食後に読み出すといい感じの腹心地に眠くなるかもしれないほど長いです。注意してください。
あと、反省はしてますが、後悔はやはりしてません!
☆
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄み切った青空にこだまする。
マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
の、だが。
しかし、今日だけは。
今日だけは、お祈りもそこそこに、みな足早にマリアさまの前を通り過ぎていく。
早く、早く。
それぞれにある心が、足を動かすことを命令する。
早く、早く。
上級生のお姉さま方に習いスカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、でも可能な限り早く。
憧れの薔薇さま方が、私たちの質問に答えてくれるかも知れないから。
☆
――リリアンかわら版新企画 薔薇さまお悩み相談室(増刊号vol.2)
皆様より寄せられたお悩み、質問を元に、「新薔薇さまお悩み相談室」は好調に滑り出し、こうして増刊号vol.2を出すまでになりました。
新聞部他関係者一同、皆様に厚く感謝いたします。
新聞部部長 山口真美
唯一のルールとして、「ランダムにお悩みを引いた薔薇さまが答える」という原則があります。紅薔薇さまへの質問を、黄薔薇さまや白薔薇さまが答えることもあるので、ご了承ください。
これは皆様の投稿を全て答えることができないため、公平さを保つためのものであり、また、どれだけお三方が相手のことを知っているのか、どんな物の考え方をするのかを重視した結果です。
以上を含めて、楽しんでいただけると幸いです。
尚、増刊号に限り、Q&A形式に加え各つぼみと、取材陣の簡単な対話も加えてありますので、併せてご了承ください。
参加者
紅薔薇さま 福沢祐巳
黄薔薇さま 島津由乃
白薔薇さま 藤堂志摩子
紅薔薇のつぼみ 松平瞳子
白薔薇のつぼみ 二条乃梨子
黄薔薇のつぼみ 有馬菜々
取材 山口真美
高地日出美
写真 武嶋蔦子
※今回はプレゼントがあります。お楽しみに!
・ 1周目 A 黄薔薇さま
Q『「YKK」という集団をご存知ですか? 噂ではとても尊敬できる理念思想を持っているらしいのですが。 匿名 私もYKKに入りたーい!』
黄薔薇さま「YKK? なんだろう? なんかの略?」
白薔薇さま「聞いたことがないわね。紅薔薇さまは知っている?」
紅薔薇さま「さ、さあ。ねえ瞳子、知らないよね?」(顔を赤らめて挙動不審)
松平瞳子 「え、ええ。全然まったく存じ上げませんわ」(顔を赤らめて挙動不審)
――新聞部は明確な情報を握っていますが、Y氏に妹ができてすぐに解散していますので、詳細は控えます。
・ 1周目2番目 A 白薔薇さま
Q『かつてリリアンに大騒動を起こした問題を今一度!
次の文を訳せ
Sachiko is a blue blood. 匿名 私は素直に「青い血」と直訳…』
白薔薇さま「サチコはお嬢様、ね」
黄薔薇さま「サチコは冷血」(笑)
有馬菜々 「サチコは異性人」(笑)
紅薔薇さま「怒られるの私なんだから、少しは自重しようよ」(涙目)
――注・サチコとは、紅薔薇さまのお姉さまで前紅薔薇さまである小笠原祥子さまと同名です。
・ 1周目3番目 A 紅薔薇さま
Q『ジーク・お凸! 匿名 次は菜々さんがお凸ですか?』
紅薔薇さま「え? じーく…え?」
黄薔薇さま「紅薔薇さま、ダメよ」
紅薔薇さま「だめ? ダメって、何が?」
黄薔薇さま「『ジーク・お凸』は挨拶なの。そう、由緒正しき『私立リリアン女学園凸ちんファンクラブ』のね! ちなみに創設は聖さま」
――注・聖さまとは、白薔薇さまのお姉さまで前白薔薇さまである佐藤聖さまです。
紅薔薇さま「そ、そうなんだ。よく知っているね。初耳だよ」(若干引きつつ)
白薔薇さま「紅薔薇さま」
紅薔薇さま「な、なに?」
白薔薇さま「ジーク・お凸」(おでこを強調した敬礼。そして黄薔薇さまを見る)
黄薔薇さま「ジーク・お凸!」(おでこを強調した敬礼。そして二条乃梨子嬢を見る)
二条乃梨子「じ、じーく・おでこ」(恥ずかしそうな顔でおでこを強調した敬礼。そして松平瞳子嬢を見る)
松平瞳子 「え? 私も? じ、じーく・おでこ」(とても恥ずかしそうな顔でおでこを強調した敬礼)
一同 「さあ、紅薔薇さまもご一緒に」
紅薔薇さま「は、はい」
――左の写真は、山百合会全員で「ジーク・お凸」。シュールです。
有馬菜々 「次は私が、こんな面白そうなものを率いる側の人間になるんですか?」(瞳を輝かせて)
その問いには誰も答えませんでした。
・ 2周目 A 黄薔薇さま
Q『前の席は誰ですか? 誰なんですか? 声を大にして言ってください。 匿名 スターは素人のことなんて忘れるものですよね』
黄薔薇さま「前の席? 前の席って何?」
紅薔薇さま「質問が漠然としすぎているね」
二条乃梨子「でも、なんだかすごい執念を感じるんですが」
松平瞳子 「私も感じます。絶対に答えてほしいという気持ちがなんとなく伝わってきます」
黄薔薇さま「そう言われても、わからないから答えようがないわよ」
紅薔薇さま「その質問をくれた人には悪いけれど、私もわからないよ」
白薔薇さま「私も答えようがないわ」
全員で考えましたが、結局、誰のことなのかわかりませんでした。
黄薔薇さま「残念だけれど、これは答えられないわね。質問した方、ごめんなさい」
・ 2周目2番 A 白薔薇さま
Q『あの「yPod」や「Drill-snap」を開発した松平電機産業が、今度は「YIBO」なるすごいペットロボを作ったという噂を聞いたのですが、発売はまだなんでしょうか? 匿名 エンジェルズ・ウィング(仮)というノーベル賞ものの開発も進んでいるとか…がんばれ松平電機産業!』
白薔薇さま「まあ。瞳子ちゃん、また何か企画発案をしたの?」(少々驚きつつ)
松平瞳子 「あ、いえ、それは、その、ちょっと」(挙動不審)
二条乃梨子「私は試作機を見せてもらったんですが、結局開発中止になったそうですよ」
白薔薇さま「そうなの? どうして?」
二条乃梨子「少々デザインがきも、いえ、デザインに問題が発生しまして。そうよね、瞳子?」
松平瞳子 「え、ええ。いわゆる発禁というやつでして」
黄薔薇さま「発禁になるデザイン? それってどんなデザインだったの?」
松平瞳子 「それは企業秘密ですわ」
紅薔薇さま「私も気になるのだけれど。こっそり教えてくれない?」
松平瞳子 「絶対ダメです! お姉さまには絶対教えられません!」
その後、二条乃梨子嬢と松平瞳子嬢はコソコソと「結局処分はどうなったのか」「どうしても処理できなくて結局倉庫に」などと話していました。
・ 2周目3番 A 紅薔薇さま
Q『祥子さまや志摩子さんを引き離して、あの令さまがダントツのクィーン特別賞に輝いたって本当ですか? 匿名 凛々しいだけじゃないんですね』
紅薔薇さま「……」(露骨に顔を青ざめる)
白薔薇さま「……」(目を背ける)
二条乃梨子「……」(同じく目を背ける)
松平瞳子 「……?」(首を傾げている)
黄薔薇さま「……」(眼力による無言の圧力を行使)
有馬菜々 「真美さま、詳細は?」
去年、山百合会が花寺学院の学園祭に
黄薔薇さま「真美さん。それ以上話したら(新聞部規制)して(新聞部規制)した後に(新聞部規制)した挙句(新聞部規制)とかしちゃって(新聞部規制)になったところを(新聞部規制)までやって(新聞部規制)(新聞部規制)、日出美ちゃんにも(新聞部規制)して、トドメにスカートめくるわよ」
ごめんなさい。もう言いません。だからやめてください。
――右下の写真は、鬼気迫る形相で竹刀を構える黄薔薇さま。あの有馬菜々嬢すら口を出せず、下手なことを言えば命を失いかねない凄味がありました。
・ 3周目 A 黄薔薇さま
Q『東京ビックサイト、コミックマーケット二日目。それは、乙女の園。……知っていますか? 匿名 あの方とあの方とあの方、見ましたよ(笑)』
黄薔薇さま「東京ビックサイト? コミックマーケット? 二日目?」
武嶋蔦子 「あ、ごめん。フィルム落としちゃった」
山口真美 「あ、ごめんなさい。ペンのインクが出なくなったわ」
高地日出美「あ、すみません。メモ帳を破いてしまいました」
二条乃梨子「あ、紅茶、淹れ直しますね」
黄薔薇さま「……?」(不思議そうに首を傾げる)
山口真美 「差し支えなければ、その質問はなかったことにして、次に進んでもらえないかしら? ほら、盛り上がりに欠けそうだし」
黄薔薇さま「え、そう? まあ、質問の意味もわからないから、私はそれでもいいけれど。でも無理に流すくらいだから、ここのやり取りはキッチリ記事にしておいてよ。私が故意に質問を流したなんて思われたくないからね」
松平瞳子嬢がポツリと「誰も知らない、知られちゃいけない秘密って、ありますよね」と感慨深く呟いていましたが、さっぱりまったく一切意味がわかりません。
・ 3周目2番 A 白薔薇さま
Q『男の中の男って、どんな人だと思いますか? 匿名 薔薇さま方の好みの男性ってどんな方なのか興味あります』
白薔薇さま「好みの男性? ……考えたこともないわ」
黄薔薇さま「白薔薇さまの好みは、聖さまみたいな男性でしょ?」(ニヤニヤ笑いながら)
白薔薇さま「お姉さまは女性だから許せるのよ。もしお姉さまが男性なら……………………いえ、やめておきましょう」(微笑む)
その笑顔を見た瞬間、なぜか全員がごくりと喉を鳴らし、白薔薇さまから目を逸らしました。
黄薔薇さま「紅薔薇さまはどう?」
紅薔薇さま「え? 好みの男性? えっと、お姉さまみたいな人?」
黄薔薇さま「なるほど。お金持ちか」
紅薔薇さま「どうしてそこをピックアップするの」
黄薔薇さま「じゃあ、顔?」
紅薔薇さま「そうじゃなくて。総合的に見てよ。総合的に」
黄薔薇さま「じゃあ、総合的に全身からにじみ出る、Sの気配?」
紅薔薇さま「そ、そうじゃないよっ。そうじゃないよっ」(必死に否定)
――右上の写真は、あたふたと必死に否定する紅薔薇さま。必死すぎて逆に悲しくなってきました。
白薔薇さま「好みの男性はともかく、男の中の男って、どんな人かしら?」
二条乃梨子「そうですね。たとえば、高速道路をトラクターで爆走して、阪神ファン御用達の居酒屋で
阪神巨人戦の最中に堂々と巨人の応援をして、一輪車に乗りながらバスケットボールをする『一輪車バスケ』なる生傷の絶えない遊びを考案して、振り付きの『ゲッツ&ターン』が条件反射で出て、『ホームレス中○生』に感化されて実際本当にやってみて小学生に石を投げられたり警察官に職質されたりする人、なんてどうでしょう?」
二条乃梨子嬢のあまりにも微妙な発言に、全員が言葉を失いました。
・ 3周目3番 A 紅薔薇さま
Q『松平瞳子さんがマリア様の像を睨む姿を何度か見ましたが、理由はなぜでしょう? 匿名 Kさんも被害者かも』
紅薔薇さま「あ、私も見たことある」
白薔薇さま「私もあるわ」
黄薔薇さま「なんか、その時だけマリア像の目が動くって怪談みたいな噂もあったよね」
その噂は新聞部でもキャッチしていますが、真偽は不明です。
松平瞳子 「イタズラ好きなマリア様に抗議していただけですわ。一時は修復不能かと思いましたが……まあ、なんとか挽回もできましたし、ひとまず良しとしておきましたけれど」
意味がわかりませんでしたが、松平瞳子嬢はこれ以上口を開きませんでした。
・ 4周目 A 黄薔薇さま
Q『「紅薔薇の騎士」の目撃情報求む! 匿名 我は「紅薔薇の騎士」に復讐する「白薔薇の騎士」なり』
黄薔薇さま「紅薔薇の騎士?」
――注・紅薔薇の騎士とは、リリアン女学園では知らない人はいないほど有名な、マリア様に仕えし騎士です。滅多に人前には出ませんが、いつでもリリアンの迷える小羊たちを見守ってくれているそうです。
黄薔薇さま「名前は聞いたことがあるけれど、見たことはないなぁ」
松平瞳子 「私も噂は聞いたことがあります。シスター上村に称号をいただいたとか、天の使いとか、マリア様の分身とか」
二条乃梨子「私も噂程度しか。お姉さまは?」
白薔薇さま「私も似たようなものだけれど。でもそれより、匿名の『白薔薇の騎士』という方が気になるわ」
黄薔薇さま「そうね。復讐する、って書いてあるし、穏やかじゃないわね」
紅薔薇さま「……私は会ったことがあるかも」
つぶやいた紅薔薇さまに、視線が集まります。
紅薔薇さま「あ、いや、別の話だったかな? なんか聖さまがいじけていたような……いや……うーん……?」
その時の記憶が定かではないようで、本人も夢か現か判断できていないようです。
・ 4周目2番 A 白薔薇さま
Q『銀杏をタライ1杯分食べたら手乗りウサ志摩子さまがいっぱい出てくる夢が見られるとか聞いたんですが、本当ですか? 匿名 時々スク水志摩子さまも出てくるとか! 超激レアな夏服セーラーで腹チラ志摩子さまも出てくるとか!』
白薔薇さま「手乗りウサ志摩子……これって前に乃梨子が」
二条乃梨子「わー! わー! 言っちゃダメ! チャレンジ=死だから!!」
――注・銀杏の食べすぎは中毒症という危険をはらんでいますので、くれぐれも大量摂取はお控えください。
二条乃梨子「それに手乗りウサ志摩子さんは私のもの、あ、いえ、なんでもないです。なんでもないですよ?」
露骨に怪しい二条乃梨子嬢でしたが、触れないことが優しさだと解釈し、誰も何も言いませんでした。
・ 4周目3番 A 紅薔薇さま
Q『結構前になると思いますが、駅前でハイジとクララのストリートパフォーマンスを繰り広げる紅薔薇さまと乃梨子さんを見たんですが……なんかの罰ゲームだったんですか? 匿名 一時期、外国人の観光スポットみたいになってましたね』
紅薔薇さま「あったね」(感慨深くつぶやく)
二条乃梨子「ありましたね」(感慨深く同意する)
松平瞳子 「……」
黄薔薇さま「私も噂は聞いたことがあるんだけど、本当だったのね。理由は何?」
紅薔薇さま「奥義だよ」
黄薔薇さま「奥義?」
松平瞳子 「……」
紅薔薇さま「うん。あのね、瞳子ちゃんを逆さまにしてね、手は添えるだけにしないと危なくてね、それでスイッチをオンにするの」(子供のようにはしゃぎながら説明)
黄薔薇さま「はぁ……それで?」
紅薔薇さま「すると全身のドリルがフル回転してね、見事なドリルさばきで地面を掘って進んでいくの。うぃ〜〜ん、どりどりどり、って進んでいくんだよ。あれはもう一種の芸術だよ。まさに奥義だよ」(子供のようにはしゃぎながら説明)
松平瞳子 「……」
黄薔薇さま「で、どうして駅前でハイジとクララやっていたの?」
紅薔薇さま「それは…………」(次第に顔色が悪くなる)
松平瞳子 「それは? なんですか、お姉さま? それは?」
――左の写真は、新しく買ってもらったオモチャを嬉しそうに自慢する子供のような紅薔薇さまと、無表情でそれを見守る松平瞳子嬢。そして無関係を装い思いっきり顔を背けている二条乃梨子嬢。きっと答えはこの写真が語るものなのでしょう。
・ 5周目 A 黄薔薇さま
Q『ちょっと小耳に挟んだのですが、学園長が某セーラー服美少女戦士のコスチュームを持っているというのは本当なんでしょうか? 匿名 誰しもはっちゃけたい時がある、と納得するべきでしょうか?』
黄薔薇さま「あ、懐かしいなー。二年前のクリスマスだったっけ?」(笑)
紅薔薇さま「確か聖さまの誕生日だったよね」(笑)
白薔薇さま「あったわね。そういうことも」(笑)
詳細を訪ねると、二年前、聖さまがシスター上村のコスチュームを無断借用して、それを当時の山百合会の面々が着てみたそうです。
尚、その後、衣装を返す時にちゃんと謝った上で「なぜこんなものを持っているのか?」という質問をしたそうですが、答えてくれなかったらしいです。
――左下の写真は、二年前に某セーラー服美少女戦士の衣装を着た紅薔薇さまと黄薔薇さま。出し渋っていましたが、説得の末、一枚だけ写真を入手。他の方のは未許可なので掲載できず。白薔薇さまは着なかったそうです。
・ 5周目2番 A 白薔薇さま
Q『萌えノートってなんですか? 匿名 このアイテムの持つきらめきはなんだろう』
白薔薇さま「萌えノート?」
黄薔薇さま「萌えノート?」
紅薔薇さま「萌え?」
有馬菜々 「そういえば、『ぐちゃぐちゃSS掲示板』というインターネットのHPに『萌えノート』と題の付いた妄想いっぱいの黒しま」
二条乃梨子「それ以上言うなーーーーー!!!!」(鬼気迫る叫び)
――右の写真は、有馬菜々嬢を拉致し強制退場する二条乃梨子嬢。ピンボケは久しぶりです。(コメント・武嶋蔦子)
白薔薇さま「萌えノートはよくわからないけれど、『ぐちゃぐちゃSS掲示板』というものは、聞いたことがあるわ。一時期乃梨子が参加していたのよね」
黄薔薇さま「えーと、ショートストーリーの掲示板、ってことでいいの?」
白薔薇さま「ええ。お話を投稿するホームページみたい。そこに乃梨子が……いえ、もういいわね。もうおしおきは済んでいるから」
紅薔薇さま「おしおき?」
白薔薇さま「ええ。おしおき」(微笑み)
その後、帰ってきた有馬菜々嬢はニヤニヤし、二条乃梨子嬢はものすごく意気消沈していました。
・ 5周目3番 A 紅薔薇さま
Q『少し前に、祐巳さまが祥子さまそっくりのサファイアの瞳の女性と歩いているのを目撃しました。あの方は祥子さま……で、いいんでしょうか? 匿名 祐巳さまと祥子さま、いつになく幸せそうな顔をしていましたよ』
紅薔薇さま「あの人のことか」
白薔薇さま「あの人、って、祥子さまじゃないの?」
紅薔薇さま「うん。その、お姉さまの影武者でね。数日間だけうちに住んでいたの」
黄薔薇さま「か、影武者?」(心底驚きつつ)
――注・小笠原家は、本当に影武者が必要なくらいの家柄です。
紅薔薇さま「四六時中ずっと一緒にいてね。ボディガードみたいなこともしてくれて、ちょっとコンビニに行く時でも付いてきてくれて。本名も知らないし、個人的なことは何も教えてくれなかったけれど」(過去を惜しむように寂しげに微笑む)
黄薔薇さま「それで?」
紅薔薇さま「お互いに側にいることがあたえまえに思えてきた頃にね、お姉さまが返せって言ってきたから、帰っちゃった。それっきり会ってないし、連絡もないし。もう私のことも忘れちゃってると思う」
白薔薇さま「……祥子さま、もしかして嫉妬」
黄薔薇さま「白薔薇さま、ストップ。修羅場を起こしそうだから言わないで」
全員がうなずきましたが、紅薔薇さまだけわかっていないようでした。
・ 6周目 A 黄薔薇さま
Q『風の噂で聞いたのですが、白薔薇さまは紅薔薇さまや黄薔薇さまから吸い取ってるんですか? 吸い取ってますよね? 匿名 何気に私のも吸い上げてます?』
黄薔薇さま「……」(怒)
紅薔薇さま「……」(怒)
白薔薇さま「吸い取る、って、なんのこと?」
黄薔薇さま「白薔薇さま、私たちから吸い取ってるの?」
紅薔薇さま「吸い取ってるの?」
白薔薇さま「え? 何を?」(戸惑い)
何を。その重要な一点を言わず、紅薔薇さまと黄薔薇さまは白薔薇さまを部屋の片隅に追い込んで問い詰めていました。
――右下の写真は、問い詰められる白薔薇さま。ようやく気付いたのかチラチラと目線が下に落ちたりしてました。
・ 6周目2番 A 白薔薇さま
Q『黄薔薇さまが歌っていたそうですね。マリア様の心、それは? 匿名 そんな黄薔薇さまが大好き』
白薔薇さま「……くっ」(小さく吹き出す)
紅薔薇さま「ぷっ」(小さく吹き出す)
二条乃梨子「ああ、アレですか」
松平瞳子 「アレですわね」
黄薔薇さま「アレってなによ」
「アレとは何か?」と聞くと、答えてくれました。
白薔薇さま「マリア様の心、それは圧倒的勝利」
紅薔薇さま「マリア様の心、それは菜々ちゃん」
松平瞳子 「マリア様の心、それはぬふぅ!」
二条乃梨子「マリア様の心、それはうおっまぶし!」
有馬菜々 「なんですかそれ」(笑)
黄薔薇さま「ちょっと狙ってみた。だって誰もなかなか聞いてくれないんだもん、機嫌の良い理由」(笑)
どうやら黄薔薇さまはそういう歌を歌ったそうです。ご機嫌で。
紅薔薇さま「ところで黄薔薇さま」
黄薔薇さま「ん? 何?」
紅薔薇さま「聞くまでもないと思うけれど、菜々ちゃんへのロザリオの授受、『私と瞳子みたいな』素敵なシーンにしたんだよね?」
白薔薇さま「あら。『私と乃梨子みたいに』した方が、もっと素敵だと思うわ。もちろん黄薔薇さまは私たちの方を選んだのよね?」
互いの一言を皮切りに、紅薔薇さまと白薔薇さまは、リリアンの生徒らしからぬメンチの切り方で睨み合いました。松平瞳子嬢まで参戦しています。
黄薔薇さま「馬鹿ね、二人とも。そんなの聞くまでもないじゃない。わかっているくせに」(笑)
紅薔薇さま「そうだよね。私と瞳子の方だよね」
白薔薇さま「私と乃梨子の方が素敵よね?」
黄薔薇さま「もちろん、私たちは誰にも負けない素敵で素敵ですっごい感動的なステキ授受をしたわよ。紅薔薇さまのように? 白薔薇さまのように? ハッ。足元にも及ばないわ。お二方ともどんな授受したんでしたっけ? 大昔のことだし印象が薄くて忘れちゃった。ハッ」(鼻で笑いつつ)
以降、三人は親の仇、いや、妹の仇を見るかのようなメンチの切り合いを展開しました。
――右上の写真は、マリア様も怯えて目を逸らすだろう危険な瞳で語り合う三薔薇さま。「ゴゴゴゴゴゴ」と大気が震えています…!
それぞれの妹が「これは危険すぎる」と仲裁に入り、なんとか気を取り直して。
・ 6周目3番 A 紅薔薇さま
Q『花寺学院に外国からいらした男性教員が、有らぬ誹謗中傷を受けて母国に帰ったそうです。なんでも白薔薇さまが原因だとか聞いたんですが…… 匿名 ロシアの方だったそうです』
紅薔薇さま「これって……」
白薔薇さま「心当たりがないのだけれど……もしかして私、知らない内にその方を傷つけていたのかしら……?」(悲しげに目を伏せる)
黄薔薇さま「まさか。白薔薇さまがそんなことするわけないじゃない」
二条乃梨子「そうですよ。お姉さま」
松平瞳子 「その話、花寺に行っていた従兄弟から聞いたことがあります」
紅薔薇さま「え? 本当?」
松平瞳子 「はい。結論から先に言いますが、白薔薇さまは一切関係ありませんからね。……そう、全ては悲しい偶然……」(芝居調に)
話を聞いてみると、本当に偶然だったようです。
松平瞳子 「――こうして某先生は、謂われなき薔薇族の汚名を着て、故郷へ帰ってしまったそうです……切ない話です」
全員、何も言えませんでした。そう、全ては悲しい偶然が織り成した悲劇だったのです。
・ 7周目 A 黄薔薇さま
Q『こう言ってしまうと変態に思われるかもしれませんが、切実なんです。気になって気になってしょうがないんです。このままだと乙女にあるまじき小学生じみた行動を起こしてしまいそうで。直接聞く勇気も出ず、恥を忍んで匿名にて質問をさせてください。
まことに失礼ながら、白薔薇さま、下着、種類、変えましたか? 何気なく体操服のスパッツにうっすら浮かぶインナーのラインを見てしまって以来、どうしてもどうしても気になって気になって。変な意味はありません。ただ気になるだけです。だって、時々ラインがない、って…… 匿名 時々すごいパンツとか、ですか? まさかノーいえなんでもないです』
黄薔薇さま「し、下着の種類!? 白薔薇さまの!? なんて質問よ!」(激怒)
白薔薇さま「そんなに怒らないで。女性同士なのだし、構わないわ」(微笑み)
黄薔薇さま「そう? 白薔薇さまがそう言うなら、私はいいけれど……でもこれ私への質問だから、私が答えなきゃいけないのか」
紅薔薇さま「あれ? 前に一度、私から黄薔薇さまに話さなかった?」
黄薔薇さま「……あ、そう言えば、何かの折に聞いたことがあるね。なんだったかな?」(腕組みして悩む)
白薔薇さま「一度誤って学校にTバックの下着で登校したことがあって」
黄薔薇さま「白薔薇さまが答えちゃったよ! いやまあそれはいいけど、白薔薇さまがTバックの下着!? 本当に!?」
白薔薇さま「え、ええ。家にいる時は大抵和装だから、母が、下着のラインが出ないこれにしなさいって」(少々顔を赤らめて)
黄薔薇さま「あ、なるほどね」
――注・昔は、着物の時は下着は着けなかったようです。
紅薔薇さま「じゃあ、時々ラインがないって」
白薔薇さま「少し前まで、うっかり着けて登校していた時の目撃談ね」
黄薔薇さま「ふーん。今はそういうことはないの?」
白薔薇さま「ええ。あれって、男性にはいやらしイメージがあるようなの。だからもう着ていないわ」
黄薔薇さま「着物の時も?」
白薔薇さま「ええ。もう、和服の時は下着は着けないことにしたの」
紅薔薇さま「……」(顔を赤らめる)
黄薔薇さま「……」(顔を赤らめる)
松平瞳子 「……」(顔を赤らめる)
有馬菜々 「……」(ニヤニヤする)
黙りこくった皆の反応が気になったのか、白薔薇さまはおろおろし始めました。
白薔薇さま「お、おかしいかしら? 乃梨子は『良いと思うよ』ってさわやかな笑顔で親指まで立」
二条乃梨子「ストップ! ストーップ! この質問はもう終わり!!」
微妙な空気になってきたので、異存はありませんでした。
――下は、「着物の時は下着を着けない」告白をサラリとやってのけた白薔薇さま。強いて面白い写真ではありませんが、あらゆる意味ですごいと思ったので掲載。
・ 7周目2番目 A 白薔薇さま
Q『去年、一年椿組から「うさうさー」という感じの奇声が謎のドラムと共に聞こえたんですが……いったいなんだったんでしょう? 匿名 朝から元気な人もいたものです』
白薔薇さま「うさうさ、って。そう言えば乃梨子、いつだったか、そういうおまじないがあるって教えてくれたわよね?」
二条乃梨子「あ、はい。なんでも意中の相手と結ばれるおまじないだったかと。でもあんなの本当にやる人がいるなんて……ねえ瞳子」
松平瞳子 「な、なんです!? 急にこちらを向かないで! 驚くじゃない!」
二条乃梨子「何逆ギレしてるの。それより瞳子、まさか、やってないよね? 去年の椿組って言ったら、私たちのクラスだし」
松平瞳子 「するわけないでしょう! そんなうさぎさんが食べられるおまじないなんて!」
二条乃梨子「……なんで知っているの? うさぎさんが食べられるって」
松平瞳子 「そ、それは……」
黄薔薇さま「ちょっと待った」
有馬菜々 「その『おまじない』の内容が非常に気になるのですが。うさぎさんが食べられるってなんですか」
黄薔薇さま「そう、私もそれが気になる。瞳子ちゃんを問い詰める前に見本をやって見せてくれない?」
二条乃梨子「え、私が?」
黄薔薇さま「だって、知っているの、乃梨子ちゃんだけみたいだし」
二条乃梨子「新聞部は?」
おまじない自体は知っていますが、詳しい内容までは把握していません。つまり皆さんと同じです。
二条乃梨子「いや、私も詳細は知らないんですよ。なんか、誰もいない教室で、うさうさーとか叫んで、食べられて……くらいです」
黄薔薇さま「じゃあ、どうやって乃梨子ちゃんはそのおまじない自体を知ったの? 誰かに教えてもらったの?」
二条乃梨子「そういうおまじないがあることは噂で聞いていて、実際それを聞いたことがあるからです。誰かはわかりませんが、どうやら相当大きな声の持ち主のようでして。ねえ、瞳子? 発声練習とかしている人がやったんじゃないかな、って私は思っているんだけど」
松平瞳子 「……見ました?」
二条乃梨子「見ちゃいけないような気がして、見てない。見るのも怖かったし」
松平瞳子 「じゃあ、私がやっていたという確証はないわね?」
二条乃梨子「じゃあ、そういうことにしておく」
松平瞳子 「やってませんからね! 別にお姉さまとのことを考えてくだらないおまじないなんてしませんからね!」(赤面)
顔を赤らめる松平瞳子嬢を、皆で生温く見守りました。
――久しぶりのツンデレ全開瞳子嬢は、左上の写真。
・ 7周目3番目 A 紅薔薇さま
Q『開かれた山百合会を! かつての紅薔薇さまである蓉子さまは、そのための努力を行ったそうですが、具体的には何を? 匿名 あの方では無理そうな気が……』
――注・蓉子さまとは、先々代の紅薔薇さまである水野蓉子さまのことです。
紅薔薇さま「えっと、聖さまから聞いたのですが、蓉子さまは手始めに『愛らしさ』を追求することにしたそうです」
黄薔薇さま「愛らしさ?」
紅薔薇さま「ええ。みんなと親しくなるには、凛々しいとかじゃなくて可愛いこと。その辺が重要だと思ったみたい」
白薔薇さま「それで、蓉子さまはどうしたの?」
紅薔薇さま「あ、ちょっと待ってね。なんか知らないけれど、聖さまがかなり念押しに教えてくれた挨拶があってね、それを蓉子さまが考えたんだって」
言い置いて紅薔薇さまは立ち上がると、いったん会議室を出て行きました。
紅薔薇さま「じゃ、行くよ。恥ずかしいし結構疲れるから、一回しかやらないからね」
また紅薔薇さまが入ってきました。
皆の前に立つと、両手を後ろ手に組みます。上体をほんの少し前に傾けて、紅薔薇さまはクルッと身体を回転させました。すると、その回転に合わせて、ふわりとスカートの裾が持ち上がります。
そして、はちきれんばかりの笑顔を浮かべました。
紅薔薇さま「ごきげんよう、お姉ちゃんたち。福沢祐巳だよっ♪」
最後に「エヘヘ」と照れたようにはにかみました。
――はにかむ紅薔薇さまは、右の写真。これで高三です。実際それを見た私は、ほんの中等生くらいにしか見えませんでした。(コメント・山口真美)
紅薔薇さま「これを蓉子さまが考えたらしいよ。実際は『お兄ちゃんたち』って言ったみたいだけれど……いったいなんのニーズに応えようと思ったんだろうね」(照笑)
一同 「…………」
紅薔薇さま「え? あれ? どうしたの?」
一同 「もう一回」
紅薔薇さま「え?」
一同 「もう一回」
紅薔薇さま「いや、だから、一回しかやらないって」
一同 「もう一回」
紅薔薇さま「……」
一同 「もう一回」
紅薔薇さま「…………」
一同 「もう一回 もう一回 もう一回 もう一回」
記者、撮影含む一同の「もう一回」コールに負けて、紅薔薇さまは三十回くらいやってくれました。
――左の写真は、企画終了とともに納めたスリーショット。全身全霊の過剰アクションで無理な挨拶を繰り返した結果体力が尽きて瀕死になっている紅薔薇さま、「この挨拶を流行らせよう」と画策している黄薔薇姉妹、姉に今の挨拶をなんとしても実行させようと学年トップの頭で多角的かつグローバルに真剣に考え始めた白薔薇のつぼみと、挨拶が気に入ったらしくグロッキー状態の紅薔薇さまに「もう一回やって?」と可愛げに悪魔の催促をする白薔薇さま。(左下の横になっている足は、なぜか少々出血してしまった松平瞳子嬢のものです)
※本紙掲載「紅薔薇さまの挨拶」の写真を抽選で五名様にプレゼントします。ご応募お待ちしております。
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私立リリアン女学園。
時に魔界に行ったり、時に三賢者に会えたり、時に殺人事件が起こったり、時にレオタードを着て怪盗になってみたり、時に縦ロールが本物のドリルになったり、時にもしものレイニーブルーが語られたり、時に銀杏ケーキを食べる機会になったり、時に死にたくなるほど誰かを好きになったり、時に紅薔薇さまが誰かの実姉妹になったり、時に道草を本当に食らってみたり、時に白薔薇のつぼみと有馬菜々さんがチャリンコでガチンコ勝負をしてみたり、時に全員が先々代白薔薇さまの愛人になってみたり、時に先代黄薔薇さまが現黄薔薇さまに釘バットで殴られたり、時に次世代が舞台になったり、時に現黄薔薇さまの代わりに紅薔薇のつぼみが黄薔薇さまになったり、時に薔薇の館が吹き飛んだり。
時に微エロな柔道部がガッチガチに活躍してみたり、時に地球侵略をたくらむカエルみたいなのがやってきたり、時にイケナイ関係を疑ってみたら足ツボマッサージだったり、時にあるあるさまの探検隊がやってきて可南子にぼっこぼっこにされたり、時に謎の女は「木圭」だったり、時に階段から落ちて超絶美形ロサ・キネンシスになったり、時に聖の裏切りで祐巳がハァハァいっている祥子と瞳子に捕食されたり、時にひぐらしになってみたり、時にドリぺったん、時に志摩子さんをめぐる『蕾戦争』が起こったり、時に祐巳が島津になっていたり、時に志摩子の顔面にスポンジボールを直撃させてみたり、四時間目は聖書の時間だったり、けっしてさわやかでない朝の叫びが「萌えっ!!!」とこだましたり、時にあの頃の蔦子はメガネを取ったら超絶美形で見た人悶絶というデフォ設定があったり。
瞬きの狭間にifを見る、十八年間通い続けることができれば温室育ちながら日本が水没しても生き抜くことを可能とする純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている火星にもその名が届くほどの貴重な学園である。