【280】 超能力軍団オーディション  (いぬいぬ 2005-07-31 00:09:47)


「超能力部・・・ですか?」
「正確には超能力研究会よ。公式に会の発足を認めた覚えも無いんだけど。まあ、“自称”超能力者達の集まりよ」
思いっきり胡散臭げな乃梨子の言葉に、令は溜息と共に答えた。
「何よその胡散臭い連中は。いったい何を始める気?」
由乃も胡散臭げに令に聞く。
「なんだかね・・・超能力軍団を作るオーディションを開きたいから、講堂の使用許可をくれって事なのよ」
令は疲れきった表情で答えた。
夕方、薔薇の館の前に来るそうそう、盛大な溜息と共に椅子に座り込んだ令に理由を聞いたところ、どうやらソレが原因だったらしい。
実際、“自称”超能力者の相手など、疲れるだけであろう。山百合会幹部であるがゆえ、生徒の要望を聞く立場ではあるが、限度というモノがある。
「でも、中には本物の超能力者の人もいるかも・・・」
わくわくした様子で祐巳が言うが、令はそうは思っていないようだった。
「仮に、超能力研究会に本物がいたとしても、それがリリアンの敷地内で黒マント着て黒いベールをかけてるなら、素直に尊敬も驚嘆もできないわね」
「く、黒マントに黒いベールですか・・・」
嫌そうに吐き捨てる令に、さすがに祐巳も黙り込んだ。それはそうだろう、その姿では超能力者というよりも・・・
「黒魔術と混同していますね」
乃梨子の言うとおりである。
しかし、リリアンの敷地内で堂々とそんな扮装に身を包み、それどころか黄薔薇さまに嘆願に来たのだから、ある意味それも超能力と言えるかも知れない。
「超能力自体は否定しないけど、そんな連中に講堂の使用許可なんて与えたら、物笑いの種になっちゃうわよ!」
由乃は憤慨していた。令に厄介ごとを持ちかけたこと自体に憤慨しているのかも知れない。
「それに、その人達に使用許可を与えてしまっては、その後、おかしな理由で講堂の使用許可を求められた時に、断れなくなってしまいますね」
乃梨子はその後の問題点を指摘する。
「使用許可は与えられないって言っといたわ。元々、学校行事以外で私的に使えるものでもないしね」
そう言って令は紅茶を一口飲んだ。
「でも、超能力って本当にあるのかなぁ」
祐巳はそこが気になっているらしい。
「どうかしらね。私は本物を見た事無いけど」
由乃もはっきりと断定はしない。
「目撃報告は無数にありますけど、科学的に実証された事は無いんじゃないですか?実証されているなら、新たなエネルギー源として研究が進んでいてもおかしくは無いですから。まあ、存在自体を否定する事はできませんが」
乃梨子も完全には否定しないようだ。
「あら、私はあると思うわ、超能力」
突然、志摩子が言い出す。それが当然とばかりの態度に、他の面々は驚いている。
「根拠は何よ?志摩子さん」
納得行かない顔で、由乃が詰め寄る。
「私達のすぐ傍に、超能力としか言えない力を持った人がいるからよ」
「私達のすぐ傍に?」
令も志摩子の発言に疑問の声を上げる。
「志摩子さん、それって誰?」
祐巳が聞くと、今度は志摩子が不思議そうな顔をする。
「祐巳さん、気付いてなかったの?」
「え?私のそばにいるの?」
祐巳はますます混乱した。
「だから、誰なのよ!」
由乃はイライラと問い詰めた。すると、志摩子は少し考えた後に、こう言い出した。
「そうね、じゃあ、今から実験してみましょうか?」
そう言うと、志摩子は祐巳の背後に回る。そして、祐巳を優しく抱きしめた。
「し・し・し・志摩子さん?!」
志摩子の突然の行動に、祐巳は慌てる。しかし、志摩子はさらに次の行動に出た。
「し、志摩子さん!どこ触ってるの?!や、ちょっと!耳に息を吹きかけないでぇ!!」
目の前で展開される妖しげなシーンに全員が目を奪われていると、突然、ビスケット扉が乱暴に開かれた。
「祐巳!!」
扉を開いたのは祥子だった。
「お、お姉さまタスケテ・・・」
祐巳が情けない悲鳴を上げると、祥子は志摩子から祐巳を奪い返した。
「志摩子!いったいどういうつもり?!なんて羨ましいことを・・・じゃなくて!私の祐巳に何をしていたの!」
「申し訳ありません紅薔薇さま。ちょっと検証を・・・」
「検証?」
志摩子の落ち着き払った様子に、祥子も冷静さを取り戻した。
「はい。ちなみに祥子さま、今どうして祐巳さんの名前を叫びながら入っていらしたんですか?」
「それは・・・部室棟を歩いていたら、なんだか急に祐巳に危険が迫っているような気がしたのよ」
どうやら部室棟から全力疾走してきたらしい。
祥子自身もはっきりと断言はできないようだが、これは一種の超能力と呼べるだろう。
もしかしたら、もうちょっとインモラルなモノかも知れないが。
「ね?すごいでしょう?」
微笑む志摩子に、全員が返す言葉を失っていた。
祐巳は別の意味で言葉を失っていた。危険を察知してお姉さまが駆けつけてくれたのは良いが、なにやら祥子から絡みつくような念を感じ取ってしまったのだ。まあ、その判断は正しいだろう。現に今も、志摩子から祐巳を奪い返した祥子の手が、なにやらモゾモゾと蠢いているのだから。



その後、どこから話が漏れたのか、しばらくの間、祥子は超能力研究会の熱烈なスカウトに悩まされたという。


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