「お待ちなさい」
私立リリアン女学園。
銀杏並木の先にある分かれ道に凛とした声が響き渡る。
その声にマリア像に朝のお祈りをしていた少女達が振り返り、辺りは騒然となった。
それも当然と言えよう。
なにしろ声を発したのは、この学園内で知らない者は居ないとされている紅薔薇の蕾こと小笠原祥子その人だったのだから。
そんな中、一人だけ振り返りもせずに黙々とお祈りを続けている少女が居た。癖のある髪の毛を頭の両脇でリボンを使って纏めたその少女はお祈りを終えると立ち上がり、そのまま校舎へと歩き出したのだ。
「お待ちなさいったら」
周りの喧騒が聞こえていないかの様に立ち去ろうとする彼女に業を煮やしたのか、祥子は少女の肩へと手を掛け――気が付けば空を見上げていた。
祥子がツインテールの少女に投げられたと気が付いたのは、それから優に十数秒経ってからであった。
-続く-