【2867】 お早めに心待ちにかく語りき  (笑いの神に 2009-03-06 06:27:01)


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『乃梨子ちゃんをころがせ』



祥子さまの卒業まであと少し。
薔薇の館では、志摩子さんと乃梨子ちゃんと私が雑務に追われていた。
「祐巳さん、こっちは終わったけど後は何が残っていたかしら?」
「えっと次は、クラブの予算報告書・・・」
と言いかけたとき、乃梨子ちゃんが話に入ってきた
「それは、さっき私がやっておきました。」
「あっ、そうだったの?本当に乃梨子ちゃんは働き者だね。」
志摩子さんが嬉しそうな顔をする。
(志摩子さんは褒めてないよ。)
心の中でツッコミを入れつつも、なんだか幸せな気持ちになった。


すると、急に志摩子さんが私に耳打ちをしてきた。
「祐巳さん、乃梨子のことなんだけど・・・」
急にどうしたんだろうと思い、乃梨子ちゃんから離れるように窓際へ。
「あのね、乃梨子は可愛らしさが足りないと思うのだけれど。」
「えっ。どうしたの急に?」
「さっきのこともそうだけど、乃梨子はしっかりしすぎていると思うの。もっと年相応に子供っぽさが必要だと思うわ」
ん〜確かにそれはその通り。乃梨子ちゃんが私の一年の時みたいに、あたふたするところなんてほとんど見たことない。見たい。乃梨子ちゃんが困ってるところを見たい。
「乗った。」
私は志摩子さんにニッコリと笑いかけた。


「それにしても、乃梨子ちゃんは真面目で良い子ね。志摩子さんにそっくり。」
乃梨子ちゃんは、そんなことないですよと言いつつも嬉しそう。
「ほんと聖さまとは大違い。ふふっ。」
「確かにお姉さまは不真面目だったわ。ふふっ。」
乃梨子ちゃんは表情を一転させる。わかりやすい。
「前から言ってますけど、やっぱりあの方が志摩子さんのお姉さまだったなんて信じられないです。」
プンプンしてる乃梨子ちゃんは可愛い。
もうちょっとね。あとひと押し。
「そんなこと言わないの。本当に素晴らしいお姉さまだったのだから。祥子さまの申し込みを後悔したことは一度もないわ。」
「それですよ。」
乃梨子ちゃんが大声を出した。
かかった。志摩子さんと顔を見あわす。ここからが勝負だ。


「志摩子さんは絶対祥子さまの方がお似合いだと思います。」
乃梨子ちゃんがいきり立つ。
「乃梨子ちゃん、ひどいよ。私じゃあお姉さまに似合わないってこと?」
泣きそうな顔をしてみせる。私もこんな小芝居をするようになって・・・
伝説の前三薔薇さまに少し近づいた気がした。
「いえっ。そのようなつもりで言ったのではなくて。祐巳さま申し訳ありません。」
乃梨子ちゃんが急に慌てだす。困ってる顔がテラかわいす。
そこで私はたたみかける。
「いいのよ。私は志摩子さんみたいに美しくないし、良いところもないもん。」
「そんなことないわよ、祐巳さん。乃梨子、私の一番の親友になんてひどいこと言うの?」
志摩子さんも女優だ。なかなか迫力がある。
乃梨子ちゃんは、志摩子さんにまで責められて、ほとんど泣きそう。
「ごめん、志摩子さん。本当にそういうつもりじゃなかったの。」
「私に謝ってどうするの。傷ついたのは祐巳さんよ。」
「祐巳さまほんとうにすみませんでした。私祐巳さまのこと大好きだし、祥子さまとも本当にお似合いの姉妹だと思っています。」
おっと、大好きなんて思いがけないプレゼント。
顔を真っ赤にして本当に可愛い。もうそろそろ許してあげよう。
冗談よ冗談、そう言いかけた時、扉が開いた。


「ごきげんようお姉さま。」
私の愛しの妹の登場だ。
「どうかなされたのですか?」
乃梨子ちゃんの泣きそうな顔を見て瞳子が聞いてきた。
すると意外なことに志摩子さんが事情を説明しだした。
(いやいや、瞳子を巻き込むの?志摩子さん。)
「乃梨子が祐巳さんに祥子さまはもったいないって・・・」
(えー志摩子さん乃梨子ちゃんそんなこと言ってないよ。噂が大きくなるパターン?)
「なんですって!乃梨子ふざけたこと言わないで。私のお姉さまはどこに出しても恥ずかしくない方ですわ。私の愛しのお姉さまを侮辱されたら、いくら親友でも許さないわよ。」
・・・瞳子私も愛してるわ。いやいや違う違う。
乃梨子ちゃんがもう限界だわ。本当に困ってる。
お姉さまだけでなく親友にまでこんな仕打ちを・・・
もうこのままにはしておけない。
ちょっともう止めてあげて、と言いかけた瞬間、再び扉が開いた。


「誰?私の祐巳を侮辱したのは?」
(来ちゃったよー、1番来ちゃダメな人が来ちゃったよー)
瞳子ちゃん余計なこと言わないでいいよ。
いや、最低言ったとしても正確に伝えなさい。尾ひれを付けるようなことしちゃダメよ。
「聞いてくださいよ、祥子さま。乃梨子さんが祐巳さまは祥子さまにはふさわしくない。もう姉妹解消すべきですなんて言うんですよ。」
(付いたー!!!!噂に尾ひれ付いたー、かなりおっきいの付いたー)
大丈夫、お姉さまはこんな話信じるわけないわよ。
お姉さまは冷静だし、なんてったって紅薔薇さまなんだから。
「なんですって。ふざけないで乃梨子ちゃん。本当に許さないわよ。」
(信じたー!!!!めちゃくちゃ信じてるよ。冷静さ失ってるよ・・・)
乃梨子ちゃんがとうとう泣いてしまった。
もう耐えられない。


「乃梨子ちゃんも志摩子にはふさわしくないわ。仏像好きで日本人形みたいな顔して、クリスチャンの志摩子には絶対合わないじゃない。プリンの上にマーボー豆腐乗せるようなものじゃない。」
(えー意味わからないのですがお姉さま・・・)
「そもそもあなたは、志摩子の妹になる時も、上級生の私に刃向かってきたわよね。何あなた?私は外部から来たから仕方ないとでも思ってるの。普通のsixteenぶってるの。読者目線のつもり!?ふざけないで!」
(お姉さま、あの時のこと根にもってたのですか・・・)
しかしこの一言がこの状況を一転させた。
「ちょっと祥子さま、それは言いすぎです。」
珍しく志摩子さんが怒った顔をしている。
まさか・・・
「私の乃梨子を侮辱なさらないでください。」
うわぁーやっぱり・・・
もうどうなっちゃうの



次回へ続く→『紅薔薇VS白薔薇』


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