【2787】 敵は青田買い寄ってかない?  (西武 2008-11-22 11:36:24)


「もーいーくつねーるーとーしーんがーきー」
春休みは無駄に長いと思う。それというのも令ちゃんのせい。大学の近くに下宿するとかいって、さっさと引っ越した上に大学の準備に忙しいとかいってさっぱり戻ってきやがらない。
なので暇を持て余して用もないのに学校へ来てるのも、おかしな歌を歌って説明的なモノローグをしながら校内を徘徊しているのも、みんな令ちゃんが悪いのである。
「どうもありがとうございました」
突然耳に入ってきた聞き覚えのある声に振り向くと、やはり新聞部の前で誰かと菜々が話していた。

「こちらこそ。それではよい返事を期待しているわ」
「はい。失礼します」
そういって菜々が去ったあと今度は真美さんが出て来た。
「いい人材に目を付けたわね」
「ありがとうございます。お姉さま」
「これからの新聞部が楽しみだわ」
なんですと。
こんなところに伏兵がいたとは。
大体、真美さんならあの娘に誰が目を付けてるか知ってるんじゃないの。
それも一般生徒のいない春休みになんて、姑息なまねを。
飛び出して文句言ってやろうかと思ったが、そのとき別のことを思いついた。


翌日。
やってきました有馬道場。
文句言うなんて無駄なこと。黄薔薇はいつでも先手必勝である。妹選びだったらなおさら鉄則。
「入学式までロザリオ渡しちゃいけないなんて、どこにも書いてないんだから」
リリアン生には違いないんだし。
ぴんぽ〜ん。
なんか道場に似つかわしくない呼び鈴を鳴らすといかにも、貫禄\ありげなご老人が出て来てくれた。
「はじめまして、菜々さんの友人のよ、島津といいます。いらっしゃいますか」
たのもう、といいたいのを我慢して、そう挨拶。支倉ではないんだし、気づかれずに穏便に進められるはず。
「おお。あなたが由乃さんですな。菜々がいつも話しておりますぞ」
そっか。
「うん。聞いていたよりもかわいらしい」
「あ、ありがとうございます。それで」
「うむ。それがあやつめ朝稽古が終わるとカメラを持って飛び出していきよってな」
カメラ?取材?もうそこまで?おのれ山口真美とその妹め。

おじいさまから聞き出した心当たりをめぐること三カ所、ようやく見つけたわ。
「菜々!」
振り向いた瞬間ものもいわずにロザリオを投げつける。
菜々なら避けるなんて安易な選択はしないはず。受け取ったらそこで姉妹成立よ。
「くらえ。必殺チョコレートコー、ト?」
しまった。すっぽ抜けた。
なんなくキャッチ。
「………」
「あ、由乃さま。わざわざ持って来ていただいたんですか。ありがとうございます」
「あ、ああ。うん。ええと受け取ったら姉妹成立だけど、いいの?」
「はい。
あ、よろしくお願いします」
「ええと、新聞部は?いいの?」
「あ、ご存知でしたか。はい。リリアンかわら版薔薇の館支部として頑張りたいと思います」
ああ。って何それ。


「つまり、昨年度山百合会とは大変協力させていただいたとは思いますが、やはり読者はもう少し突っ込んだ情報を求めていると思います。
そこで、不正確な憶測記事にもならず、同時に強引な取材も避けるとなるとやはり内部の方の協力が必要なのです」
「ふーん」
「そこで菜々さんに試しに書いていただいたら、とても光るものがありまして」
「そう」
「どうでしょうか」
「まあいいわ。ちゃんと妹にもできたし。あの娘、よろしくね。ただし」「え」
「わたしも書くから。新生山百合会捕物帖。載せてちょうだいね」


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