【2745】 そんな衝撃告白を  (篠原 2008-08-31 23:04:41)


 それは大きな衝撃でした。

「私も両親の間にできた子供ではないの」
 志摩子さんのその言葉に、乃梨子はショックを受け、それでも。
「私にとっては取り立ててどうこうという話ではないの」
 本当にそうなんだと納得できた。
 だから志摩子さんのお誘いを喜んで受け、志摩子さんの家に遊び来たのだった。
 とはいえ、直接会うとなるとやはり全く気にならないというわけにはいかないかもしれない。いや、志摩子さんが気にしてないのに気にしちゃダメだ。なんて、悶々とする乃梨子の心情を知る由も無く、志摩子さんのお父さんはあいかわらずでな調子で言った。、
「いや、若い方が来ると華やいでいいですな」
 ちょっとほっとした乃梨子は苦笑しつつ言う。
「志摩子さんと一つしか違わないんですが」
「まわりが大人ばかりだったせいか、志摩子はどうも年寄りくさくてな。これからも志摩子を引っ張りまわしてやってください」
「お父様」
 志摩子さんのちょっと照れたような表情が見られてちょっと得をした気分になっていた乃梨子の横で、志摩子さんは突然その話を蒸し返し始めた。
「私は気にしていなかったから話してしまったのだけれど、聞いた皆の方が気にしてしまって、ちょっと悪いことをしてしまったわ」
「……………」
 志摩子さん、そこでいきなり蒸し返さなくても。いや、本当に気にしてないからこそ簡単に言ってしまえるのだろうけど。
「……そういえばそんなことも言ったな」
「「え?」」
「冗談だったんだが、まさかずっと信じておったとは思わなんだ」
 自分の頭をぺしぺしと叩きながら、爽やかな笑顔でとんでもないこと言いやがりましたよ、このおっさん。
「……………」
「檀家の間ではいつ気付くか賭けていたものもいたようだぞ」
 はっはっはと笑いながらさらに追い討ち。いやいやいや、冗談にしていいことと悪いことがあるよね。
「お、お父さま……」
 志摩子さんの声が震えた。
 同時に空気がひやりとする。あたりの気温が下がったような気がした。ついでに破戒坊主がぎくりとしたように見えた。
「いや、だが、おまえはそんなに気にしていなかったじゃないか」
「ええ、私は」
 押し殺したような低い声。
「でも話を聞いた皆は、とても気にしてしまったのよ」
 そう、志摩子さんは自分のことより人のことを気にする人だった。
「乃梨子」
「はい!」
「少し、後ろを向いていてくれる」
「サーイエッサー!」
「いや、ちょっと待っ……」
 もちろん乃梨子は言われた通りに後ろを向き、言われずとも手で耳を塞いだので、その後何が起きたのかは全く知らないし、知りたいとも思わなかったのでした。


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