【2747】 うれしいな一緒に楽しめる事  (マグロ漁船 2008-09-04 05:35:46)


 ハードディスク整理してたら書きかけのSSが出てきてどうしようと思ったけど、ここを思い出したのでせっかくし投稿せてもらうことにした。
 ちょっと長いから暇な人用。あと、多分一年以上昔(下手すりゃ、2年前かw)に書いたやつだから原作とずれてる所があるかもしれんけど勘弁してね。
 シチュは、大学聖になった令が夏休みに帰郷して由乃の家に行く&菜々が由乃妹ということで。 
 ↓ここから本編。
 

 肩口まで届きそうな髪を靡かせた少女(というには少しとうが立っているが)がバスから降りて最初にした行為は、すうーと深呼吸をすることだった。
「あーっ、懐かしい匂い」  
 くんかくんか、と久々の匂いを堪能する。
  

ーー 中略ーー 実家に帰った後、よしのん家にいく。
  

「今だったら十回、ううん、五回に一回ぐらいは一本取れるじゃないかな?」
 これは大きくでたもんだ。が、ただの過信というには目がすわっつている。つまり、その口に自信が二人三脚でついてくるぐらいの努力をしたということだろう。
 ああみえて意外に由乃は努力家なのを令は知っていた。ただ、人に見せるのが嫌いなだけ。
 あれ、今どこかで姉バカって言葉が聞こえてきたような気がする。
 えーえー、自覚はしてますよ、っと。
 なんて誰にも聞こえることなく言い訳を、お茶菓子とともにごくりと一飲み。うん、うまい。
 そんな令を少し驚いたような表情で見つめながら、由乃がゆっくりと口を開いた。
「令ちゃん、少し変わった気がする」
「ん、どこが?」
「はっきりとはいえないけど、ええと、なんていうか……そう、逞しくなった」
 明らかに言葉を選んでいる由乃を見て、令は苦笑した。
「はっきり言えばいいよ。ガサツになったって」
「そこまでは言わないけど」
「自覚はしてるよ。あ、ならこう言おうか、由乃みたいになった」
「ちょっ、それってどういう意味よ!? その流れからしたらまるで私がガサツに聞こえるじゃない!」
 ごめんごめん、と謝りながらも令は久々ともいえる夫婦漫才ならぬ姉妹漫才(由乃にしばかれるだろうけど)を楽しんでいた。
(うん、やっぱりいいわ)
 ある一面では、以前より少し距離が離れたのかもしれない。
 例えるなら前のようなべったり甘々ではなくあっさり風味、けどこのサクサクな距離感が意外と心地よい。
((ボンジョ・ビー♪)) 
 談笑を続けていると、玄関から呼び鈴が聞こえてきた。
「あ、誰か来たみたい。ごめん令ちゃん、ちょっと出てくる」
「ん、セールスマンだったら……」
 追い返そうか、と続こうとした令の口にチャックをするかのように一睨み。
「押し売りでもしようもんなら、たたき帰すわよ!!」
 そして、落雷のような激しい言葉が返ってきた。
 そういうところは変わってない。いや、ここは変わりようのないところだ。くわばらくわばら。
 さてと、ここは家主に任せてお茶でもすすらせてもらおう。
(……ん?)
 なんとなくだが、玄関の方が少し騒がしく感じた。
(((☆♯♪ωqあwせdrftgyふじこlp!))) 
「な!?」
 気のせいかと思うのも束の間、今度ははっきりと押し問答のような会話が聞こえてきた。
 まさか、本当に押し売りなのか?
 令が腰を浮かそうとした矢先、玄関から足音が聞こえてきた。どうやらこちらへ帰って来てるようだった。
 それはまあいいのだが、ただ一つ令が気になったのは、行く前は『とてとてとて』な二拍子だったのが『とてとてどたどた!』の三拍子になっていたことだった。 
ドバン!!
 令が、その理由を考える間もなく居間の扉が勢いよく開く。その扉を開いた当人は、僅かな時間にどこで拾ってきたのか『不機嫌』と『困惑』を左右のほっぺにを貼り付つけるという離れ業を演じていた。
 それは令の長年磨かれた対由乃警報が鳴り響くに十分だったが、それが稼動に至らなかった理由は由乃の背後にあった。
 それを質す間もなく。
「お久しぶりです、令さま!」
 先手必勝とばかりと元気のよい挨拶を受けた。
 おやまあ、意外なところで意外な人間に出会うものだ。いや、場所的にはおかしくはないか。
「お久ぶりだね、菜々ちゃん」
 何しろこの子は由乃の妹なんだから、ある意味では当然というやつだ。
 ちょっと面を喰らったが、これはこれで好都合かもしれない。やはり由乃の元姉として、その妹とゆっくりと話をしたいのも当然というものだろう。
「ねえ、菜々ちゃ」
「で、菜々!」
 ただここで、婆と孫との交流を邪魔する鬼嫁ならぬ鬼由乃がずずいと間に入ってきた。
(゚ー゚) 
 が、鬼由乃の熱視線もなんのその、菜々ちゃんは夏の暑さを感じさせない涼やかな表情をしている。
(゚ー゚) 「はい、お姉さま」
(`ロ´「この前言ったでしょ、今日は令ちゃんが来るって」
(゚ー゚) 「はい、聞きました」
(`ロ´「じゃ、これも覚えているわよね。だから、その日は水入らずで過ごしたい、って」
(゚ー゚) 「はい、いいました」
 正直、ちょっとうるっときてしまった。でもそんな令を無視して由乃の詰問は続いていく。
(`ロ´「じゃ、なんであなたはここにいるの? まさか日にちを間違えたとかいうんじゃないでしょうね?」
(*^-^)「いやだなーお姉さま。そりゃもちろん、愛しの孫が『お姉さま』と『お婆ちゃま』と水入らずの時間を過ごしにきたに決まっているじゃないですかー」
Σ(゚口゚;「なっ!?」
 ぷっ、と本人の意思を離れて暴走しかけた口に急ブレーキをかけた令は、いけしゃあしゃあ、という言葉がよく似合う自称愛しの孫に対して目を向ける。
 いやいやいや、これはまた随分な子が由乃の妹になったものだ。令にとってこのふてぶてしさは、あのお方を思い出させるに十分だった。
 あるいはこれは、二年越しの隔世遺伝というやつかもしれない。
(……しかしまあ)
 令は、苦笑をしながら思い偲ぶ。
 ロサ・E子さましかり、ロサ・Y乃しかり、そして今のN布団ちゃんを含め、品種に原因があるのかはたまた環境に問題があるのかわからないが、黄バラ園には少々扱いが難しい薔薇が育ちやすいみたいだ。
 その中でも一際打たれ弱かったロサ・ヘタレという品種を棚上段に上げ茶をすすり終えた令は、まだ揉めている二人の間に割ってはいる。
「由乃、もうその辺にしときな」
「でも令ちゃん」
「由乃がいいたいことはわかる。わかる気はする。でも由乃は、くるな、とは一言も言ってなかったんでしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど。でもそれは」
 更に続こうとした由乃を遮るように令が続ける。
「まあ、今回は言ってなくともわかるように含みをもたせんだろうけど」
 令がそう言うと、由乃は俄然元気になった。 
「そ、そうよ! 普通なら絶対にわかるはずだわ!」
「はい、ストップ! で、菜々ちゃん、実際はどうなの? わからないできちゃったの、それとも確信犯?」
 令が菜々ちゃんを見ると、流石の菜々ちゃんも少しばつが悪そうに頭をかいていた。
「はい、お姉さまのいいたいことはわかってました」
「ほら、やっぱり!」
 うーん、確信犯か。それはちょっと問題ありかもしれない。
 どうどうと由乃を宥めながら、とりあえず令は理由を質してみることにした。
「菜々ちゃん、よかったら理由を教えてもらえないかな?」 
「あ、それは」
「ふん、どうせ令ちゃんが帰ってくるって聞いたから、また立会いをしたかったんでしょ!」
「こら由乃、まだ話の途中だよ」
 そういいながらも令は、由乃の言葉になるほどと思った。以前に負けた相手に、練習をして雪辱を果たしたいのは当然というものだろう。現に、令自身がそうだったらその気持ちはよくわかる。
「えっと、理由は由乃ので合ってる?」
「正直に言えば、それもあります。でも、それ以上に……しっ」
「しっ?」
「しっ……です」
 おや? この子に似合わぬ随分と歯に物が詰まったような言い方だ。
「しっこ?」
「由乃はだまってて。菜々ちゃんごめん、もう一度言ってくんない」
 令が言うと、菜々ちゃんは観念したように肩を落した後、令を見上げながら今度ははっきりと答えた。
「嫉妬もありました」
 その言葉に、令は怪訝な表情を浮かべた。
「嫉妬? えっと、それは誰に対して?」
「決まっているじゃないですか、令さまにですよ」
「え、わ、わたしに?」
 どういうことだろう? 返ってきた意外な答えに、令は答えを求めるように由乃を見る。が、それでわかったことは、令以上に由乃が驚いていることだけだった。
「由乃?」
 令の声に反応したのか、陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクをさせていた由乃が慌てふためいたように口を開く。
「ちょ、ちょっと菜々、なんであんたが令ちゃんに嫉妬するのよ!」
 ぴちぴち由乃の言葉に、菜々ちゃんはぷいとそっぽを向いて答えた。
「だってお姉さま、二人のときはいつもいつも令さまのお話ばかりじゃないですか。おまけに、薔薇の館では祐巳さまや志摩子さまといちゃついてばっかりだし。お姉さまは、釣った魚には餌をくれないんですか?」
 菜々ちゃんはそういった後、令に向きを変えてぺこりとお辞儀をした。
「すみません、最初はそんな気は半分ぐらいしかなかったのですが、家で素振りをしているとお姉さまとお婆さまが道場でくんずほぐれつなことをやっていると思うと、居てもたってもいられなくなりついお邪魔してしまいました」
 気になる表現がいくつかあったがあえてその突っ込みはせず、令は由乃へと視線を向ける。
「由乃、菜々ちゃんはああ言っているけど何かいいたいことは?」
「え、えーと、た、確かに令ちゃんの話題は多かったかもしれないけど、菜々を別に蔑ろにしたつもりなんか……」
 歯切れの悪い由乃対して、菜々ちゃんがはっきりと反論する。
「もちろん蔑ろにされているだなんて思ってませんし、姉として十分にしてもらっていると思ってます。ただ、時々ですが避けられているような感じがします」
「避けてなんかないわよ!」
「じゃあ、どうして剣道部では部活でわたしの相手をしてくれないのですか? 相手をお願いしても、また今度とかようやく相手をしてもらえたらと思ったら、こっそり中の人はちさとさまだったり」
「な、中の人などいない!」
「足捌きを見ればわかります」
「うっ……」
 由乃の明らかな狼狽に、令はその答えがわかった気がした。が、言わないでおくのが武士の情けと言うものか。
「こういった余計なアドベンチャーは望んでません。わたしが望むアドベンチャーは、祐巳さまや瞳子さまの『五・一五七七演劇部ワッショイ事件』や志摩子さまや乃梨子さまの『それ逝け! しまのり仏教徒育成計画』等のリリアン史に名を刻むようなものです」
「あ、あのレベルなの?」
「はい、その為にはより深い姉妹の相互理解は必要不可欠です。それなのにお姉さまときたら」
 拗ねたようにまくし立てる菜々ちゃんを見て令は、ちょっと失礼だけど親鳥に餌をねだる雛鳥の囀りにも見えて微笑ましく思った。
 そういえば菜々ちゃんは末っ子だっけか。確か、家庭の事情でそのお姉さん達とも別居してるはず。こう考えると言動や積極的な行動に騙されそうになるけど、ああ見えて結構甘えん坊なのかもしれない。
 先ほどの元気はどこへやらすっかり防戦一方の由乃に、令は試合終了のタオルを投げ込むことにした。
「はいはい、そこまでそこまで。うん、こりゃあどうみても由乃がわるいわ」
「ちょっと、令ちゃん!」
 由乃が声を荒げるが、その声とは裏腹に表情は迫力に欠けていた。
「だって、菜々ちゃんからしてみればいい気はしないだろうさ。例えばだけど、由乃だってもしわたしが今日は由乃より先に江利子さまに単独で会いに行く、って言ったらどうする。家で大人しくしてる?」
「そりゃあ、ついて……いく」
 ぼそぼそと言う由乃に、令は少し意地悪なことを言ってみた。
「というより、邪魔して行かさないんじゃないの?」
「うっ! ……多分、そうかも」
 肩を落とす由乃に、令は諭すように口を開いた。
「由乃、由乃がわたしと水入らずの時間を過ごしたい、って言ったときすっごく嬉しかった。ただ、結果として一人仲間はずれにされる菜々ちゃんの気持ちも考えなくちゃいけなかったかな。菜々ちゃんのお姉さんとしてね」
「……うん、そこは反省してる」
 そういいながら由乃は菜の方へ向き直る。
「菜々ごめん、あんたの姉としてちょっと軽率だった」
「あ、いえ、えーと、うん、特大アドベンチャーに一歩に近づいたと思えば安いものです」
 素直に謝られたのが意外だったのか、菜々ちゃんは慌てたように返答をしていた。
 あと、どことなくだがその声には安堵の空気が令には感じられた。
 やはり菜々ちゃんといえど(といっても、まだそれほど知っている仲ではないが)、姉の言いつけを破り反論するのにはそれなりのプレッシャーがあったのだろう。
 今にして思えば、最初の菜々ちゃんのお婆さまとお姉さまとの水入らずの時間を過ごしにきた、は由乃をやり込めるためでもなんでもなくそのままの意味だったのかもしれない。
 さて、落ち着いたところで申し訳ないが。一つ口をはさませてもらっておこうか。 
「菜々ちゃん、一ついいかな?」
「あ、はい。何でしょう、令さま?」
「うん、今回の件についてわたしと由乃はスールとしての姉妹だけど、それ以外にも従妹、つまり親戚関係でもあるのだから一歩間違えると色々と問題になったかもしれないのはわかるかな?」
 ここでいう問題とは、令と由乃の集いではなく、支倉家と島津家としての集いだったら、という意味だ。
 あっ、という表情を浮かべる菜々ちゃんを見て、令は一呼吸置いて続けた。
「だから、次からは必ず確認してほしいんだ。お姉さまやお婆さまの元へ遊びに行っていいですか、って、由乃はもちろん私だって菜々ちゃんみたいなかわいい孫が来てくれたら嬉しいと思ってるから。いいかな、菜々ちゃん?」
「はあ、アドベンチャーに気をとられてそこまで考えが及びませんでした。はい、次からはそうさせていただきます」
「うん、楽しみにしてるよ」
 令が笑顔で返答すると、横から由乃が口を挟んできた。
「うん、その通り。流石令ちゃん、いいこと言う!」
 令は、口を挟んできた由乃をちらりと一瞥する。
「ま、だれかさんがまた菜々ちゃんを仲間外れにしようとしたら、今回みたいにしてもいいけどね」
「ちょっと令ちゃん、一言多い!」
「流石令さま、いいことを言います」
「あ、こら菜々!」
「あれ? 一言多かったですか、お姉さま」
 そういいながら舌をチロリ、その全然悪びていないその顔は令の隔世遺伝説を深めるに相応しいものに見えた。
「ええい、かわいげのない妹ね!」
 そういいつつも由乃の顔は笑っている。
 なんだかんだで仲のよい二人を見て安心する反面、令には少しだけ残念に思うことがあった。
 菜々ちゃんの入学がもう一年早かったら自分もその輪に入れたかもしれないのに、と。
 でもそれは気にしても仕方がないことか、いやリリアンにこだわらないのであればまだ十分に可能なはず。 
(よし)
 すくっと立ち上がった令を、由乃が不思議そうに見上げてきた。
「令ちゃん?」
「さて、いこうか由乃」
「いくって、どこへ?」
「決まってるじゃない、道場だよ。菜々ちゃんだってそのつもりなんでしょ?」
 その瞬間、小柄な身体がびょんと跳ね上がった。
「はい! いきますいきます! さあ、いきましょうお姉さま!」 
「ちょ、菜々、何勝手にきめてんのよ!」
「あれー、お姉さまはやらないのですか? じゃあ仕方がないですね、行きましょう令さま」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! やるに決まってるでしょ!」
「じゃあ決まりだ」
 そう言って数歩歩いた後、何かを思い出したように令は振り返る。
「で、どっちがわたしの相手をしてくれるの?」
 一瞬の静寂、そして。
「「わたし(が)!!」」
 元気のよすぎる二つの声が、令の両耳を心地よく突き抜けていった。


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