【2830】 本日の定食三分クッキング  (まめとりもち 2009-02-05 21:45:02)


まえがき:
  ※お食事中の方が読むには、不適切な表現が含まれている可能性があります。ご注意ください。
  ※原作に出てきていない架空?の、部活・サークル等の記述が有りますが、スルーして下さい。
  ※多くは語りません………。 誰かKey運を私に下さい……………。

------------- 以下、本文です --------------------------------------








 
 「リリアン放送局」
 
 それは、リリアン女学園の放送部が、リリアンの視聴覚施設を使用して、今年度の春から始めた放送番組である。毎週金曜日の昼休みに放送されるその番組は、リリアンの各部活・サークル、果ては山百合会や教職員の協力を得ることにより、バラエティ豊かな放送コンテンツを放映し、リリアンっ子のお昼の一時を楽しませていた。そして放送開始から常に、番組の大トリに放送されて来た、ひとつの名物コーナーが有った。高等部の生徒が、憧れてやまない山百合会の幹部自らが、製作・出演する目玉企画……。


 それが、黄薔薇さまとその蕾による御料理番組、『薔薇さま3分間クッキング』である。
 
 
 
 
 
 

■この番組は、リリアン女学園放送部の提供でお送りします■




チャララチャチャチャ・チャララチャチャチャ〜♪

『薔薇さま3分間クッキング』



「ごきげんよう皆様。薔薇さま3分間クッキングの時間がやってまいりました。オーナーシェフの島津由乃です」
 オープニングタイトルと共に、リリアンの制服の上に、フリフリのエプロンを着けた三つ編みの少女が画面に映る。
 見た目だけは非常に清楚で(グシャ……… 。

「アシスタントの有馬菜々です」
 そして、同じくリリアンの制服の上に、フリフリのエプロンを着けた少し幼なさの残った少女が画面に映る。
 微妙にアンニュイな表情は、嘗ての黄薔薇さまである江利子を彷彿とさせる。 でも…今は表情に冴えが、殆ど無いようにも見える。




「お料理名人だった前黄薔薇さまより受け継いだ、秘伝のレシピを公開するこのコーナーも、皆様のご声援に支えられ、今回でなんと10回目の節目を迎えました…」
「前から少し疑問に思っていたのですが… 聞いても良いですか? お姉さま…」
「何かしら?」
「それは本当に令さまのレシピなのでしょうか?」
 
 
 
(し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん 突然音が無くなるスタジオ)
 
 


「…なっ?! 当たり前じゃない!! まあ……多少は、私のアレンジも入っているけど…」
「………多少ですか。(ハァ…)」
 気落ちした様子で、溜息を付く菜々。その表情は、非常に冴えない様子である。


「………何か言いたそうね? 菜々?」
 訝しげに妹を見る由乃…。 出鼻を挫かれて少し機嫌が悪くなり始めている。

「………………いえ、時間が足りないと言って、生煮え原形のままの野菜が入ったスープや、殆ど火の通っていない豚肉のソテーを試食させられるようなアレンジは、もう許して欲しいのですが…」
 
 嗚呼、そんなことも有ったわねえ………。視聴している生徒および、周りのスタッフから同情の視線が菜々に集まる。
 
 
「なっ! 仕方がないでしょう! レシピ通りの材料と手順で料理したら、3分じゃあ収まらないのが多いのだから…。多少のアレンジは必要なのよ!!」
「お姉さまは誰かに試食させる前に、まず、御自分で味見をされるべきだと思うのですが……」

 
(……それは、アレンジとしてどうななの?)
(企画自体に無理が有るんじゃない?)
(あ〜〜〜〜、炎にガソリンを投下してるし………)
 多少形勢は、由乃に分が悪いものの、まぁ…どっちの言い分も分からない訳では無い……。
 でも… 今は本番中ですよ? お嬢さん方…。 それが大半のリリアン生の意見であった…。
 
 
 やがて、口論が佳境に入ったようだ……。
 ………嗚呼、またですか? 無言になった2人に、全生徒が注目する……。
 
 
「………………………………」
 ニッコリ微笑んで、フライ返しを構える由乃………。

「………………………………」
 ニッコリ微笑んで、オタマを構える菜々………。
 
 
 
 
 
 
 
 ピ−−−−−−−(画面暗転)−−−−−−−−−−−−−−−!!


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    し ば ら く お ま ち く だ さ い
  
       ご迷惑をお掛けします。(放送部)
  
 
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 −−−(画面復帰 若干衣服が乱れていても誰も気にしない)−−−
 
 
 
「さて今回は、節目のスペシャルということで、特別に時間を延長して放送しようというこの企画…」
「放送部はトテモ正気とは思えません……」(ボソッ)

「何か言ったかしら?」(ギロ!)
「いいえ。何も言ってませんわ、お姉さま。………ところで今日は、何をお作りになるのですか?」

「……なんか引っ掛かるけど、まあ良いわ。え〜〜本日は3分位で簡単に出来る、お手軽な麺を紹介したいと思います!!」



(し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん 再び突然音が無くなるスタジオ)



「…………………………………」
 発する言葉が全く出ないのか? 菜々の表情がかなり困った顔となっていた。
 これは? …突っ込むべきなのだろうか?
 
「…………なによ?」
 流石に今回の沈黙は、まだ何もしていない由乃にとっては、納得が出来ないモノがあった。
 何故に料理内容言っただけで、周りから哀れむような視線を受けねばならないの?
 
 
「……いえ、展開というか、オチが読めてしまったので… コメントが全く思い浮かびませんでした」
 困惑気味の菜々…。表情に何時もの生気が感じられない。もうすっかり諦めてしまったのか?
 
「オチ? ……どういう意味かしら? なにか失礼な事を考えていない?」
 オチという言葉に反応する由乃……。冗談じゃない!! 自分は真剣にやっているのに!! 先程からの周りの気配もあって、絶賛機嫌が悪化中である。
 
 
「まさかと思いますが、お湯を注いで3〜5分で出来るお手軽な麺を、そのままは出すって事はないですよね?」
 言って良いのか悪いのか? 判断をするのが難し気な様子の菜々が、躊躇いがちに言う。

「なっ! 冗談は止めて頂戴!! なんでカップ麺なんて、今更出すと思うのよ!!」
 対する由乃は、自らに掛けられた手抜き疑惑に、納得できない様子である。
 私的な場合ならともかく、公の料理番組でカップ麺をそのまま出すなんて、彼女の性格からすれば絶対に有り得ない。
 そう……、体裁を繕うより、誇りある(妹の)死を選ぶ……。彼女はそんな性格である。
 菜々も、自分に取っては迷惑極まりない姉の潔さを思い出し、自らの思い違いを認める。
「そう言われれば、確かに……。食べられる物であったかは、この際置いておくとして、今までインスタントをそのまま出すことだけは、ありませんでしたね………」
「そうよ!! 出来合いのモノをそのまま出すなんて… 私のおもてなし美学に反するわ!! そんな邪道に手を染めるような事は、マリア様に誓って絶対にしないから安心しなさい! 菜々!!」
 被害を被る妹としては、姉のそんな誇りなぞ、綺麗さっぱりと捨てて欲しいところではあるが………。

「試食をする側としては、出来る限り反して欲しい所ですけど……」
 最も、そのような諫言など通じるはずのない事を、聡い妹は理解しているのであった。
 
 
 
 
■レッツ・クッキング
 
「では、材料の説明をしたいと思います。まあ…、流石に麺から打っていたら、3分じゃあ無理なんで、麺は市販品の物なんだけどね。」
「…と言う事は、つゆが手作りという事ですね? お姉さま」
 
「そういうことね。今回スープはあっさり系なので、麺は細麺タイプのビーフンの麺を選びました。このタイプは、比較的短時間で茹で上がるから、お手軽に使えるわ…。もちろん普通の中華麺や素麺とかでも良いわよ」
「お米のから作った麺ですか……。私はあまり馴染みが無いです」
「中華麺や冷麦・うどんに食べなれていると、食感が新鮮で美味しいわよ。専門のお店で出てくる物には、香り米を原料に使っている場合もあって、後味で爽やかな香りがするものもあるし……」
 オォッ!! 料理とはまったく縁のなさそうな由乃から意外のまでの知識が出たことに、周りからどよめきが湧く。
 もしかしたら今回は無事に終わるかもしれない………。
 
 また、妹である菜々も、姉の予想外の様子に、我を疑っていた。
 この人ダレ!? 本当にお姉さまなの? 今までの惨状を引き起こした元凶……もとい、とても同じ人とは思えない………。
「次は、汁用の材料ね。チキンブイヨンまたは固形スープの基、キャベツ、ネギ、人参、大蒜、椎茸など…」
「野菜は具ですか? お姉さま…」
「まぁ、具を兼ねているけど出汁が目当てかしら…。時間があれば、椎茸を干椎茸にして、戻したときの水を使っても良いし、同じく干したホタテの貝柱なんかを加えても良いわね。今日は時間が足りないからブイヨンと生の野菜類だけでいくわ」
 菜々に麺を茹でるためのお湯を沸かすように指示をすると、手際よく野菜を刻む由乃。もはや嘗ての料理を苦手としていた時の面影は微塵もない。これは相当裏で特訓をしたのかもしれない。
 
 …………
 
「野菜を軽く炒めたあと、暖めておいたスープを加えて、塩胡椒で味を調える。後で麺が入るから気持ち濃い目にね」
 スタジオに良い香りが充満して、いよいよクライマックス…………。
「このみの硬さに茹でた麺を加えて、刻んだネギを載せて…。ハイ! 完成でーす!!」
 オォーーーーーーー!! なんか珍しくまともに出来たっぽい。
 
 この日、薔薇さま3分間クッキングは、嘗て無い興奮の中に包まれるのであった…………。
 
 
 
 
■テイスティング・タイム 
 
「ハイ、どうぞ!」
 菜々は自分の前に置かれた器を眺める。ここまでは問題ない。
 だが!! これは、あの由乃作の料理だ!!
 油断してはイケナイ!! 何度となく泣かされてきたではないか!!
 
 意を決してひと口啜る………………。
 
「……………美味しい」
 それは、意外にも美味しいものであった。
 そして、器の湯気の向こうに、満足気に微笑む姉の姿があった…………。
 
 
 番組の終盤に入り、由乃が今日のポイントとアレンジ方法などを解説をしている姿を眺めながら、ふと菜々は考える……。お姉さまは、裏でどれだけがんばったのであろうか? 周囲の人達から「向かない」だの色々言われているのは知っている。事実、先程まで菜々自身がそう思っていた………。
 
 でも………、この人は、常に前を見て進んでいる……。
 周りに流されることの無い、強い意志を持って努力している。
 そう考えると、姉が誇らしく見えた……。
 
「菜々! 菜々!!」
 ハッ!! いけない……、考え事に夢中になっていたようだ……。
「コラ! 本番中にボーッとしない!! ハイ、菜々」
「お姉さま…、これは?」
 試食と解説が一段落ついた所で、由乃は新たな器に盛った麺を差し出した。
「3分クッキングに使うには反則かもしれないけど、家で打ってきた手打ち麺よ。これは小麦で打った麺だけど…」
 手打ちで打った為であろうか? 先程の麺よりも太めではあるが、見栄え自体は素晴らしく、言われなければ、とても由乃が打った麺とは思えない出来栄えであった。
「驚きました…。意外と器用だったのですね。お姉さま…」
 こんな時くらい素直に褒めて貰えると、姉としては嬉しいのだけれど……。
「挽きたて、打ちたて、茹でたての結構自信作だぞ…。家では令ちゃんにも結構好評なんだから…。まあ、朝に打ったから、打ちたてとは言えないかもしれないけどね…」

 ………やはり、そうだったのか。
 ………やはり裏で相当努力したのであったか。試食に付き合わされたと思われる令さまには同情を禁じえないが、姉が自分の為に一生懸命、影で努力していたと思うと、やはり嬉しいものである。
「……美味しい! とても美味しいです!!」
 そして、由乃特製の手打ち麺は、味に関しても、菜々の予想をはるか上にゆく出来栄えであった。本当に、あの由乃が打ったなんて誰も信じられないだろう。
「でしょ!? いやー努力した甲斐があったわ!!」
 無邪気に笑う由乃………。そして菜々は、自分が番組冒頭でしてしまった失礼な態度を思い出す。

「申し訳ありませんでした。お姉さま……」
 
「ん? 貴女、ナニかしたかしら?」
 由乃の方は、全くといって良いほど気にして無い様子である。
 正に竹を割ったような性格と言うべきであろうか………。
 
(敵わないな………)
 普段とは違い、時折見せる姉の大きさ………。なんだかんだ言っても伊達に2年長く生きていない……。
 
 
「そんな事より、早く食べちゃいなさい。麺は伸びたらマズイわよ」
「ハイ、頂きます」
 折角の姉の心遣いを無駄にする訳にはいかない………。 そして菜々は再び箸を取る……………。
 
 
 
 
 ガリッッッッッッッッッ?!!!!
 
 ナニ!? 今の感覚!! 何を噛んだの!? というか歯がガキッって!!!
 ……ウソ。 欠けちゃった!?
「おれえいさあ!? いあ、なうかかひって!!」(お姉さま!? 今、何かがガリッて!!)
 
 あちゃーーーって、顔をする由乃……。何か心当たりが有りそうである。
「あぁぁ!! まだ残っていたか…………。全部取り除いたと思ったんだけどなあ………」
 不穏な事を言い始める由乃を ジロッと睨みつける菜々………。只ならぬ気配に、周りが引き始める。
 
「いやねぇ……。今朝、石臼で粉を挽いていた時、チョッと力加減を間違えて、臼が欠けちゃったのよねぇ……。いや、破片は全部除いたと思ったのよ! スコーシ残っていたみたいだけど………… あはは…………」
 言い訳をする由乃…………。しかし当の菜々には届いていない様子………。
 
 
 甘かった……。余りの出来栄えのために油断してしまった…………。
 僅か一瞬とはいえ、お姉さまを信じてしまうとは……………。私が誤りであったか…………。
 …………そう、過ちは速やかに正さねばなるまい!!!
 
「…………………………………」
 無言で麺棒を構える菜々………。
 
「ちょっと、その武器(エモノ)は反則でしょ!?」
 動揺しつつも、すりこぎを構える由乃………。
 

 ピ−−−−−−−(画面暗転)−−−−−−−−−−−−−−−!!

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    本 日 の 放 送 は 全 て 終 了 し ま し た
  
        また来週お楽しみに。(放送部)
  
  協賛: 山百合会  新聞部  写真部  科学部
       美術部  料理研究会 動画研究会
      
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 リリアン放送局の名物コーナー『薔薇さま3分間クッキング』

 その人気のポイントは、料理の内容以外のところに有ることは間違いない…………。




終わる






 

■おまけ
 
 大型のディスプレイ画面の前で、紅薔薇姉妹と白薔薇姉妹が、リリアン放送局の視聴を終えていた。
 
「あはは…、今週も2人は仲良しさんだねえ…」
「お姉さま……。そろそろ笑い事じゃなくなって来ていると思うのですが?」
 本気で番組内容を心配する紅薔薇の蕾………。
「あれは、単にじゃれあっているだけ…。心配ないよ」
「ですが、放送部から『このままでは[薔薇さま3分間クッキング]は、放送の最後にしか使えない』と陳情が来ています」
 ふむ、流石に陳情が来るとなると、何か動かないとマズイか…………。
 如何したものか?と思案し始める祐巳……。
 
 
 さて、もう一方の姉妹は………?
 
「楽しそう………」「良かった……。私が担当じゃなくて、本当に……」
 自分がアシスタントに選ばれなかった事を、心の底から安堵する白薔薇の蕾と、『自分も一度やってみたい』と密かな野望を秘める、白薔薇さまの姿…………。
 
 
 
 そして、紅薔薇さまと白薔薇さまの視線が合う………。
 
 
 やがて、何故か?頷き合い微笑むのであった……………………。
 
 
 
 
 
 

 
 さ〜〜〜〜〜て、来週の薔薇さま3分間クッキングは!?
 なんと!! スペシャルゲストをお迎えして、お送りします!!!
 
 お楽しみに〜〜〜〜〜〜〜!!
 
 
 
 
 
「なんで私も出るんですか!? 志摩子さん!!」
「一人だけ逃げようだなんて…、そうは問屋が卸しませんよ乃梨子さま………」
 
 
つづかない...







Fin


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