【2910】 熱くなれる平凡に正面から志摩子さん大好き  (bqex 2009-03-30 23:32:30)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【これ】
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【No:2915】火焔山編
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【No:2926】大掃除編
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【No:2940】カメラ編
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回



 私、二条乃梨子は、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと一緒に天竺目指して旅をしている。

 前回はあの後聖さまと蓉子さまが大喧嘩になってしまった。
 喧嘩の原因は「坦々麺に月餅を入れるか否か」で、「青森にはお吸い物に餡餅が入ってるから大丈夫」「坦々麺に月餅を入れるのとは関係ない。それは青森文化への冒とく」「生まれも育ちも武蔵野なのに気易く青森文化を語らないで」……から始まり、私と江利子さまが離れる時には「ソロモン諸島沈没は相手のせい」にまで話題が飛んでいた。

 江利子さまは早々に離脱を決め、私もそれに倣った。
 旅に必要な物を街でそろえると街で一番大きな寺院に泊めてもらう事にした。

 宿舎にしている寺には見事な仏像があった。
 パラレル西遊記の世界だが仏像は立派なもので、N○KのDVDでしか見られないシルクロードの仏像が並んでいる。
 眼福、眼福。

「あ」

 隅の方に小さな観音像があった。
 それは女性的な造作で、夏休みに見たマリア観音を彷彿とさせた。

 思い出してしまった。
 夏休み、志摩子さんと仏像展を見に行った事を。
 あの楽しかった思い出を。
 思い出さないようにしていた志摩子さんの事を。

 志摩子さんと一緒に旅をしたかった。

 サポートするからって言っていたのに、あれから全然会ってない。
 一体こっちにきてからどれくらい時間が経ったんだろう。
 志摩子さん、どうしているのかな?
 不意に思い出されて、寂しくなった。
 かけていたロザリオを服の上からつい握った。

 志摩子さん……会いたいよ……

 目の前が光った。びっくりして目を閉じた。

 目を開いたら目の前に志摩子さんがいた。もっとびっくりした。

「志摩子さん!?」

「乃梨子」

 呼びかけるといつものように優しく名前を呼んでくれた。

「志摩子さん!」

 私は志摩子さんに飛びついてしまった。
 志摩子さんはそっと受け止めてくれた。

 志摩子さん……
 志摩子さん……

「志摩子さん……会いたかった。いきなり何の説明もなくこっちに来て、ずっと不安で……でも、どうして?」

「乃梨子、あなたが呼んだのでしょう?」

 静かに志摩子さんが言った。

「呼んだ?」

「ええ。そのロザリオを手に呼びかけると、制限時間はあるからすぐに戻ってしまうけど、私はこっちに来る事が出来るって……言わなかったかしら?」

 キョトンとした表情で志摩子さんが言う。

「そんなの、知らない」

 私は驚いて志摩子さんの顔を見つめた。

「言わなかったかしら? そのロザリオに呼びかけてくれれば、制限時間はあるけれど、私はこちらに来る事ができるのよ」

「初耳だけど」

「え? 私、説明しなかった? 法力の事とか──」

 珍しい、志摩子さんが焦っている。

「何それ?」

「その衣装を着ている時にお経を唱えるといろいろな力が使えるのよ」

 そんな便利な機能があったのか。

「そうなんだ。で、そのお経ってどんなの?」

「般若心経とか、妙法蓮華経とか、知ってるのを普通に唱えれば──」

「唱えられないけど」

「え? 唱えられないの?」

 志摩子さんはびっくりして私の顔を見ている。

「うん。私、仏像には詳しいけど、仏教に詳しいというわけじゃ……一般的な女子高生よりは知識はあるかもしれないけど──」

 そりゃあ、志摩子さんのようにお経を聞いて育ったというなら唱えられるだろうけど、普通は無理です。
 志摩子さんはとても悲しそうな顔をしている。
 なんだか申し訳なくなってきた。

「ごめんなさい」

「乃梨子が謝る事はないわ。これは私の落ち度だもの」

「志摩子!」

「あっ!」

 志摩子さんは思わず声をあげた。
 私の背後から怒声が聞こえた。声の主は蓉子さまだった。
 もっと聖さまと喧嘩してじゃれ合ってるかと思ったのに。
 ちっ、月に叢雲、花に風。

「あなた、いきなり聖を助けるためにこの衣装を着ろっていうなり、こんなところに人を飛ばすだなんて、いい度胸じゃない? さあ、一体何が目的でこんな事を始めたのか説明して頂戴」

 うわあ、怒りを抑えているつもりなんだろうけど、ダダ漏れです、蓉子さま。

「あ、えと……それは……」

 まずい、なんだかよくわからないが、志摩子さんがピンチだ。
 志摩子さんを助けなければ──

「蓉子さま、志摩子さんは仏像鑑賞ミステリーツアーをプレゼントしてくれただけです」

「何を言い出すの? 私は志摩子に聞いているんだけど?」

 こめかみがピクピクと動いている。
 しかし、ここはとにかく志摩子さんを守らねば。
 私は魔王の攻撃を受けるには非力な勇者だが、私のジャスティス志摩子さんだけは何としてでも守らなくては。

「いいえ、志摩子さんは善意で日々の暮らしに癒しを与え、知的好奇心を満たす崇高な趣味の旅をプレゼントしてくれただけで、怒られるような事はしていません」

「怒る!? 私は怒ってなんかいないわ!」

 あー、なんか、こういうところは妹の祥子さまに似てますね。
 なんて冷静に分析している場合ではない。
 魔王の雷に備えなくては!

「ちょっと、志摩子!」

「うわぁ!」

 そう言って、いや、怒鳴って表れたのは江利子さまだった。
 しまった、雷ではなく最強のドラゴンを召喚された。
 勇者乃梨子、大ピンチである。
 とにかく、私のマリア様、観音菩薩様、マリア観音様志摩子さんだけは刺し違えてでも守らなくては!

「うわあじゃないわよ。何なの? 面白い体験が出来るっていっていきなりこの衣装をきせてこんなところに飛ばすなんて。いったい何日山辺さんと会ってないと思う?」

「そ、その件でしたらあれから15分くらいしか経ってませんのでご安心ください」

「ふーん、15分しか経ってないなら人を飛ばしてもいいわけね?」

 あの顔は復讐を思いついた顔だ。

「お言葉ですが、江利子さま。日常生活ではありえない面白い体験ができるという事に嘘はありません。志摩子さんは悪くありません」

「つまり、乃梨子ちゃんも仲間なのね」

 蓉子さまと江利子さまは一瞬のアイコンタクトの後、私を捕まえた。

「志摩子さん、逃げてっ!!」

「乃梨子ーっ!!」

「さあ、何のためにこんな事をしているのか早く吐きなさい!」

「やめてください! 乃梨子は何にも知らないんです!」

「ストーップ!!」

 登場したのは聖さまだった。
 蓉子さまと江利子さまは止まった。

「志摩子も乃梨子ちゃんも被害者なんだからその辺で許してやってよ」

「あなたは何か知ってるわけね?」

 蓉子さまが聞いた。

「いや、それは──」

 以下は聖さまの説明である。



 その日、私、佐藤聖がバスを待っていると、志摩子とお父さんに出会った。
 志摩子は不機嫌そうだった。
 お父さんの服装が気に入らなかったのだ。
 お父さんは以前、僧衣姿で体育祭に乱入してしまい、志摩子に説教され、次回は宗教色のない格好でとリクエストされたそうだ。
 で、学園祭ではその筋の人のような格好で現れて、また志摩子に説教され、もう少し違うのはないかと言われてしまったらしい。
 それで、悩んだ挙句にウサギの着ぐるみで来校したのだ。
 来校の理由を聞いた。

「3者面談です……進路指導の」

 全生徒対象で年に1回この時期にやるあれだった。
 娘がシスターになるか進学するかを担任教師も交えて考える場に横でウサギの着ぐるみが保護者としてお話を聞くのだ。

「僧衣の方がよかったんじゃないのか」

「よくありません。こんな極端な格好ばかり……こんな事ならあの怪しいスーツの方がましでした」

 志摩子は真っ赤になって怒っていた。

「お前は少々硬すぎる。たまにはこんな格好をするのもいいぞ」

「嫌です」

 即答していた。

「そうか、ウサギは嫌いか。サルとかブタの衣装もあるぞ」

 お父さんは鞄から衣装を取り出して見せてくれた。

「嫌です」

 志摩子はかなり嫌がっていた。

「これはカッパだ」

 お父さんはまた鞄から衣装を取り出して見せてくれたが、地面に落ちそうだったので、私がサルの衣装を持った。

「着ぐるみを着て3者面談なんてあり得ません!」

 志摩子は本当に嫌がっていた。

「3者面談以外なら着るのか?」

「……それは、その時の状況によります」

 何故か絶対に着ないとは言わない志摩子だった。

「じゃあ、せっかくサルとブタとカッパがあるんだから、西遊記なんていうのはどうだ?」

「……来年の学園祭のお芝居にですか? もし、そういう話題になったら考えておきます」

 志摩子は皮肉のつもりだったのかもしれないが、お父さんは好意的に解釈してしまった。

「そうか。それならば、西遊記がどんなものか体験してみるといい」

 笑顔でお父さんは何やら巻物を取り出した。

「これは幽快の弥勒菩薩と共に我が家に伝わる巻物で、これをこうすると西遊記の世界が体験できる──」

 私は不意に強い力で全身を引きずられた。

「お姉さま!」

 気づくと私は西遊記の世界に飛ばされていた。



 聖さまの説明を聞いて、私、二条乃梨子は唖然とした。
 住職、何でそんなもの持ち歩いてるんですか。

「そこから後は私が説明します」

 志摩子さんが口を開いた。

「父の説明によると、祐巳さん、由乃さんに会えると思っていた父は、私も入れて4人で西遊記の世界を旅しようとたくらんでいたらしいのです」

 なんて親父……

「しかし、祐巳さん、由乃さんに会えず、たまたまバス停で会ったお姉さまを巻き込もうとしてあんな事を──」

「じゃあ、お父さんもこっちにきてるわけ?」

 江利子さまが聞いた。

「いいえ。私は父から巻物の仔細と衣装の秘密を聞き出し、巻物と衣装を取り上げるとお姉さまを救出するために蓉子さま、江利子さまに声をかけたのです」

「じゃあ、なんで乃梨子ちゃんがきてるわけ?」

 蓉子さまがいぶかしげに聞いた。

「……私は、お三方と旅をするのが嫌なのではないのです。ただ、乃梨子の可愛い格好を見たかっただけで……」

 タダ、ノリコノカワイイカッコウヲミタカッタダケ。

「ええーっ!」

 いやいやいやいや、カードの時は嬉しかったけど、今それは全然嬉しくないから。

「ごめんなさい、せっかく呼んでくれたのに、そろそろ時間が……」

 志摩子さんの体が透けてきた。

「志摩子さん!」

「乃梨子、少し時間が経ったらまたロザリオに呼びかけて。そうしたら会えるから」

 志摩子さんはタイムオーバーで消えてしまった。

 志摩子さん……

 また会える。
 それを希望に私は旅を続けることにした。



「……にしても、志摩子の親父はシメておかないとね」

「お茶目を通り越してムカつくわ」

 魔王とドラゴンの標的も変わったことだし、とりあえず次、行ってみよう。

続く【No:2915】


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