「お姉さま、もしかしてお疲れですか?」
「突然何を言い出すの?祐巳」
祥子はなんでもないように装っていたが、内心驚いていた。確かにここのところ、残暑と学園祭の準備で少し疲れ気味だったのだ。
しかし、祐巳に心配をかけまいと、表情には出さないよう注意していたにもかかわらず、その祐巳自身に見抜かれてしまったのだから、祥子は本当に驚いていた。
「祐巳こそ疲れているのではなくて?あなたは頑張りすぎて倒れた事もあるんだから。あなたの方が心配だわ」
「大丈夫ですよ。一度あんな事をしでかして、お姉さまに心配をかけてしまったからこそ、自分の限界は判っているつもりですから」
祐巳は微笑む。その微笑につられないようにしながら、祥子は言った。
「それなら良いのだけど。いずれにせよ、あなたに心配してもらわなくとも、体調管理くらい自分でできます」
祐巳に心配をかけまいと、祥子はわざと冷たく突き放すような言葉を選んだ。
しかし、祐巳には判っていた。祥子が自分に余計な心配事をかかえさせないように、優しい嘘をついている事が。だからあえて、その素直になれないうしろ姿に、自分も優しく嘘をつく。
「そうですね。私の勘違いだったみたい」
しかし、祥子も気付いていた。自分の嘘を、どうやら祐巳が見抜いている事を。意地を張る祥子を、祐巳はいつでも助ける気でいる事を。
そして、祥子は嘘を重ねる。
「そうよ。明日からも、学園祭の準備をバリバリ進めるわよ」
それは、相手を信頼しているからこそつける嘘。
あの梅雨の時期を乗り越え、本当に辛い時には、互いに支えあえると判っているからこそつける、見栄っ張りな嘘だった。
素直になれない祥子のうしろ姿は、素直になれない祥子を知っていて尚、それを受け止めて許す事ができる祐巳にだけ見せる、祥子なりの甘えなのかもしれない。