ごきげんよう。【No:2858】の続きです。
オリキャラメインです。先に【No:2831】、【No:2832】、【No:2833】をお読みいただけると2割増くらいお楽しみいただけると思います。
最近脱線気味でしたので軌道修正です。
今回は小夜子視点です。
最近また山百合会の仕事が忙しくなってきたので日曜日にもかかわらず登校している。
「ごきげんよう」
ビスケットのような扉を開けて挨拶をしながら会議室に入る。
メンツを見てみると、いつもは部活でいない美華柚さんもいる。
そしてなぜか由乃様までいた。
「小夜子遅いじゃない」
「申し訳ありません、電車が遅延していたので」
「それは災難だったわね。徒歩通学だった私には無縁だったけど」
「それで今日はどうなさいました?」
「なによ、遊びに来ちゃいけない?」
「いいえ、そういうわけでは…」
「それより咲、あんたさあ……」
どうやら由乃様は咲さんに用があったみたい。
咲さんが困った顔で私を見つめている。由乃様と菜々様に挟まれているのは気の毒だが、巻き込まれたくないので無視をする。
「あんた剣道部に入りなさいよ」
「なぜですか〜」
「私も菜々も令ちゃんも剣道部だったでしょ、いわば黄薔薇の伝統なのよ!ねえ、菜々?」
「そうですね、咲、がんばろうよ」
「お姉さま〜勘弁してください……」
咲さん、可哀そうだな。
「小夜子も来たので、今日の会議を始めるよ」
ベイユ様がみなに声をかけると、咲さんが安堵の表情を漏らした。苦労してる人だな…
「今日は学園祭の事なんだけど…」
「ベイユ、チョイ待ち」
由乃様が割り込む。
「はい?」
「学園祭の事よりも重要なことがあるわ」
「なんですかお姉さま?」
「そうですよ由乃様」
「あんたたち鈍いわね、美華柚はわかる?」
「え〜と……」
「なによ情けないわね、人数が足りないでしょ?!今五人しかいないじゃない!」
「ああ、なるほど…」
「ったく、小夜子もわかってなかったなんて…」
今までこの人数で足りていたから誰も気付いてなかった。
「手伝い呼ぶとかしないと大変よ」
「そうですね」
「失念してました」
「あんたたちは3年でしょ?しっかりしなさい!!」
「「はい…」」
ああ、二人とも小さくなってる…
「ですが由乃様、私も小夜子さんも部活に入っていないですから親しい1年生とかいませんよ。それに美華柚さんも部活の1年生を連れてきても意味ないですし」
「そうですね、演劇部は学園祭で劇をやりますしこれからもっと忙しくなりますよ」
「もう!知恵を絞りなさいよ!ベイユと咲は親しみやすいでしょ?仮にも薔薇様なんだからあんたたちを撒き餌にしたら薔薇様ファンの子がいっぱい釣れるわよ!」
「私と咲は餌ですか?」
「咲を餌にするのは反対です!!」
「なによ!人がせっかく意見出してあげてるってのに!」
「だって咲は私のですし……ねえ、咲?」
「はい、お姉さま……」
なんかあの二人変な空気作りだしたわ…
「咲!あんた何私の前で菜々とイチャついてんのよ!」
「そ、そんなつもりは……!」
「え〜私はそのつもりだったけど…残念…」
「お、お姉さま!」
「咲……こんの〜!」
「お姉さま、黄薔薇一家が脱線してますね」
「…そうね」
「じゃあ私たちもイチャイチャしましょうよww」
「そうしたいけどだめよ美華柚……」
「え〜咲さんばっかりずるいですわ〜」
「ちょっと美華柚、抱きついちゃだめよ」
「んふふ〜お姉さま〜ww」
黄薔薇のおかげで紅薔薇まで脱線した。
美華柚さんにだめだと言いつつも嬉しそうに顔をほころばせているベイユ様。
無理もないと思う。美華柚さんは普段部活で忙しく、なかなか姉妹の時間を作れないらしいから。
でも今は会議中、さっさとこちらの世界に帰ってきてもらわなければ…
「みなさん、会議を続けましょう!!」
久しぶりに大声を出した。
みんなが申し訳なさそうにこちらを向いた。
みんながじゃれあっている間一人ぼっちでさみしかったのは内緒だ。
「それでさ、人手不足の解消には妹を作るしかないわよ」
「そうですね、今の蕾たちには妹がいないですしね」
「白薔薇なんて独り身じゃない!小夜子!」
「……すみません」
「あの出雲ちゃんはどうしたわけ?」
「出雲ちゃんはいつも誰かに追いかけられていてそれどころじゃないみたいです」
「は〜あ、前途多難ね」
「ねえ!茶話会を開いたらどう?」
菜々様がこれだっという感じで提案する。
「茶話会?」
「そう!茶話会!」
「茶話会なんて懐かしいわね〜」
「それで学園祭までのお手伝いさんを探すの」
「あのお姉さま、学園祭までということは学園祭が終わったらポイ捨てですか?なんだか嫌ですね……」
珍しく咲さんが人に意見している。他人に人一倍気を遣う咲さんなら当然だが…
「なによ、その子たちの中から妹選べばいいじゃない」
「そうですけど…」
「そうよ!そうしなさい咲。菜々の言う通りよ!」
「そうですね……」
早くも咲さんは陥落した。
「美華柚はどう思う?」
「私ですか?私はそれに反対はしませんが部活で忙しいので参加はたぶん無理ですね」
「なによ!休めばいいじゃない!」
「部長なのでそういう訳にはいかないです」
「少しくらいならいいじゃない」
「そうかもしれませんけど…」
美華柚さんも負けそうだ。
「菜々さん、いい考えですけど時間が無いので無理よ」
「そうか、失念してたわ」
ベイユ様のもっともな意見に茶話会の話は白紙になった。
「そういうわけだから、張り紙とかして協力者を募ることにしましょう、菜々さんも小夜子もそれでいい?」
「うん」「わかりました」
私もそれしかないと思う。しかし…
「そんなんじゃだめよ!!」
「由乃様?」
「それじゃあいつまで経ってもこの子たちに妹はできないわ!一週間!一週間後にまた来るわ。その時に咲と美華柚と小夜子のうち一人でもいいから自分から声をかけて手伝いを探すこと!」
「「「ええ?!」」」
「問答無用!だめだったらなんか罰ゲームね。わかった?」
「「「……」」」
「わかった?!!!」
「「「はい!」」」
こうしてなぜか由乃様が仕切った会議は私たち2年生三人にとって戸惑いを残しつつ終わった。
「どうしましょうか」
咲さんが情けない声で話しかけてきた。
「そうよね。かなり難しいわね…美華柚さんあてはあります?」
「私ですか?無いことはないですよ」
「そうなんですか?!」
咲さんが嬉しそうに喰いつく。
「咲さん…」
「ごめんなさい…私初対面の人と話すの苦手で…あてもないですし…」
「それは私もですよ。期限が一週間でしかも罰ゲーム付きなんて…由乃様って暴君よね」
「そうですよね、そうですよね!」
「そういう訳で美華柚さん、頼りにしています」
「わかったわ。いつもみんなには迷惑かけてるしがんばるわね」
「「ありがとう」」
「でもお二人だって最善を尽くしてくださいね?私もうまくいくとは限らないですから」
「ええ、もちろんよ」
「私もなるべくがんばります」
久しぶりに2年生三人で帰宅した。気の置ける二人と会話しながら帰宅するのは気分がよかった。
「ただいま〜」
鍵を開けドアを開ける。いつもならお姉ちゃんが迎えてくれるはずなのに今日はそれが無い。
靴はある。でももう一足見慣れぬ靴があった。お姉ちゃんが出迎えてくれないわけがわかった。
音を立てずにリビングに向かう。
リビングからは異様な雰囲気が漂っている。
中を覗くとお姉ちゃんとお姉ちゃんの「お姉さま」が嬉しそうに抱き合っている。
顔はキスできそうなくらい近い。
「自分ばかり幸せな思いして……」
今日みんながじゃれている時さみしい思いをしたのはお姉ちゃんのせいだ…
いいところで邪魔してやる……!
しばらくするとお姉ちゃんと「お姉さま」は熱い視線を交わして一つになろうと…今だ!
思いっきり冷たい視線と声を送る。
「ただいま!!お姉ちゃん!!!」
「え?!さっ小夜子?!」「小夜子ちゃん?!」
「ただいま!なにしてるの?今日はお姉ちゃんが夕飯用意する番だけどもう出来てるの?」
「こっこれからだよ!今から作るよ!」
凄いうろたえっぷりだ。ちょっとすっきりした。
「そう……今日は会議で大変だったからおなか空いてるの。だから早くして」
「わかった!」
「のっ乃梨子!私も手伝うわ!」
「志摩子さんはお客さんなんだから座ってて!」
「でも…小夜子ちゃんが怖いわ…」(乃梨子だけに聞こえるように)
「大丈夫だよ……小夜子、夕飯作ってる間志摩子さんの相手してあげて」(前半小声)
「は〜い」
「それで小夜子ちゃん、今日はどうだったの?」
「……由乃様が来て無理難題を吹っ掛けられたんです」
「由乃か…懐かしいわね」
「志摩子さん卒業してから由乃様に会ってないの?」
「ええ…あまり会う機会が無いわね。祐巳とはしょっちゅう会ってるけど」
「祐巳様はリリアンだもの、会わない日の方が珍しいよ」
「由乃様ってリリアン出てからどうしたんですか?」
「それがね…最近まで連絡が付かなかったの」
「…へえ」
「なぜです?」
「ごめんね、わからないわ。たぶん菜々ちゃんの方が詳しいと思うわ」
「そうですね……」
「小夜子、吹っ掛けられた難題って?」
「一週間のうちに学園祭までのお手伝い兼妹候補を見つけろですって。自分なんて3年になるまで妹を持たなかったくせに……」
「そうだったわね」
志摩子さまは懐かしそうに目を細める。
「見つからないとどうなるの?」
「罰ゲームがあるらしいの」
「由乃様って手加減を知らないから気をつけた方がいいよ」
「そんな!なんとかしてよ!」
「無理だね、それに怖いからあまり関わりたくない……」
「私も……」
「お姉ちゃんたちも苦労したんだね…」
「うん…」「ええ…」
「でも何でそんなことに?」
「慢性的な人手不足よ。お姉ちゃんにも責任の一端があるけどね…」
「ごめん…」
「それにみんながじゃれ始めた時私一人さみしかったし…」
「ほんとにごめん……」
それから夕食やその後の団欒はお姉ちゃんたちのリリアン時代の話や由乃様の話で盛り上がった。
ちょっとだけ今日感じたさみしさが紛れた気がした。
今日から勝負の一週間が始まる。どんな罰が待っているかわからないからがんばらねば。
私にも興味のある1年生がいないわけではない。
それは勿論「出雲ちゃん」だ。
しかし風邪をひいて休んでいるとかで会うことができず、三日過ぎてしまった。
木曜日に見かけたもののまだ万全ではないらしく声をかけられる雰囲気ではない。
次の日はぶり返したとかでまた休んでしまい、勝負の一週間は完敗だった。
咲さんの方も成果を得られず散々だった。
あとはここ一週間薔薇の館に姿を見せなかった美華柚さんだけが頼りだ。
「あ〜あ、何よあんたたち情けないわね〜」
「「……」」
私たち二人は何も言い返せない…
「美華柚の方は逃げたみたいだし?どんな罰を与えてあげよっかな〜」
嬉しそうな由乃様が憎い!そして姿を現さない美華柚さんはもっと憎い!!
「美華柚……どうしたのかしら……」
「逃げたんじゃないの?罰ゲームが怖くて。あはは!」
美華柚さんのバカ!!!
「美華柚さんあてがあるって言ってたのに…(グスン…)」
「ほんとに…美華柚さんひどい裏切りだわ……」
「さああんたたち腹をくくりなさい!」
もう嫌!
その時ビスケット扉が激しく開いた。
「遅れてごめんなさい!!」
「美華柚…!」「「美華柚さん!!」」
由乃様は苦虫を潰したような顔をしている。本当にこの人は何がしたいんだろう…
「美華柚、罰が怖くて逃げたのかと思ったわ」
「すみません、電車の遅延です…それでこの子との待ち合わせに遅れてしまいまして」
「この子?」
確かに美華柚さんの後ろにはもう一人女の子がいる。もしかして……
「美華柚さんその子はお手伝いの……!!」
「ええ……さあみなさんに自己紹介をして」
「はい、ごきげんようお姉さま方。私は白壇檸奈です。この度宮本美華柚様の妹になりました。至らないところだらけですのでご指導ご鞭撻お願いします」
「「「「「……」」」」」
「檸奈、よく言えたわね、えらいわww」
「はい、美華柚お姉さまww」
「妹ですって?」
「はい、お姉さま。檸奈は私の妹ですよ。可愛いでしょうw」
「ええ…そうだけど……」
「よかったわね檸奈。可愛いですって」
「えへへ〜」
絶句だ。まさか妹を連れてくるなんて……
ふわふわの髪をツインテールにして眼鏡をかけている実年齢より若く見える檸奈ちゃんを抱きしめて嬉しそうにしてる美華柚さんを見て、この場にいる全員が絶句していた。
「美華柚、いつ檸奈ちゃんを妹にしたの?」
「水曜日くらいです」
「私に相談もしないで?」
「お互いの同意さえあれば別に相談なんかしなくてもいいじゃないですか」
「そうだけど…ねえ檸奈ちゃん。一回断ったりした?」
「いいえ!美華柚お姉さまのお申し出を断るなんて!」
顔をブンブン横に振って必死に否定している。
そんな彼女を見ているうちにようやくフリーズが解けた。
「でも美華柚さん、貴女は出雲ちゃんを妹にしようとしたじゃない」
「う〜ん、そうだったんだけどね…出会っちゃったものはしょうがないよ、ね〜w」
「はい、美華柚お姉さま!」
幸せそうに微笑みあう二人を見てベイユ様が悔しそうに震えている。
無理もないだろう。もう少し二人きりがよかったんだから…
「ある意味革命よね、これって……」
「そうですね…」
「はああ〜これで罰ゲームなしか〜」
「「よかった」」
一度振られて別の女に手を出してその女を手に入れた美華柚さん。
今までの紅薔薇の人たちがしなかったことをやってのけた。
もしかしたらこれで「紅薔薇のジンクス」は破られたのかもしれない。
そういう意味では「紅薔薇革命」といってもいいだろう。
これから賑やかになりそうだ
苦しい言い訳
これから本格的に出雲が山百合会に関わっていきます。
そのために出雲とは別の1年生を山百合会に入れました。
紅薔薇姉妹の名前はベイユ以外は「ストロべ○ー・パ○ック」の登場人物のパロディです。
美華柚は「源千華○」を少しいじりました。檸奈は「白壇籠○」「夏目檸○」「日向○奈」三人の名前を合わせたものです。
性格は「日向絆○」っぽくしています。
小夜子の自宅のシーンで菫子さんがいないのは小夜子が上京してきて三人暮らしになったからです。
出かけても乃梨子が一人で留守番することが無くなったため、菫子さんはお出かけ三昧お泊り三昧なのです。
もう少し短くしたかったのですが長くなりすぎました。ごめんなさい。
此処まで読んでくださってありがとうございました。