「え?」
志摩子は驚きのあまり聞き返していた。
「だから、私もリリアンに入るの。高校はリリアンに決めたから」
「どうして?!」
「それはもちろん、志摩子のことが心配だから」
そう言ってにっこりと微笑んだのは藤堂祐巳。志摩子の双子の姉。
「ねえ、志摩子。お寺の子がリリアンにいたって私は構わないと思うよ?
何を気にしているのか知らないけど、志摩子には笑っていて欲しいな。塞いでる志摩子なんて見ていられないよ」
祐巳は心配そうに志摩子の顔を覗き込んだ。
「祐巳・・・」
「だから私もリリアンに行くことにしたの。私が一緒にいれば、少しは気が楽でしょう?
あ、これは私が決めたことなんだから、志摩子が負い目に感じることなんて何もないからね」
どこまでも志摩子を気遣う祐巳。
そんな祐巳が志摩子は大好きだった。
日はかわって。
今日はリリアン女学園高等部の入学式。
志摩子は一年桃組の教室の前にいた。
中からは楽しそうな騒ぎ声が聞こえる。
はぁ。
ため息を一つつくと、志摩子はドアに手をかけた。
ガラリ―――・・・・・・
先ほどまで騒がしかったクラスに沈黙が訪れる。
「ごきげんよう」
「・・・ご、ごきげんよう!」
志摩子が挨拶をすると、慌てたようにクラスメイトたちが挨拶を返す。
これは今に始まったことではない。
志摩子がリリアンに入った時、中等部の頃からずっとこのような調子なのだ。
西洋人形を思わせる容姿に、儚げな雰囲気を持つ志摩子。
まるでマリア様のよう。そう言う者も中にはいるらしい。
とにかく、志摩子はその容姿のお陰でとても目立っていた。
きっと薔薇さまになるに違いない。気が付けばそんな噂まで流れていた。
志摩子は同学年の者から一目置かれていた。悪く言えば、浮いているのだ。
そんな風に見ないで欲しい。
志摩子は自分の席を確認しながらそう思っていた。
しかし、そう思う志摩子とは裏腹に、クラスメイトたちは羨望の眼差しで志摩子を見つめていた。
ガラッ―――
「おはよう!」
リリアンらしくない、元気一杯の挨拶声が聞こえた。
桃組の一同は驚いてその声の主を見た。そして絶句した。
そこにいたのは志摩子だった。
いや、志摩子と同じ顔をした、ツインテールのかわいらしい元気一杯の少女だった。
「あ、志摩子。私の席どこ?」
満面の笑みで志摩子に尋ねる、志摩子と同じ顔をした少女。
志摩子も一瞬驚いたが、微笑みながら後ろの席を指差した。
「ここよ。私の後ろ」
ツインテールを弾ませながら、志摩子が指差す方へと進む少女。
「遅かったのね」
「トイレがどこにあるのかわからなくて時間かかっちゃった。
こんなことならついてきてもらえばよかったなぁ」
ツインテールの少女は恥ずかしそうにはにかんだ。
「それにしても、このクラスは静かだね。他のクラスは廊下にまで声が聞こえていたけれど」
確かに志摩子の登場でクラスは静かになった。
しかし、今はそれ以上に、見慣れない少女の登場に驚いているのだ。
いや、見慣れた顔ではあるのだが・・・
「あの・・・志摩子さん?この方は・・・?」
一人の少女がクラスを代表して尋ねた。
「あ、私は藤堂祐巳。志摩子の双子の姉だよ。よろしくね」
そう言ってにっこりと微笑む祐巳に、クラスメイトは頬を赤らめて頷いた。
※祐巳と志摩子はそっくり姉妹。百面相はあるけれど、タヌキではありません。
というか、双子が同じクラスになるなんてないだろなー。 一応、続く・・・予定