだ瞳子の瞳に映るのは、恐怖。
しかしそれはお姉さまという【汚染された存在】にではない。

「お姉さま、お姉さま、お姉さま!!」

祐巳お姉さまが居なくなるという事に対しての【恐怖】。
私は自分を叱咤し、祐巳お姉さまの容体を身近の天使に問う。
いくら呼びかけても返事すら出来ないお姉さまに、自然と涙が浮かびかかる。

「救済処置の方は!?」




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