琴吹 邑 さんが書かれた『白薔薇革命つぼみのきもち』【No:275】の続きです。
「白薔薇革命か。」
革命ってのは、今回違うよなあ、ぶつぶついいながら帰り道の乃梨子。
結局薔薇の館には寄らず、まっすぐひとりで帰ることにした。
今朝、作戦会議のあと、乃梨子は自分からロザリオを志摩子さんに渡した。
「ほんとにいいのね?乃梨子。」
「祐巳さまに、瞳子が『私にお姉さまを重ねているの?』って言われた時の顔、見ていたもの。瞳子のあんな顔見たくないよ。」
「わかったわ。今回のこと、人の気持ちには敏感な祐巳さんらしくないもの。いえ、わからなくはないわ。」
「どういうこと?」
「自分の好きな人の気持ちって、必死の時にはわからないものよ。でも、あそこまで瞳子ちゃんを絶望させてはいけないわ。」
「うん。」
「それじゃ、これは乃梨子からのまた貸し。」
そう言って志摩子さんは、腕にロザリオを巻いた。前の白薔薇さまから『借りていた』時のように。
「あははは。瞳子が承知ならまたまた貸ししてもかまいませんよ。でも、最初の借り主は私よ、志摩子さん。」
「心配?」
「ううん。志摩子さんの心配は、してない。」
「ありがとう。」
ロザリオの重さは今はよく知っている。桂さまだって、その時にはただの流行の真似じゃない真剣な理由があったはずだ。桂さまが絶対に使わない一本のラケットの話、実は祐巳さまから聞いて知っている。姉妹の間でなにも問題がないなんてあるわけない。
あってあたりまえ、それを乗り越えて姉妹なんだもん。
「信じてるからね、志摩子さん。」
乃梨子だって志摩子さんのことばかり考えているわけにはいかない。シナリオが非常事態モードにはいったからには、瞳子のいちばんそばにいて、祐巳さまにツッコミもいれられる乃梨子の役は簡単じゃなくなったのだ。
† †
「お姉さまあ。」
古い温室に現れた祥子さまは、優しい顔でいつものように祐巳を受け止めてくれた。
しばらく泣いたあと、ふっ、と力が抜ける。志摩子さん、怒ってた。
「座りましょうか。」
ならんで座る。お姉さまがタイを直してくれる。
「ねえ、祐巳。私はだれがあなたの妹になろうとかまわないわ。あなたが決めることだもの。」
「……」
「でもね。あなた、妹は私と同じように好きになれる人、そう思ってるでしょう。」
「あの、私はお姉さまみたいにほんとうに好きって思える人を妹にしたいって思って。」
「私と『同じ』に好きになれる人は私しかいないわよ。」
「え?」
「私は私、瞳子ちゃんは瞳子ちゃん。瞳子ちゃんに私を重ねていたのは、祐巳の方かもしれないわよ。」
「そんな。」
「どちらにしても、このままでは済まないのでしょう?」
「はい。瞳子ちゃんとちゃんと話さなければ。」
「久しぶりにいっしょに帰りましょう。」
温室を出る二人。
「志摩子は手強いわよ。」
「あ、の、お姉さまは……、あ、待ってください!」
† †
「あそこまでやるなんて、聞いてないわよっ。」
薔薇の館で、由乃は叫んでいた。
だから、なんでそこでぽわぽわとダージリン飲みながらふふふなんて笑っていられるのよ、そこの白薔薇っ。
「ロザリオなんてただの飾りよ。ロザリオなんてあってもなくても姉妹は姉妹だわ。」