【2737】 情け無用の本気モード誰も彼も  (若杉奈留美 2008-08-25 09:32:32)


「激闘!マナーの鉄娘」シリーズ。


(第3戦・レジスタンス登場!)

決戦の場は、ホテルを出てとある住宅街の一角に移された。

「第3戦は紅薔薇チームの戦いです。
今回は前2戦とルールが変わりまして、旧世代・次世代から代表1人、アシスタント1人を出して戦います。
舞台はこの2軒のお宅。
選手は1日主婦となり、このお宅の主婦の代わりに家事を全部引き受けます。
試合終了後に奥様方にジャッジしていただいて、合格となった方が勝ちです。
なお、奥様方への質問は2つまでとします」

才色兼備と完璧さをあわせもつ旧世代チームの代表は、蓉子と瞳子。
「家事といえばこの2人」な次世代チームの代表、ちあきと美咲。

「それでは用意、スタート!」


太鼓の音がドンとなり、選び抜かれた精鋭たちは家という名の戦場に入っていった。



まず1軒目の家に入ったちあきと美咲。
一見きれいに見えるこの家だが…。

「ねえ、美咲ちゃん…」

その声の様子に不穏なものを感じ取った美咲は、思わず体を硬くした。

「なんでしょう、ちあきさま」

できる限り穏やかに答えたつもりだが、声の震えは否定できない。

「ここから先、私たちが戦うのはゴミだけじゃないわ」

どういうことなのか。
にわかに心拍数があがる。
息苦しい。
必死に記憶をたどる。
やがてたどりついたその記憶は、美咲にとってあまりにも苦かった。

夏休みが始まる前のこと。

「ごきげんよう」

珍しく早い時間に教室に着くと、それまでひそひそ話をしていた2人の生徒が、
突然話をやめたのだ。

(私や山百合会に何か関係のあることなのかしら)

そう思いながら続く授業を受けたが、昼休みに智子にそれを話すと。

「ああ…最近アンチ・ユーゲント派が出てきたんだよ。そいつらもメンバーじゃないかな」
「そうそう、『レジスタンス・ローズ』って名乗ってね。今のところ6戦全敗」
「ユーゲント相手じゃ勝てないよ。あの人たちも馬鹿だよね」
「ちあきさまのためなら命だって惜しくない連中に、勝ち目があるとは思えない」

智子と純子が口々に教えてくれた。

「じゃあもし、レジスタンスの矛先が私たちに向かったら…」
「…私たち無防備だからねえ」

そんな会話をほんの4日前くらいにかわしたはずだ。
まさか、ここは…

「レジスタンスメンバーの家よ」

あまりにも残酷な形で、予想は当たってしまった。
目の前にいるのは、カラシニコフの銃口をこちらに向けた3人。
なんで一介の女子高生が、旧ソ連の軍用銃など持っているのかは分からないが、
自分たちに殺意が向けられているのは痛いほど分かった。

「ちあきユーゲント、そして山百合会の解散を要求する!」
「初対面の人には自分から名前を名乗るのがマナーでしょう」

冷静に答えるちあきに、3人は語気を強めた。

「何がマナーだ。おまえはただの独裁者だ」
「そうだ、そうだ!独裁者に死を!」
「独裁者に死を!」

口々に叫びながら、ちあきたちに銃弾の雨を浴びせる3人。

(私たち、ここでおしまいかしら…)

丸腰の世話薔薇総統とその後継者は、人生の終わりを覚悟した。


そのころ、蓉子と瞳子は。

「反山百合会勢力、ですって…!?」

次世代からもたらされた情報に、全員青ざめた。

「聖、腕っ節はどうかしら」

蓉子のその問いは、強行突入が前提だった。
それを察した祥子が叫ぶ。

「お姉さま、それは無謀です!」
「交渉じゃ時間がかかりすぎるわ。あいつらは話が通じないから」

妹の叫びを蓉子は一蹴した。
あとを受けて聖が肩をすくめながら答えた。

「まあまあだけど…助っ人を2、3人ちょうだい」
「じゃあ、私が」

まず令が立候補した。
普段のヘタレぶりからは想像もつかないが、実はかなりの強さである。

「私も参ります」
「菜々」
「微力ながらお姉さま方とともに戦います」

剣道部エースの目線は力強かった。

「おもしれぇ」

涼子が腕まくりしている。

「俺のストレスも解消できるし、ちあきさまや美咲の役にも立てるし一石二鳥だ」

みんなのテンションが上がったその時だった。

「あっ、携帯ブルってる」

江利子が携帯をとると、顔色が変わった。

「たてこもり、ですって…!?」

それは、ちあきと美咲がレジスタンス派の人質になっているという意味だった。
眉間に深いしわを寄せながら、聖はそれでも冷静に指示を出した。

「令と菜々ちゃんは犯人と交渉して。必要なら竹刀使ってもいい。
涼子ちゃんと私がすきを見て突入するから」
「オッケー」

カラシニコフをちあきと美咲の頭に突きつけ、体に何か大きなものを巻いている反山百合会勢力。
要求が認められなければ自爆するつもりなのだろうか。
もしそうだとしたら、なんと卑怯なやり方だろう。
もはや家事どころではない山百合会。
いつの間にか巣食っていた反対勢力を見過ごしてきたことを、
全員心の底から後悔していた。
100年以上もの間、綿々と続いてきた薔薇の歴史。
それをこんな形で終わらせることなどできない。

「お前たち、何が望みだ!」
「山百合会の解散以外に望みはない」
「そんな要求のめると思ってるの!?」
「のまなければこいつらの命はない」

もう2時間以上もちあきたちは拘束され続けている。
これ以上長引けば間違いなく命が危ない。

「…分かった。解散しよう」

ちあきたちを守るための、苦渋の決断が下された。
これには山百合会はもちろん、レジスタンスまでもが驚いて動けない。
すでに卒業したとはいえ旧世代のお姉さまとして今でも君臨する者が自分の組織を見捨てるなどと、誰が考えるだろうか。
敵も長期戦を覚悟で臨んでいるのに、これほどあっさり要求が認められては次の一手も出しにくい。
それを見越しての令の発言だった。

「令さま。あなたご自分で何をおっしゃったか分かっているんですか!?」

詰め寄る菜々の手を振り払い、裏で控える聖と涼子に合図を送った。

(今だ!)

「うおおー!」

涼子と聖が叫びながら突入し、レジスタンスメンバーと死闘を繰り広げる。
先ほどまで交渉していた令たちもあとを追った。

「ちあきちゃんたちは逃げて!こいつらは私がやるから」

攻撃してくるレジスタンスの間を必死にかいくぐりながら、ようやく逃げてきた世話薔薇総統。
その姿を真っ先に認めて駆け寄ってきたのは智子だった。

「美咲!お姉さま!」
「智子!」
「お姉さま!」
「ほんとに、無事で…!」

智子はとうとう泣き出した。
その間にもレジスタンスと山百合SWAT部隊の戦いは続き、とうとう警察が呼ばれた。
レジスタンスは一網打尽に逮捕され、山百合も事情聴取を受けた。

「やれやれ…大変だったね」
「でもレジスタンスは壊滅したし、よかったんじゃないですか」
「よくないわよ。試合はどうなるの?」
「後日改めて、だってさ」


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