有馬菜々には、心に秘めたる野望があった。
それは、ペットを飼うこと。
とはいえ、犬や猫辺りなら、飼おうと思えば飼えないこともない。
もっとも、家庭環境が許してくれれば、だが。
しかし、菜々が飼いたいのは、そんなありきたりな動物などではない。
彼女は、小さい頃から夢見ていた、『平面ガエル』が飼いたいのだ。
有馬に来る前の田中家では、姉妹が多かったせいか、ペットを飼う事は許されなかった──恐らく、経済的な問題ではなく、手間が増えることを嫌ったのだろう──。
しかし、有馬家に来た以上、世話に手間がかからない動物なら、飼っても問題ないはずだ。
早速養父の許可を取り、以前から気にかけていた種類のカエルを、いろんなメディアから探し出す。
これだ、これがいい、ヤドクガエル。
だが、ヤドクガエルは大きくても6cmぐらいのサイズしかなく、某ピョンなんとかのようなデッカイ種類は居なさそうだ。
でも、某ピョンなんとかの黄色に匹敵するドギツイ体色のカエルなんて、ヤドクガエル以外には考えられない。
とりあえずは、扱っている業者やペットショップに問い合わせてみれば、幸いなのかどうなのか、15cmを越える大きさのヤドクガエルがいるという。
ややウサンクサイ気もするが、破格値──多分、持て余しているのだろう──なので、それを買い受けることにした。
命名、ヤドク永吉。
某ロックシンガーとなんとなく似た名前だが、某ピョンなんとかと『吉』ってところも似てるから、OKOK。
そして三日後、ヤドク永吉が有馬家に到着した。
ウキウキワクワクの気分で菜々は、某有名アパレルメーカーに特注で作って貰った、丈夫で高品質なTシャツを身に纏っていた。
何せ平面ガエルは、着ている本人諸共引っ張りまわるパワーを発揮するのだ。
そこらのスーパーで売ってるような、三着1000円とかの安物シャツだとすぐに破れてしまうだろう。
この特注Tシャツなら、多少のことでは破れないし、長持ちもするだろうから。
数メートル先には、菜々に背を向けてゲコゲコ鳴いているシアン色のカエル。
さぁ、一つになるわよヤドク永吉!
夢にまで見た憧れの平面ガエル、今ここで現実になるのよ!
満面の笑みを浮かべて、カエルに向かってダイブした。
潰れてしまった。