【2766】 世紀末覇王(嘘)伝説天の道を往き  (海風 2008-10-10 11:39:31)





世紀末覇王伝説.1

「困ったわね」
「ええ、困ったわね」
「ごきげんよう。どうかしたの?」
「あ、(匿名)さん。ほら、これを見て」
「あら? 鳥のヒナ?」
「ええ。あそこの木の上の巣から落ちてしまったらしくて」
「それは大変だわ。早く戻さないと」
「でも木登りなんてできないし」
「手を伸ばしても届かないし」
「肩車……なんて、さすがにはしたないわね」
「こんな時に背の高い人がいたらなぁ」
「180センチ近い長身の人がいたらなぁ」

「――ごきげんよう。こんなところでどうしたの?」
「「あ、覇王さま!」」

  こうして小さな命は救われたのだった……





世紀末覇王伝説.2

「ふふふ、絶対絶命とはこのことね。リリアンバスケ部の部長さん」
「こうして三人に囲まれては、ドリブルで抜くどころかパスを出すことも難しい」
「さあ、大人しくボールをこちらへ渡しなさい。悪いようにはしないから」
「嘘おっしゃい。ボールを渡した瞬間、ゴール目掛けて走り出すくせに」
「そりゃそういうスポーツなんだからしょうがないでしょ」
「どうせあなたにはどうすることもできないのだから。口を出すことしかできないのだから。だから早く渡しなさいよ」
「まあ、この包囲網を突破するには、高さを使って180センチくらいの選手にパスを送るしかないわね」
「果たしてリリアンにそんな超高校級の選手がいるかしら?」

「――部長、こちらへ」
「あ、覇王ちゃん!」

  こうしてリリアン女学園バスケットボール部は夢の全国へ……




世紀末覇王伝説.3

「ね、いいジャン彼女」
「俺達と遊ぼうぜ」
「やめてください」
「触るなゲス」
「おー怖い怖い。そんな睨まなくてもいいジャン」
「可愛い顔が台無しだぜ? ビリビリに破かれたアルマァーニみたいにさ」
「人を呼びますよ」
「この人類最下層の負け犬ども。迷惑は最小限自分の人生だけに留めて生きろ」
「さっきから見てたけど、キミら待ち合わせでしょ?」
「まあ俺らより背が高い奴がきたら、男でも女でも諦めるけど?」
「無理だよ。だって俺達、身長180センチもあるのだから」

「――お待たせ。待った?」
「「あ、覇王さま!」」

  こうして少女達は、楽しくショッピングへ……





世紀末覇王伝説.4

「うーん。うーん」
「あら(匿名)さん。爪先立ちなんて安定感のない体勢でどうしたの?」
「あ、うん。このプリントを掲示板に張らないといけないのだけれど」
「なるほど。高さが足りないのね」
「どうしよう。このままじゃ他のプリントに重ねて張らないといけなくなっちゃう」
「そうね。誰か183センチくらいの背の高い人が、(匿名)さんを優しく“高い高ーい”の要領で抱っこしてくれれば張れるのにね」
「そんなことになったら、できる限り水平に張るなんて余裕もあるのだけれど」

「――お姉さま方、もしよろしければお手伝いしましょうか?」
「「あ、お願い覇王さま!」」

  こうしてプリントの張り出しは無事に遂げられた……




世紀末覇王伝説.5

「はあ。困ったわ」
「あれ? (匿名)さん、こんなところでどうしたの?」
「ああ……今日は銀杏拾いに来たのだけれど、あまり落ちていないの」
「そうなんだ」
「こんな時、186センチ近い長身の方が、銀杏の木を揺らしてくれれば助かるのだけれど」
「ふふふ。そう言うと思って、連れてきているよ」

「――この枝を揺らせばいいのですか?」
「あ、覇王ちゃん!」

  こうして少女は心行くまで銀杏拾いを……




世紀末覇王伝説.6

「参ったわね」
「どうしたの?」
「ちょっと変わった妹が欲しいのだけれど、今年の一年生はどうもパンチが弱いのよね」
「パンチって……そんなことないでしょ。ほら、ドリルの子とかいるじゃない」
「あそこまで行くとパンチが効きすぎなのよ。わからないかな、この微妙なバランス感覚」
「わからない」
「まあ、たとえばだけれど、身長189センチはあろうかという欧米でも希少価値が高そうな大きな妹。どう? 面白そうじゃない?」
「ドリルはダメで、ノッポさんはいいの?」
「うん。個人的な好みで。大きい妹いいよねー。萌えるよね」
「……いや、それはどうだろう」

「――……」
「あ、そこの一年生! えっと、覇王ちゃん!」

  こうして少女は好みの妹候補を得た……




世紀末覇王伝説.7

「そっち行ったわよー」
「そー、れ!」
「きゃあ」
「もう! バレー部が素人相手にアタックとかしないでよ!」
「そうよそうよ!」
「これただの体育よ!?」
「ふふふ。勝負は無常なものなのだよキミィ」
「あ、また来る! 誰かブロック!」
「できれば190センチオーバーの長身で運動神経の良い人が飛んで!」

「――はいブロック」
「あ、覇王さま!」

  こうして少女達は勝利を手に……











覇王伝 番外編


  ガララ

「新聞部の皆様、ごきげんよう。今までずいぶんと勝手な4コマ漫画を掲載してくれましたね。私はもう十分我慢したと思うので、手っ取り早く今から鉄拳制裁を行います。文句のある方は、まず自分の胸に『自分がそれを言う資格があるのか』を問い掛けてから仰ってください。文句がなければ廊下に整列をお願いします」

  誰一人として弁解も言い訳も抵抗もしなかったとか……




        世紀末覇王伝説 完
















一つ戻る   一つ進む