島津由乃には、心に秘めたる野望があった。
それは、眠っている従姉妹の支倉令を起こすこと。
とはいえ、勝手に家に上がって叩き起こすのは簡単なことだ。
もっとも、相手が由乃より遅く起きる事は滅多にないが。
しかし、由乃がやりたいことはそんなことではない。
彼女は、『幼馴染のように、窓から侵入して起こす』というシチュエーションがやりたいのだ。
普段は、剣道部の朝錬や山百合会での早出等で朝が早い令だが、特に用がない明日の朝──幸いにも日曜日だ──は、遅くまで寝ているハズだ。
ようやく訪れたそのタイミングを、逃すわけにはいかない。
九時を目標時間に設定し、目覚まし時計をセットする。
さて、明日はどんな起こし方をしてやろうか。
布団に潜り込んだ由乃は、進入経路を頭の中でシミュレートしながら考えた。
自室の窓を開けてベランダに出て、滑り難い靴を履いて、台を用いて屋根に上がり、ゆっくりと隣家の屋根に乗り移り──安全なのは確認済み──、そして令の部屋の窓を開けて侵入し、相手を起こす。
さて、どんな起こし方をしてやろうか。
やっぱり、耳元で「起きろー!!」と叫ぶのが良いかな。
枕を奪ってポスポス叩いてやるってのはどう?
それとも、三つ編みの先っちょで頬をコチョコチョ?
布団にこっそり忍び込んで、起きるまで寝顔を堪能する?
いろいろな考えが、現れては消える。
そうこうしている内に、一人ニヤニヤしていた由乃の意識は、いつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝、目覚ましの音で飛び起きた由乃。
大慌てで洗顔、歯磨きし、動きやすい服に着替える。
時刻を確認すれば、丁度良い頃合。
気合を入れて、ベランダに出る。
脳内で散々繰り返したシミュレーション通り、無事目標の窓に辿り着く。
さぁ、起こしてあげるわ令ちゃん!
ギャルゲーの主人公のように、このシチュエーションに悶え狂いなさい!
そう思いながら、窓枠に手をかけて、窓をそっと引いた。
鍵が掛かっていた。