【2743】 キラキラしてれば一から始める  (さおだけ 2008-08-31 01:14:29)


基本同時進行で。(て、天使も書いてますよ!?)

祐巳 【No:2739】→【No:2742】
聖  【No:2740】→【ここ】




「ごきげんよう、志摩子」

「お姉さま?ごきげんよう」

朝、私はマリア様の前で自分の妹を待ち伏せしていた。
というのも、伏線というものは引けば引くほど後々面白い事になるからだ。
結構頑張って早起きしたかいがあるというもの。

「どうかなさったのですか?」

「うん。ちょっとお願いがあってね」

「?」

普段は大人びた、というより神聖化されやすい私の妹だけど、こういう所は子供っぽい。
子供が親にお使いを頼まれて、鷹の爪、なんて分からないものを頼まれた顔をしている。
うん?比喩の意味が分からないって?なんとかして。

「それで、なんでしょうか?」

志摩子は少し私に近づいて、声を小さくする。
周りに人の眼があるという事に気付いて売るのだろう。
だから私はわざと接近して、耳にキスをするように囁いた。

「祐巳ちゃんを監視して」

珍しく驚いた顔をした志摩子を見て、私は苦笑する。
「監視っていっても、祥子に近づきやすいようにしてあげて欲しいの」と付け加えた。
ようやく納得がいったのか、志摩子は頷く。

「祥子さまと、ですね。分かりました」

祥子にチャンスをあげたいというのは、どうやら志摩子も同じようだ。
自分に近い思考をもつ妹というのは疎通がしやすい。
流石に休日にデートさせるのは無理だろうけど、近づけさせるのは難しくなさそうだ。


 ■ ■ ■


いただきます。

日課を欠かす事無く、私は蓉子と一緒にお弁当を食べていた。
やっぱり江利子はいないけど、それでも楽しかった。
2人っきりの薔薇の館に、珍しく訪問者が現れた。

「ごきげんよう、お姉さま、蓉子さま」

「志摩子」

「ごきげんよう、志摩子」

志摩子はさり気無く私と蓉子から一定の距離をあけた所に座る。
こういう気遣いも大したものだ。というか蓉子の事をカミングアウトした事はないのに。
志摩子は1人で食べています、というようにお弁当の包みを解いた。

「お姉さま、お2人は屋上へ向かいました」

「へぇ……なんでまた」

「空を見に、でしょうか」

「ふふん、なるほど」

「?ちょっと聖、なんの話しよ?」

蓉子は不満そうに私と志摩子を交互に見やった。
しかしここでバラしてしまうというもの詰まらない。私は不適に笑うだけに留めた。

「ところで蓉子、ちょっと賭けをしようよ」


 ■ ■ ■


「やっほ、祐巳ちゃん」

「ごきげんよう」

放課後。私は帰ろうとしていた祐巳ちゃんを確保した。
相変わらずヤル気のない返事。しかし優柔不断とか軟弱物ではない。
どうでもいい事には極力体力を使わない。
そんな雰囲気を感じ取れる。

「お願いがあるんだ」

「はぁ……なんでしょうか、聖さま」

「君に是非、シンデレラにやってもらいたい」

「灰被りを、ですか?」

「そう」

灰被りといったら悲惨な方を想像してしまうから、わざと【シンデレラ】と言ったのに。
やっぱり面白い子だなぁ、と、祐巳ちゃんは複雑そうな顔をしている。
【面倒だなぁ。でもなぁ。うーん。あー…いやぁうん…まぁいいか。】って感じ。
面倒だけど断る理由がないって顔してる。

「時間がある限りでいいなら、協力は惜しみませんが?」

「よし!じゃぁ今から集合」

「はぁ……」

時間が惜しい!さっさと連れて帰って作戦の開始だ!
ふふふふ。さて、江利子も江利子でやってくれているはず!


 ■ ■ ■


「というわけで……この賭けは私の総取りって事で!」

でん!っと私は体育館の舞台で稽古をしている山百合会に叫んだ。
祐巳ちゃんと繋いだ手を掲げて、祥子に見せ付けてやる。
空気が凍ったように固まって、なんともいえない空気が流れた。

「聖!それはどういう事!?」

「だぁからぁ〜祐巳ちゃんは私が勧誘して、OK貰ったの」

「!」

祥子が打ちひしがれたように、だけどヨロヨロと祐巳ちゃんに向かっていく。
歩きながらハンカチを破るとは進化したな祥子。
どうせ江利子が私の想像以上に祥子をたきつけたのだろう。さっすが。

「祥子が祐巳ちゃんを妹に出来たらシンデレラを下ろすって約束だったじゃない!」

「うん。だから祐巳ちゃんには祥子の妹になってもらうの」

「はぁ?」

「まぁみてて。……あ、江利子。ありがとね」

「いいわ。私だって楽しみたいのだから」

祐巳ちゃんは今だって祥子を【祥子】としてみている。
転校生だって(調べて)分かったけど、やっぱりこういう視点は大切だ。
【紅薔薇の妹】という殻をつけずに祥子が接しられる存在。それが、今は他人であるはずの祐巳ちゃん。

「すみません、トイレ行って来てもいいですか?」

「うん?どーぞどーぞ」

「祐巳!貴女逃げるつもりなのねッ!?」

「あーはいはい。すぐ戻ってきますからー」

祥子を適当に宥めながら、ぴょんぴょんと跳ねるように外に向かった。
………あれ?トイレってそっちにあったっけ?


 ■ ■ ■


「それで、どうするつもりなの?」

「心配性だなぁ。とにかく明日見ててよ」

「明日、ねぇ?土曜日だけど…なにか有ったかしら?」

「ふふふ。そんで半日学校で、残りは劇の練習な日ね」

「え、ええ……」

舞台で踊るのはシンデレラではなく、【福沢祐巳】と【小笠原祥子】なんだよね!
くっくっく。私ってばおちゃめなんだから♪
…………やべ。なんか江利子に似てきたかも。




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