【2823】 ぴったりくっついて  (朝生行幸 2009-01-26 22:22:39)


 有馬菜々には、心に秘めたる野望があった。
 それは、ペットを飼うこと。
 とはいえ、犬や猫辺りなら、飼おうと思えば飼えないこともない。
 もっとも、家庭環境が許してくれれば、だが。
 しかし、菜々が飼いたいのは、そんなありきたりな動物などではない。
 彼女は、小さい頃から夢見ていた、『平面ガエル』が飼いたいのだ。
 有馬に来る前の田中家では、姉妹が多かったせいか、ペットを飼う事は許されなかった──恐らく、経済的な問題ではなく、手間が増えることを嫌ったのだろう──。
 しかし、有馬家に来た以上、世話に手間がかからない動物なら、飼っても問題ないはずだ。
 早速養父の許可を取り、以前から気にかけていた種類のカエルを、いろんなメディアから探し出す。
 これだ、これがいい、ヤドクガエル。
 だが、ヤドクガエルは大きくても6cmぐらいのサイズしかなく、某ピョンなんとかのようなデッカイ種類は居なさそうだ。
 でも、某ピョンなんとかの黄色に匹敵するドギツイ体色のカエルなんて、ヤドクガエル以外には考えられない。
 とりあえずは、扱っている業者やペットショップに問い合わせてみれば、幸いなのかどうなのか、15cmを越える大きさのヤドクガエルがいるという。
 ややウサンクサイ気もするが、破格値──多分、持て余しているのだろう──なので、それを買い受けることにした。
 命名、ヤドク永吉。
 某ロックシンガーとなんとなく似た名前だが、某ピョンなんとかと『吉』ってところも似てるから、OKOK。
 そして三日後、ヤドク永吉が有馬家に到着した。

 ウキウキワクワクの気分で菜々は、某有名アパレルメーカーに特注で作って貰った、丈夫で高品質なTシャツを身に纏っていた。
 何せ平面ガエルは、着ている本人諸共引っ張りまわるパワーを発揮するのだ。
 そこらのスーパーで売ってるような、三着1000円とかの安物シャツだとすぐに破れてしまうだろう。
 この特注Tシャツなら、多少のことでは破れないし、長持ちもするだろうから。
 数メートル先には、菜々に背を向けてゲコゲコ鳴いているシアン色のカエル。
 さぁ、一つになるわよヤドク永吉!
 夢にまで見た憧れの平面ガエル、今ここで現実になるのよ!
 満面の笑みを浮かべて、カエルに向かってダイブした。

 潰れてしまった。


一つ戻る   一つ進む