「これは、由々しき事態です!!」
普段の温厚な、ほぇえとした雰囲気とは裏腹に、やたらとエキサイトしているのは、白薔薇さまの藤堂志摩子。
バン、とテーブルの上に資料を叩き付けながら、激昂の様子。
「学園敷地内の植え込み、花壇、植木鉢! せっかく咲き誇った花々を荒らす、この卑劣極まりない行い! 断じて許せません!」
白薔薇さまとしての責任か、環境整備委員会に所属している者としての矜持によるものか、その凄まじいまでの勢いに、さしもの山百合会関係者も唖然とした表情。
テーブル上の資料には、無残にも引き千切られ、地面に散らばる花の写真が何枚も。
まるでゴミのように散らかされ、花好きの人なら目を背けずにはいられない有様。
「こうなったら、全力で犯人を捕まえ、この世に生まれて来てゴメンナサイと泣いて謝るまで、ボッコボコのメッタメタのガッタガタのズッタズタのギッチョギチョのベッチベチのダッツダツのゲッシゲシのブッチブチの……」
「はいはい、そこまで」
呆れた表情で、手をパンパンと叩きながら窘める紅薔薇さま小笠原祥子。
「腹が立つ理由も分かるけど、冷静さを失ってはダメ」
黄薔薇さま支倉令が、至極最もな意見を述べる。
「そうそう、落ち着いて行動しないと失敗するわ。どうあれこの問題は、山百合会が最優先事項として取り上げ、関係各所に協力を取り付けて、解決することにするわ。異論は無いわね?」
見渡す紅薔薇さまの言葉に、令も、その妹島津由乃も、志摩子も、その妹二条乃梨子も、一斉に頷く。
しかし、紅薔薇のつぼみ福沢祐巳だけは、顔を引き攣らせ、汗をダラダラ流して硬直していた。
「……祐巳、聞いてる?」
「……え? あ? はははははいぃ? 聞いてます?」
「いや聞かれても。どうしたの? 今日も変よ?」
「“も”ってどういう意味ですか“も”って!!」
「そこは冷静なのね。とにかく、分かってるわね。早急に犯人を捕まえ、園中引き回しの上、マリア様の前で全生徒に謝らせる方向で行くから」
それを耳にした祐巳は、今度は真っ青になって、ブルブルと震えだした。
「どうしたの祐巳さん。本当に変よ?」
「そうよ、いつも以上に変よ?」
我慢しきれず、由乃と志摩子も訝しげ。
一同の不信な眼差しに耐え切れなくなったのか、祐巳はいきなり立ち上がると、
「ご、ごめんなさい!!」
大声で謝った。
「まったく、獅子身中の虫とはこのことね」
疲れた口調で、呟く祥子。
それもそのはず、真犯人は、なんと祐巳だったのだから。
「どうしてこんなことを……?」
悲痛な面持ちで、祐巳に問う志摩子。
「だって、だって……」
「だって?」
「だって、美味しそうだったんだもん」
写真に写っていた花の種類は、ツツジとサルビアだった。