【2754】 血湧き肉躍るさすらいのヒロイン  (ケテル 2008-09-12 23:45:53)


このお話の55%は『マリアさまが見てる』で出来ています。
このお話の20%は『ファイナルセーラークエスト〜ひと夏の経験値〜』で出来ています。
このお話の10%は『クロスゲート』で出来ています。
このお話の10%は『コンチェルトゲート』で出来ています。
このお話の 5%は『ラグナロク・オンライン』で出来ています。




 〜*〜*〜 ファイナル・リリアン・クエスト 〜*〜*〜


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日もモンスターの返り血を拭いつつ天使のような無垢な笑顔で、結界の施された背の高い門をくぐり抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、鎧、ローブ、防護魔法を施したマントと深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように、ゆっくりと歩いているとモンスターに頭からガリガリ齧られる。 もちろん、HPギリギリで転がり込むなどといった事を繰り返すようなひ弱な生徒などは一学期以降存在出来ようはずも無い。

 私立リリアン女学園。

 ダンジョンの地下10階に存在するここは、冒険者を養成する、力強き乙女の園。


 明治三十四年創立のこの学園は、元は華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢様学校であった。 あの時までは…。 

 東京都下。 武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区の地下にダンジョンが発見されたのは1980年代、折からの狂乱地価によりすぐさま調査されたダンジョンには居住可能な場所が数階層分有り、地価が上がった地上に見切りをつけた人々が上の階層から居住し始めた。 もちろんモンスターの存在は確認されていたが、上層階の物はそれほど脅威とは受け取られず、程なくモンスター避けの方法も確立され安心して生活できる階層は下へ下へと広がっていった。

”ダンジョンの平和利用”である。

 一方、西洋の魔法と東洋の陰陽の研究が盛んに行われたりした中で、日本の研究者が空間に漂うエーテルの科学的な発見と利用法を確立したことにより、モンスターの研究が急激に進んだ。 科学的な手段でもある程度モンスターに対抗できるようになっていった。

 リリアン女学園が地価高騰のあおりを受け、今あるダンジョンの10階に移転してから今年で16年になる。





 S−1 エレベーター地下10階南駅北西学園口


「志摩子さ〜ん、ごきげんよう」
「ごきげんよう、志摩子さん」
「祐巳さん、蔦子さん、ごきげんよう」

 地中ドームの東西南北に螺旋状の軌道を作って各階層を結んでいる通称”エレベーター”その駅待合室の片隅で、困り顔をしている志摩子を見つけた祐巳と蔦子が声を掛けた。 周りはいつもの朝の通勤通学の風景。 でも、ここはダンジョンの10階、ショートソードやバトルアックスやバトルボー、魔法系ならホーリーロッドやメイス、中には銃火器を持っている者もいる、モンスターが襲って来るのだからしょうがない、自衛の為ダンジョンの住人や、ダンジョンに通勤通学の者は、ダンジョン内でのジョブアイテムとして武器の携行が認められている。

「今日は、志摩子さん魔クレなのね」

 クレリックには、ご存知のように魔法系の魔クレと、物理戦闘もある程度できる殴りクレがいる、志摩子は殴りクレをジョブとして選んでいる、MPが0になった後でも戦闘継続が可能だからだ。 しかし、実際は殴りクレはスキル上げが難しいので、ほとんどの人が魔クレを選択して人数がかなり少ない。
 祐巳もそうだったが殆んどの人が、志摩子の普段の言動や物腰などから殴りクレをしていると知った時にはずいぶん驚く。 どうやら志摩子はそれを楽しんでいる節もあるのだが、それはともかく……。

「ええ、ヒーリスのレベルがあと少しで上がるの、そうすれば全体回復のヒーリアが使えるようになるから。 ただ今日持ってきているのはホーリーロッドだから直接攻撃出来ないの。 もう少し待って誰も来なかったら単独で行こうかと思っていたところなの。 祐巳さんと蔦子さんと会えてよかったわ。 私、攻撃魔法をそんなに上げていないし」
「そんな、誰かに声掛ければいいじゃない。 でもあれね、志摩子さんだったら物理スキルも魔法スキルも満遍なく上げてそうに思ってたけど、そうでもなかったのね」
「それが理想だけれど、なかなか難しいわ」
「そっかスキルレベル上がるんだ。 ねね、志摩子さん、今日放課後下層階行ってみる?」
「ええ、私からお願いしようかと思っていたの、乃梨子と由乃さんもね。 一度薔薇の館に寄ってから仕事の状況を伺ってからになるけれど」
「私はぜんぜんかまわないよ。 この前、私のスキル上げにも付き合ってもらったしね」
「私も行っていいかな? まあ写真メインだけど」
「かまわないと思うけど、戦闘に参加しないの?」
「私は取り合えず3年間、ガンスリンガーとして最低限無事にすごせる程度のレベルがあればいいのよ、メインはカメラなんだから。 私が戦闘に参加しなくてもガンスリンガーなら乃梨子ちゃんの方がレベル4つも上でしょ? …そういえば乃梨子ちゃんは?」
「今日は日直なんですって、瞳子ちゃんと一緒に行くって言っていたわ」

 駅の待合室で、祐巳は護符と寄代を。 蔦子はIMI ジェリコ941F/Rに祝福済みの銀の弾丸(40S&W)12発装填済みのマガジンをセットしスライド後方へ引いてチェンバーに弾を送り込み、一度エジェクトして空いた分に1発弾を納めてから再度マガジンをセットし、予備のマガジン2本をショルダーホルスターにセットしてからカメラの準備を始める。 志摩子はマジカルロッドとルーン文字とアミュレットで特殊な装飾を施されたロザリオをそれぞれ準備する。

「……剣職が欲しいところかな?」
「まあ…、大丈夫じゃない、2人ともそれなりのレベルなんだし。 ま、油断は禁物だけど」

 ダンジョンで行動する者は、なるべく5人以内でパーティーを組む事を推奨されている、なぜ5人かと言うと、全体回復魔法と言われている”ヒーリア”で、どんなに高レベルでFP値が高くても5人以上の回復が出来ないのだ。

 通学カバンを背負い、防護魔法が掛けてあるマントを羽織って、結界に守られている駅からモンスターの徘徊するダンジョンドームに足を踏み入れた……毎朝の通学風景なのだけど。





 S−2 

  タターンッ
      グアッ!!

 路地の影からいきなり飛び出して来たゴブリンの3匹に最初に反応した蔦子が、先頭の一匹の頭部と左胸に1発づつ銀の弾丸を見事に決める、短いうめきをもらしてゴブリンは絶命した。

「螣蛇火神(とうだ)! 朱雀火神(すざく)!」

 蔦子につづいて祐巳が、駅前のロータリーで具現化させた式神2体を動かす。
 十二天将の式神を出す時、寄り代をうっかり歩いている人の前に放ったため、出現と同時に攻撃されそうになるというトラブルはあったものの、嫌な顔もせずに指示どうりに残り2匹のゴブリンをあっという間に片付けてしまう。 モンスターの死骸はこのダンジョンの場合都の清掃局が回収したり、他のモンスター特にスライム系の物が餌として食べてしまったりする。

「なんかエンカウント率高いわね。 2カートリッジ打ち尽くしちゃったわ」

 撃ち尽くしたマガジンをエジェクトさせた蔦子がマガジンを装填しながら愚痴る。 いつもなら通学路では5回もモンスターに遭遇すれば多い方なのだが、今日に限ってはすでに12回も遭遇している。 

「祐巳さん大丈夫? 式神出しっぱなしだけれど。 これ、少しでも回復になると思うから」

 式神を具現化させてコントロールする為には精神力に依存する所が大きい。 今現在複数の式神を具現化させている祐巳に、志摩子がキャンディーを差し出す。 今の祐巳のレベルで一度に具現化させられる式神の数は4体である。

「あはっ、ありがとう志摩子さん、いただいとくわ。 能力いっぱいじゃないからまだ大丈夫だよ」
「額に汗が出てなきゃもっとかっこいいと思うけど、無理しない方がいいよダンジョンじゃね。 はぁ〜。 でも、急がないと遅刻しちゃうわよ」

 戦闘による遅延は朝のHR終了までは許される。 しかし、一般生徒の鏡たる白薔薇さまと紅薔薇の蕾としては、HR遅刻は、なんとしても避けたいところ。 アノカタもいらっしゃるし。

「そうね、蔦子さん。 他に武装は無いの?」
「ごめん、後ナイフだけ。 残弾が13発か。 失敗したな〜、SPAS12(散弾銃)は学校のロッカーの中に置いたまんまだし」
「なんで置いたままなの?」
「重いし、両手使うからカメラ構えられないじゃない。 それにエーテル弾も銀の弾丸も高いんだよねぇ〜。 学生にはキツイわこの職」

 武器や装備品は学割で購買部で買うことが出来る、一般の場合は申請すれば年末控除の対象になるものの、やはり安い物ではない。


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 地下10階の直径5kmの中央空洞から、南三番空洞内にあるリリアン女学園までは約3kmある。 祐巳達は今、中央空洞からもう少しで南三番空洞に入るところまで来ていた、直径4m全長750m程の洞窟に木道を組んで道として使っている、壁面や天井はそのまま、洞窟内の環境破壊を極力抑える様に工夫されている。

 少し急げば何とか間に合う。

 そこを右に曲がれば南三番空洞に入るというそのすぐ先で戦闘が行なわれている気配がしていたが、祐巳たちが付いた時には戦闘自体は終わっていた。

「由乃さん、黄薔薇さま!? ごきげんよう…」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。 黄薔薇さま、由乃さん。 だ、大丈夫ですか?」
「あ〜、祐巳ちゃんに志摩子に蔦子ちゃんか。 ごきげんよう」
「……ごきげんよう…祐巳さん、志摩子さん、蔦子さん……」

 日本刀をサッと懐紙で拭いて鮮やかな手つきで鞘に収めた令と、対照的に憮然とした顔の由乃が少しまごつきながら刀を鞘に納める。 機嫌が悪いのがまる分かりだ。
 2人の足元に骸を曝しているのは、空中を漂うエーテルの流れの中を群れを成して泳ぐ”空飛ぶ風船ウナギ”ことマンイーター、ここに転がっているのは2m程の個体が5匹と、それほど大物はいないが、20階以下の階層には未確認ながら15mを超える大物もいるらしい。

「ど、どうしたの由乃さん? どこか怪我でもしたの?」
「たぶん違うと思うよ祐巳さん。 令さまも心配性だわ」
「い、いや…だって……」
「令ちゃんが…」

 奥歯の間から搾り出すように声を出す由乃、プルプル震えながらモンスターの返り血を浴びた右手の拳をゆっくり上げる。 そう言えば令も由乃も返り血を浴びて凄まじい事になっているのがことさら怖い。

「令ちゃんが、私が敵を倒そうとするのをことごとく横から掻っ攫ってってくれて! どう言う事よ?! 私のLv上げの邪魔でもしてるの?!」
「そ、そうじゃなくて、反応速度の差とか、刀の取り回しとかもあるし…それに…」
「それに?!!」
「……よ、由乃に任せてると…その……遅刻しそう…」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜、そこえなおれ〜〜〜!! 手打ちにしてくれる〜〜〜!!!!」
「あ〜〜〜由乃さんストップストップ! 人間傷つけたら停学処分になっちゃうよ!」
「いや祐巳さん、停学どころか警察に逮捕されるから」

 令が由乃を思ってかばうのは毎日のことなのだろうが。
 戦闘に参加しただけではレベルの上がりは鈍い、スキルは使わなければ上がらない。
 もうすぐレベルが上がるという時に過度に庇われたた由乃は、刀の柄に手を掛けて咆哮する。
 銃器や刀剣類で人間を殺傷したら、当然警察沙汰として扱われてしまう。 蔦子はサッと由乃の後ろに回って羽交い絞めにし、祐巳と志摩子は前から押しとどめる。で由乃を止めに入った。

「放せ〜〜武士の情け〜〜!」
「だめだってば〜〜〜!!」
「だいじょうぶよ、切った後の死体なんてその辺に放って置けばスライムが処理してくれるわ! 完全犯罪よ!!」
「よ、由乃〜…」

 由乃のあまりの一言にがっくりと肩を落として滂沱の涙を流す令。

「私らが知ってる時点で完全犯罪じゃないから!」
「……ごめんみんな……私のために死んで! 私も後で切腹するから!!」
「だ〜〜〜〜〜〜!!」


 リリアンの方角からチャイムが聞こえてくる。 5人の遅刻が確定した。
 

                      〜〜〜〜〜 第一話 了 〜〜〜


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