【2753】 ごっつええかんじツッコミをやりたい  (海風 2008-09-11 09:29:22)


「もう2度とないと思うMs.べーター」というキーを逃しちゃったですorz



このSSはタイトルを読んでピンと来る人じゃないと意味がわかりません。
あと元ネタを知っていても面白くない可能性があります。


ぶっちゃけ「予想以上に無茶をしたな」と思っています……orz








「ごきげんよ……あれ?」

 放課後、薔薇の館会議室に駆け込んだ祐巳は、そこに誰の姿も見ることができなかった。
 野暮用で少々遅れてやってきたので、もう全員が揃っているものだと思って少々焦っていたのだが、会議室には誰もいなかった。
 一瞬ほっとした――が。

「……」

 よくよく考えると、不気味だった。
 書き置きでもないかとテーブルを見ても、そこには誰かがいたらしき痕跡、具体的には紅茶のカップすらなかった。
 だが、各々の鞄はあったので、皆一度はちゃんとここに集ったらしい。




「みんなどうしたんだろ……あ」

 つぶやくと同時に、ギシギシと階段の軋む音。この静かな足音は――

「志摩子さん」

 ひょいと顔を出した志摩子は、祐巳を発見して微笑んだ。

「どこ行っていたの? 私、今来たんだけれど、誰もいなくて」

 一人でいることに一抹の不安を感じていた祐巳は、困った顔をして志摩子に歩み寄る。
 そして――微笑みを浮かべたままの志摩子は、手に持っていたソレを祐巳に差し出した。

「あ、そうそう。これね」

 にこやかにソレを受け取った祐巳は、

「これね。こうして、こう着て」

 少々重たげな皮のポンチョに袖を通し、

「これをこう持ってね」

 オモチャの片手斧を受け取って。
 祐巳は膝を使ってリズムを取りながら、ゆらりゆらりと地を称える足踏み行進を始めた。


   どんとっとっと どんとっとっと どんとっとっと どんとっとっと

   どんとっとっと どんとっとっと どんとっとっと どんとっとっと

   どっどっどっど どっどっどっど どっどっどっど どっどっどっど


   ドッリッルッのやーまはぁー 天下の


「――ドリルの山ってなんじゃーーーーー!!!!」

 祐巳はキレた。斧を投げ捨てて皮ポンチョを投げ捨ててキレた。
 その剣幕に、志摩子はビクッと身を震わせた。

「しかも天下の何!? 何言わせようとしてるの!? 仮にドリルが天下の何かしらだったりしたら、そのドリルを制してる私がつまり天下をアレしちゃってるってことでいいの!?」

 祐巳のあまりのキレっぷりに、志摩子はオロオロするしかない。 

「はっきりしてよ! そりゃもう志摩子さん、花寺の男子生徒に『お父さんに弟子入りしていいですか? え? 住職の修行? いいえ、もちろん芸人としてです』とか言われるよ! しかも複数名に!」

 志摩子はハッと顔を上げ、眉を吊り上げ、「なんでそれを言うのよ」みたいな不満げな顔をする。

「いいからもう早くみんな連れてきなさいよ! このガチ薔薇姉! 一点の曇りなき純白の悪魔!」

 祐巳の叱責に不満げな顔をしたまま、志摩子は皮ポンチョと手斧を抱えて会議室を出て行った。




 志摩子を追い出した祐巳は、イライラしていた。

「まったくもう……あ」

 つぶやくと同時に、ギシギシと階段の軋む音。この小さいながらもダイナミックな足音は――

「由乃さん」

 ひょいと顔を出した由乃は、祐巳を発見して微笑んだ。

「どこ行っていたの? さっき志摩子さんが来たけれど」

 一人でいることに一抹の不安を感じていた祐巳は、困った顔をして由乃に歩み寄る。
 そして――微笑みを浮かべたままの由乃は、手に持っていたソレを祐巳に差し出した。

「あ、そうそう。これね」

 にこやかにソレを受け取った祐巳は、

「えーと、スイッチ入れて……あ、そう、こうだよね、確か」

 窓際に移動し、

「校内の皆様、お疲れ様、お疲れ様です。こちら薔薇の館、紅薔薇のつぼみ、福沢祐巳、福沢祐巳でございまぁーす」

 手に持った拡声器を使って演説を始めた。誰一人聞いているものもいないのに。いや、由乃は聞いているが。

「時にはあなたの心の小動物、時には失敗をして庶民感をアッピールし、時には縁日村のアイドルに身をやつし、しかしてその実態は」

 祐巳はバッと後ろを振り返る。ハラハラしながら祐巳の告白を聞いていた由乃を。

「――暴走特急殺しじゃぁーーーーー!!!!」

 祐巳はキレた。拡声器をキーンとハウリングさせてキレた。
 その剣幕に、由乃はビクッと身を震わせた。

「なんで拡声器なんて持ってくるの!? 私に何を言わせたいの!? 声高らかに言いたいことなんて特にないけれど、まあ強いて言うならお姉さま方が卒業旅行的なモノに行くのかどうかが素朴に気になる今日この頃よ」

 よくわからない祐巳のキレた主張に、由乃はうんうんうなずく。

「それより拡声器なんて要らないのよ! そんなことしてるから、バレンタインで私や志摩子さんより多くチョコ貰っていたけれど『チョコの受け渡しよりバレンタインイベントで令さまにキレてたのが先だったらチョコ一個もなかったよね』とか一年生の間で噂されるんだよ!」

 由乃は「オイこの野郎それ言うなよオイ!」という怒髪天を突いた形相で祐巳に詰め寄る。

「いいから早くみんな呼んできてよ! 姉泣かせ! 壁に刺さったら飛び出すモノブロスハート由乃!」

 拡声器を押し付けながらの祐巳の叱責に怒りの感情を瞳に込めたまま、由乃は拡声器を抱えて会議室を出て行った。




 由乃を追い出した祐巳は、イライラしていた。

「まったくもう……あ」

 つぶやくと同時に、ギシギシと階段の軋む音。この耳を澄ませないと聞こえない微かな足音は――

「瞳子」

 ひょいと顔を出した瞳子は、祐巳を発見して微笑んだ。

「どこ行っていたの? さっき志摩子さんと由乃さんが来たけれど」

 一人でいることに一抹の不安を感じていた祐巳は、困った顔をして瞳子に歩み寄る。
 そして――微笑みを浮かべたままの瞳子は、手に持っていたソレを祐巳に差し出した。

「あ、そうそう。これね」

 にこやかにソレを受け取った祐巳は、

「これを頭にこう、装着してね」

 スポッと頭にそれをかぶり、

「よぉーし瞳子、私を、このお姉さまの祐巳さまを回転させなさい! 横に! 横回転に! ええもうさも頭のドリルで天を貫かんばかりにギュルギュル回しなさい! 無限へのカギを握る黄金長方形の回転で回しなさい!」

 まるでドリル状の釘のような細長く逆立ったヅラを被り、祐巳はその場でギュルギュルと回転する。横に。瞳子はうっとりと祐巳を見詰めつつ、肩だのなんだのに付加を加えて姉を黄金長方形で回す。

「――ってできるかぁーーーー!!!!」

 祐巳はキレた。目が回ったのかフラフラしながらキレた。
 その剣幕に、瞳子はビクッと身を震わせた。

「何このカツラ、どこにあったの!? 特注!? 逆立ち具合が実写版『今日から○は』の○藤くんを余裕で越えてるじゃない! ROOK○ESの関○くんも楽々越えてるじゃない! しかも束ねられてねじれちゃってるじゃない!」

 祐巳はキレながらも感心し、瞳子はご立派なドリルと姉との夢のコラボにまたうっとり見惚れる。

「こんなの持ってきて何考えてるの!? そりゃちさとさんが、顔を見るまで瞳子だと気付かないっていう大変な事件は確かにあったよ!? そのドリルヘアーが個性として認められていなかったっていう大変な事件はあったよ!? そのドリルに疑問を抱くのもわかるけど、でもコレはやりすぎ!」

 瞳子は「なんでちさとさまは顔で判断したんだろう。まず普通は髪型でわかるはずなのに」という微妙に悲しそうな顔をする。

「ぬぁぁぁああああああ!! もういいから早くみんな呼んできなさい!! このドリルに頼りきった没個性ドリル!!」

 ドリルヅラを押し付けながらの祐巳の叱責にちょっと悔しそうな顔をし、瞳子はヅラを抱えて会議室を出て行った。


 


 瞳子を追い出した祐巳は、イライラしていた。

「まったくもう……あ」

 つぶやくと同時に、ギシギシと階段の軋む音。この規則正しい足音は――

「乃梨子ちゃん」

 ひょいと顔を出した乃梨子は、祐巳を発見して微笑んだ。

「どこ行っていたの? さっき志摩子さんと由乃さんと瞳子が来たけれど」

 一人でいることに一抹の不安を感じていた祐巳は、困った顔をして乃梨子に歩み寄る。
 そして――微笑みを浮かべたままの乃梨子は、手に持っていたソレを祐巳に差し出した。

「あ、はいはい。これね」

 にこやかにソレを受け取った祐巳は、

「蓋を開けて、スープとかかやくの袋を出して」

 べりべりと蓋を剥がして、

「お湯を注いで三分待つ、と。この三分が長いんだよねー。日本一待たれている三分間と言っても過言じゃないよね」

 ポットからお湯を注ぎ入れ、祐巳はそれをテーブルに置く。緑のた○き。本来は四分待ちだが都合により三分待ちということにした。乃梨子は、その通り、と言わんばかりに頷いている。

「――ってなんで薔薇の館でカップ麺食わなきゃならんのじゃーーーー!!!!」

 祐巳はキレた。なんとなく三分待って硬めで完成させてからキレた。
 その剣幕に、乃梨子はビクッと身を震わせた。

「これどこから持ってきたんだ、なんて基本的なことは言わないから! きっと乃梨子ちゃんはこれを食べている私を見て『共食いですか?』なんて冗談でも飛ばしたいんだろうけれど、それ結構オヤジギャグだからね! いや根本的に趣味はおもしろいのに基本はそんなに面白くないよね!」

 祐巳はキレながら粉末スープを投入してカップ麺をかき回し、乃梨子はオヤジっぽい、と言われていささか傷ついていた。

「……ああ、ごめん。なんかもう疲れちゃったから、もういいかな? もういいよね?」

 急に冷めた顔でふーと息を吐く祐巳に、乃梨子は「いやいやいやいや! 構って構って!」という顔で大慌てで首を横に振る。ついでに手も振っている。

「そりゃ、乃梨子ちゃんも、ずずー、せっかくボケたのに、ずるずるーーーーー、ちゃんと構われないのもアレだろうけれど、……ぷはぁ、こういう展開もいわゆる一つのベタだと思うのよ。ずずずずずずずずー。……ふう、ごちそうさま。はぁー。こういうの久しぶりに食べたけれど、結構おいしいね」

 さて、と、祐巳は立ち上がる。

「それじゃ私、もう帰るね」




 ひとしきり騒いで帰った祐巳の背中を、窓から見送る山百合会メンバー。
 4人は「やっちゃったー」みたいな照れ笑いで、頭を掻いていたとかいないとか。





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