【2858】 この胸が苦しい  (パレスチナ自治区 2009-03-02 04:08:21)


ごきげんよう。【No:2846】の続きです。
オリキャラメインですのでご注意ください。
【No:2831】、【No:2836】を先に読んでいただけると2割増くらい楽しんでいただけると思います。
今回はクラスメイトの黒条キセルさんの視点です。


今日は家庭科の授業の一環で、某県にあるキャンプ場に来ています。
飯ごうでご飯を炊いてみよう、とのことです。
美しい緑に囲まれていて、それだけでも価値があると思います。今日はそれだけでなく、クラスの友人たちと一緒にご飯を作って食べるのですからウキウキ気分も最高潮です。

先生からの注意事項も終わり、みんなそれぞれの班に分かれて調理開始です。
私の班は、隣の席の出雲さん、陸上部所属の新藤綾菜さん、私の後ろの席の鳳凰院直美さんです。本当はもうお一人いらっしゃったのですが、残念ながらお風邪を召してしまい欠席なさってしまいました。

「ねえ出雲さん、これだけ空気がいいと走りたくなるわよね」
「……そうですか?」
「そうなのよってなんかノリが悪いわね」
「あはは…それで走るんですか?」
「そうよ。後で一緒にどう?てゆうか一緒に走るわよ!」
「どうしてですか?!私は別に走りたくないですし…陸上部に入っているわけでもないですし…そもそも走るの苦手ですから」
「あんたは私のライバルだからよ!走るの苦手って言ってるけどこの間の走りはそんな走りじゃなかったわよ!!そういやあんた、いつになったら入部する気になるのよ」
「ええっとまだわからないです…」
「そうやっていつまでもはぐらかすつもりね?」
「いいえ……そんなつもりじゃ……」
「じゃあどういうつもり?!!」
「うう……」
出雲さんと話し始めるといつも部活の勧誘になってしまう綾菜さん。しかも結構強引です。出雲さんのお顔が本格的に困り始めました。
そろそろ助け船を出さないと……
「ほらほら、出雲さんが困ってらっしゃいますわよ?貴女はいつもいつも強引なのですから」
「直美さん、出雲さんは私と話をしているんですけど……」
「そうですか…わたくしには強引な部活の勧誘にしか見えませんけど?」
「なんですって?!」
「まあ、怖いお顔。まるで山姥ですわ、食べられてしまいます!」
「あんたなんか食べるか!!出雲さんならまだしも…」
「あら、本音はそこですか。出雲さんお気お付けになって」
「……そうですね」
「あんた何頷いてるのよ!ジョークでしょ!」
「そうは聞こえませんでしたわ」
「このっ……」
「あのう、そろそろ調理を開始しましょうよ。直美さんも綾菜さんもせっかく同じ班なのですから仲良くしてください」
「そうですわね、他の班はもう始めていますし」
「わかったわよ」
「はあ…」(溜息)
私の役どころを直美さんに取られてしまいました…

「それで、まずはどうするのよ。私料理はからっきしだからわかんないわ」
「わたくしもです」
「出雲さんどうなさいます?私は家柄のおかげで料理はできますが、飯ごう炊飯は初めてで…」
「そうですね…まずはお米をとぎましょう」
「わかったわ。それは私がやるわ」
「ではお願いします」

「私たちは材料の仕込みをしましょう」
「「はい」」
「わたくしはどうすればよいのですか?」
「ええと…料理は苦手なんですよね?」
「はい。まったくできませんわ」
「それではお肉を切ってください。指を切らないように気を付けてくださいね」
「はい」
直美さんがおぼつかない手つきで豚肉を切り始めます。
確かにジャガイモやニンジンの皮むきと比べると豚肉を切る方が安全です。料理をしたことが無い直美さんにも簡単にできる作業です。
出雲さんは安全面も考慮して指示を出したのでしょう。さすがです。

「キセルさんは料理はできるんですよね?じゃあ手分けして野菜の皮むきをしましょう」
「はい」
出雲さんは慣れた手つきでジャガイモの皮をむいていきます。
「出雲さんはお料理されるのですね」
「はい、よくお母さんと夕飯の支度をするので」
出雲さんは「お母さんが…」と文句を言っていることがあります。よく悪戯をされているそうなのですが……今の話を聞く限り出雲さんはお母様を愛してらっしゃるのでしょう。
お顔がほころんでらっしゃるから。
「ふふ…うらやましいですね」
「そうですか?」
「はい」
本当にうらやましいです…

「出雲さん、米とぎ終わったわ。もう炊くの?」
「いいえ、40分くらい水に浸けときましょう」
「わかった」
「そういえば、出雲さんはやけに詳しいですね」
「少し予習してきましたから」
「ふ〜ん」「「頼りになりますね」」
「ありがとうございます」

「じゃあカレーを作っていきましょう」
「は〜い」「はい」
「あのう…」
「直美さんどうしました?」
「カレーは何処にあるのです?」
「はい?」
「カレーは液体なんですよね?だってカレーは飲み物だっていう方もおりますし」
「あはははは!!!」
「綾菜さん、なぜ笑うのです?!」
「だってチョーうける……うぷぷぷ…」
「仕方が無いでしょう!カレーなんて食べて事がありませんし…」
「直美さん、知らないのは仕方ないですよ」
「出雲さん…」
なんだか直美さんのお顔が少し赤いです。実を言うと私も出雲さんとお話しているとお顔が熱くなる時があります。
出雲さんは普段、黄薔薇の蕾のように押しに弱いといいますか、相手に強く出ることが出来ない方で、仕種などもとても可愛らしいです。
ですがお勉強を教えていただいている時や、雑用を手伝ってくださる時には凄く真剣なお顔になります。同性なのに胸が高鳴ってしまいます。
普通の女の子には無い何かを持っているような気がします。

「まずはお肉とお野菜をサラダ油で炒めていきます」
「それで?」
「それと沸騰したお湯に固形スープをいれます」

「お肉とお野菜に先ほどのスープを入れていきます。20分くらい煮ます」
「ルウはどうするのよ」
「これから作るんですよ」
「これから…ですか?」
「はい、まずは小麦粉に少し焼き色が付くまで炒めます」
「それで?」
「焼き色が付いたらカレー粉を加えて…」

出雲さんのおかげでスムーズに調理が進んでいきます。脱帽です。

「そういえばさ、カレーってインド料理でしょ?なんで洋食って言ったりするのかな?」
「そういえばそうですね」
私も以前から疑問に思っていました。
「それはですね……」
「出雲さん、知っていらっしゃるの?」
「はい。カレーはですね、最初はイギリスの料理として日本に伝わったからですよ」
「なんでイギリスなのよ」
「カレーが日本に伝わったのは明治時代なんです。その当時、インドはイギリスの植民地でした」
「それで洋食扱いになったのですね?」
「ええ、それでですね日本人がよく食べているカレーはその流れの欧風カレーなんです」
「欧風ってなによ?」
「欧風カレーはシチューにカレールウを溶かして煮込んだものです。インドカレーは様々なスパイスを調合して作りますから少し違いますね」
「薬膳料理みたいですね」
「そうですね、それにカレーのルーツのインドやパキスタンなんかでは豆などの野菜と食べますから、宗教の関係なんですけど」
「「「……」」」
「どうしました?」
「なんでそんなに詳しいのよ?」
「調べたんですよ、カレー好きなんです」
そういえば出雲さんは学食で食事をする時いつもカレーライスを頼んでいました。
「学食でもカレーばっかよね、あんたの脳みそ黄色いんじゃない?」
「そんなこと言わないでくださいよ…」
「ですが出雲さん、それは貴女が朗らかということなのですわ」
「そうですね、出雲さんはいつも明るいですし」
「そうですか、褒め言葉なんですね?」
「「ええ」」
出雲さんはいつも笑顔で接してくれます。春の日差しを浴びて可愛らしく咲くタンポポのように…

「お米を炊きましょう」
「カレーの方は?」
「ルウとスープを合わせたので後は焦げないように煮込んでいくだけです」
「直美さん、カレー鍋の方はお願いしますね」
「わかりましたわ」
「ではまず……」

「最初は中火でだんだん強火にしていきます」
「強火にするにはどうなさるの?」
「木の枝なんかをくべて…こうして……」
出雲さんは竹筒を口にあてがいかまどに向かって息を吹きかけます。
「ふーふー、ふーふー、うっ!けほけほ!」
煙にむせてしまったみたいです。
「大丈夫ですか?」
カシャ!カシャ!
「大丈夫ですけど……写真撮ってる暇があったら手伝ってくださいよ」
「ごめんなさい。でも私写真なんて……」
シャッター音のする方に顔を向けると……
「あ!蔦子様に笙子様!」
「あ、ばれた?ごきげんようキセルちゃん」
「ごきげんようキセルちゃん」
「ごきげんようお姉さま方」
「キセルさんこの方たちは?」
「写真部の先輩方ですよ、出雲さん」
「ああ、あなたが出雲ちゃんね、ごきげんよう」
「は、はい。ごきげんよう……あのぅ」
「なんで知ってるのかって?」
「はい…」
「貴女って彗星のごとく現れていきなり蕾たちの妹候補でしょ?大学でも結構有名よ貴女」
「そういえば真美様が記事にしたいって嘆いてましたね」
「ふふ、そうね。それでさ、出雲ちゃん。誰の妹になるの?」
「それは……」
出雲さんがこの質問を受ける時、決まって私の胸には嫌な痛みが走ります。
初めは何かわかりませんでしたが最近は理解しています。
出雲さんが転入してきてからずっと私が彼女の一番近くにいました。クラスでの席もそうですけど友人としても一番近くにいました。
山百合会幹部たちに目をつけられ学園中に名前が知れ渡ってからも……
行動を共にし、支えあい励ましあいながら過ごしてきました。
私のお姉さまの事を話しても笑って許してくださいましたし、どんな時でも真剣に私に向き合ってくださいます。
私はそんな出雲さんがいつも間にか好きになっていました。
いつでも優しく温かく包みこんでくださる出雲さんが……
今の出雲さんの視線は明らかに私に一番向けられています。
その出雲さんが姉を持ったらきっとその人が出雲さんの視線を一番浴びることになるでしょう。私はそれが嫌なのです。

「そういう蔦子様は妹はいらっしゃたのですか?」
私がネガティブに陥っていると出雲さんが質問を無視して反撃に出ました。
「出雲ちゃん質問してるのはこっちでしょう?」
「ですけど私はリリアンに入って間もないですし、先輩方の話を参考にしようと思って……」
「私は参考にはならないわよ」
「どうしてですか?」
「妹居なかったもの」
「笙子様は蔦子様の妹ではないのですか?」
「そうですよね、いつも一緒にいらっしゃいますよね」
「それは……」
蔦子様の顔色が変わりました。笙子様はなんだか嬉しそうです。
「それは、なんですか?」
「笙子?!」
「うふふww」
出雲さんは訝しげに蔦子様たちを見ています。もちろん私も。
「それは……」
「「「それは?」」」
私たちの視線に耐えかね蔦子様は俯いてしまいました。
「笙子にはロザリオを渡す必要が無かったのよ……」
「なぜですか?」
「な〜ぜで〜すか?ww」
笙子様はわかっているのに蔦子様に追い打ちをかけます。嬉しそうです。
「……ょ」
「聞こえませんよつ〜た〜こ〜さ〜ま〜ww」
笙子様、鬼畜です…
「笙子と私はそれ以上の関係だから渡す必要なんてなかったの!!妹と恋なんてできないでしょ!!!」
蔦子様が凄い勢いでまくしたてます。
「蔦子様ww」
「わかった?だから私は参考にならないの」
「わ、わかりました」
「今度こそこっちの番よ。出雲ちゃんは誰の妹に?」
また胸に痛みが走りました……
「……まだわかりません。誰かの妹になるつもりなのかさえもわからないですし」
「そうなの」
出雲さんのこの答えに安心してしまいました。
少し雰囲気が重くなったので話題を変えます。
「あの蔦子様たちはどうしてここに?」
「そういえばそうですよね」
「私たちはね〜、先生に頼まれてみんなの写真を撮ってるの。だから学校公認でここにいるの」
「それは……ご苦労様です」
「ありがとう。まあ私も生き生きとした女子高生を撮れるから利害一致してるの」
「……そうですか」
「なんか気になる言い方ね。まあそういうことだからそろそろ他の所に行くわね」
「お邪魔しました」
「いいえ、また部室に遊びに来てください」
「「わかったわ。ありがとう」」
「それではごきげんよう」
「「ごきげんよう」」
蔦子様たちは嵐のように去っていきました。

「そろそろ炊きあがりますね」
「はい、いい匂いです」
「カレーの方もいい感じよ」
「楽しみですわ」

「出雲さ〜ん、ちょっと助けてください」
「はい、どうしました?」
他の班に助けを求められて出雲さんはそちらに向かいます。
みなさんに頼られる出雲さん。
普段の学園生活でも困っている方を見かけると進んでその手を差し伸べています。
転校してきた時の印象からは考えられないほど頼り甲斐があります。
あの頃は小動物のようで助けてあげたいと思わせるような人だったのに……
学園中に注目されて悩んでいる内に鍛えられたのかもしれません。

「やっと食べられるわね」
「ほとんど出雲さんに作っていただいてしまいましたが…」
「……」
「いいんですよ、お料理は好きですから」
「ねえ、出雲さん。私の嫁にならない?」
「ええ?!」
「…?!」
「それならわたくしだって出雲さんをお嫁にほしいです!」
「直美さんまで?!」
「……!!」
なんだか凄く気分が悪いです……
「だってさ〜、出雲さんって結構可愛いし」
「頼りがいがあって優しくてお料理もできて」
「恥ずかしいですよ〜」
「全然恥ずかしくないわよ、ねえキセルさん?」
「……」
「キセルさん?」
「キセルさんどうしました?」
「……」
私の中で何か黒い物が渦巻いていきます…
「キセルさん!!」
「はい?!」
出雲さんに肩を揺さぶられています。
「どうなさいました?」
「それはこちらの台詞ですよ、気分がすぐれないのですか?」
出雲さんが心配そうに私のお顔を覗き込んできます。
出雲さん……そんなお顔で見つめないでください……
「だ、大丈夫ですよ。考え事をしていただけですから」
「ほんとなの?」
「はい」
「なんともないのですね?それなら良いのですけど」
「本当に何ともありませんから……ほらみなさん食べましょう」
みなさんに心配をかけてしまいました…
情けないです……

片付けの最中に出雲さんに声をかけられました。
「キセルさん、今日はどうなさったんですか?」
「え?」
「ずっと様子が変でした」
「そんなこと…」
「そんなことありません、というつもりですか?」
「……」
何も言い返せません…
「私でよければ話を聞かせていただけませんか?無理しなくても結構ですけど」
「大丈夫ですよ……必要になったら……」
「わかりました。キセルさんが元気ないのは私も嫌ですから、ね?」
「……はい……」
やっぱり私は出雲さんが好きです。
蕾たちに目をつけられている時点でいつまでも私が一番でいられるわけないのは分かっていますが……


みなさんから愛される出雲さん
そんな彼女を独占したいという欲望を抱えている私
こんなにも罪深い私をマリア様は許してくださるでしょうか……


言い逃れ
出雲に竹筒で「ふーふー」させたくて勝手に行事をでっち上げました。
なんだか料理のシーンが曖昧になりすぎてしまいました。
鳳凰院さんは凄いお金持ちのお嬢様と思ってください。
蔦子様と笙子様に関しては、自治区の願望です。ごめんなさい。
原作のカップリングとしては蔦笙が一番好きなのです。
此処まで読んでくださった方々、ありがとうございました。





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