感想くれた人たちありがとうございました。一応ラストまでの流れは決めてあるのでちょこちょこ書いていきます。
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マリア祭の対面式が始まった。
壇上に並んだ山百合会のお姉さま方。
その中にあの人の姿があるのを見たときひどく納得をした。
人格者という言葉がこの上なくあてはまるような優しかったあの人。
今まで山百合会にはあまり興味はなかった。なぜなら同級生たちの噂する薔薇様たちの話はイメージが先行し、半ば偶像崇拝に近いものだと感じていたから。
けれどそんなことはなかったらしい。あの人は確かにみんなが噂するような素晴らしい人だった。それならあの人のお姉さまや仲間たちなら本当にできた人たちなのだろう。
あの時のあの人は自分たちが導くべき一般の生徒に手を差し伸べただけだった。
そう理解した時、安堵と落胆を感じた。
安堵したのはあれほど遠い人ならこれ以上関わることはなさそうだから。これ以上感情を揺らされることはないということだから。
落胆したのはあの人にとってあれは特別なことではなかったから。きっと百の中の一つに過ぎなくてすぐに忘れてしまうだろうから。
どちらの感情もどうしようもなく愚かだ。自分が気にかけてもらえるとでも思っていたのだろうか、そう思うと自嘲がこみ上げてきた。
薔薇様と呼ばれる人たちが一人一人に花をかけていく。あの人はお姉さまである紅薔薇様の傍で籠を抱えている。
順番はすぐに巡ってきた。
「マリア様のご加護がありますように。」
そう言いながら花をかけられた。綺麗なひとだと思った。艶やかな長い髪に意志の強そうな瞳。こんな人だからあの人を妹にできたのだろう。
「ありがとうございます。」
下げた頭をあげた時ふとあの人に目を向けてしまった。
一瞬目が合ったような気がしたがすぐに次の人の番になり流れていく。
きっと気のせいだった。
まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
きっと会いにはこない。
分かっているつもりだったけど期待している自分がいるのも否定できなかった。
薔薇の館の扉が開くたびに反応してしまい、あの子ではないとわかるとがっかりするのをこの数日繰り返していたからだ。それに気付いた江利子やお姉さまたちの追求から逃れるのにも骨が折れた。
そして私は重要なことに気づいた。
そもそも私は紅薔薇の蕾とあの子に名乗っていない。まだマリア祭の対面式を終えていないのだからもしかしたらその事を知らないのかもしれない。
そんなことにも気付けないほど私は気がはやっていたのだと思うと思わず頭を抱えそうになった。
だからこそマリア祭であの子の姿を見たときは心が躍った。この前あった時と変わらずに、緊張している周りをよそに無表情なまま佇んでいた。
お姉さまが一人ずつおメダイをかけていく時私はあの子に何かしらの反応を期待した。
けれどあの子は私に目を向けるでもなく順番を待ち、顔色一つ変えずにおメダイをもらいお辞儀をした。
あの子にとってあの日のことは何でもなかったのだろうか。
なぜだか少し落胆した気持でいると顔をあげた彼女と目が合った。
その時少し見開かれた眼は驚きからのものだったのだろう。そう理解するとただそれだけのことで少し気分が浮上した。あの無表情をわずかなりとも崩したということに半ば勝利のようなものを感じた。
お姉さまについていかなければいけなくて、それは一瞬のことだったけど私は一つの事を認めるしかなかった。
私は自分が思っている以上にあの子が気になっているらしい。
それが姉妹に対する感情なのかはまだ分からない。
それでもこのまま関わらないという選択肢は私の中から完全に消えてしまった。