【2912】 ねこ・ふぇちだロザリオを返さないで  (名無しのゴンゾウ 2009-03-31 13:02:03)


八月十日午後一時

一年で一番暑い季節の、最も暑い時間帯に熱心に竹刀を振るう乙女たち

汗だくになりながらもその瞳は輝きを失うことはない

疲れを知らない心身を包むのは紺色の防具

中段の構えは崩さないように、足捌きは乱さないように、精神を集中して相手と向かうのがここでのたしなみ

ミスターリリアンの姿に見惚れている部員など



いる、大勢

「そこっ、令ちゃんに見とれてるんじゃないわよっ、集中しなさいっ」

「こんなんで普段の実力が出なくなっててどーすんの」

「あんたたち剣道部に何しにきてたのよっ」

「令さまが何のために来てくださったかわかってる!?」

お姉さまもちさとさまも怒ってます、令さまの困り顔が素敵ですね

でも「令ちゃん」はまずくないですか?

「いったん休憩、あとで一人ひとり見てあげるから、十分後までに戻ってきなさい」

「「「はい」」」

そうですね、人払いしておかないと



「申し訳ありません令さま、準備万端整ってからお呼びするべきでした」

「いいよいいよ、少しくらいは仕方ないよね」

「よくないわよっ、令ちゃんがそうやって甘やかすからぜんぜん成長しないんでしょ」

「由乃、お、落ち着いて、ね?」

「そうよ、少しは落ち着きなさい」

「取り合えず『令ちゃん』はやめましょう、お姉さま」

「嘘、私、令ちゃんって呼んでた?」

「「うん」」

はい

「不覚」

「由乃、少し素振りをしてきたら?」

「そうする」

シュンとしてるお姉さまもかわいいです

「うーん、どうしようか」

「数だけはいますから休憩が終わったらすぐに見てもらわないと」

「そうだね、じゃあ待ってる子たちを二人に見てもらおうかな」

「「わかりました」」

「由乃さんが戻ってきたら手伝ってもらいましょう」



いち

にぃ

いち

にぃ



「菜々ちゃん、残りは私が見ておくから令さまに見てもらいなさい」

はい



「よろしくお願いします」

「よろしく、久しぶりに互角稽古にする?」

はいっ



ビシッ

ビシッ

ビシン



あちこちが痛い

明らかに前より強くなってますよね、令さま?

「強くなったね」

ありがとうございます



「ちさとちゃん、由乃、二人で模擬試合」

「「はい」」

「ちゃんと二人を見るんだよ、これも稽古のうちだからね」

「「「はい」」」

見取り稽古ですね



「始め」



ご想像に難くないと思いますが、お姉さまが押してます

前は簡単に抜けたんですが、だんだん隙がなくなってきましたね、ちさとさまには打ち込む余裕がないみたいです

でもそんな前に出ると……

バシン

やっぱり、ちさとさまの粘り勝ちです



「次に令さまがいらっしゃるときには今日みたいに集中を切らすことのないように、い・い・わ・ね」

「「「はい」」」

「交流試合まではまだ三ヶ月あるしみんなまだまだ伸びるから、ちゃんと鍛錬しなさい」

「「「はい!」」」

「今日の活動はこれまで」

「「「ありがとうございました」」」



「令さま、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、久しぶりにいい汗かけたよ、菜々ちゃん」

「はい、またお手合わせできる機会があればよろしくお願いします」

「そうだね、よろしく」

 「令ちゃん!談笑してる場合じゃないでしょっ」

「よ、よしの、いきなり何」

じーーっ

「何?じゃないわよっ、見たでしょう、弱すぎるのよ、け・ん・ど・う・ぶ」

「そんなこと言ったって、ねぇ」

じーーーっ

「ねぇ、って令ちゃんが活入れなきゃ駄目じゃないの」

「由乃ので十分すぎると思うんだけど」

「みんな令ちゃん目当てなんだから、私が言ったって効果がないの」

ぶぅっ

「由乃、みんなは言いすぎだよ、ほら、菜々ちゃんが」

「あああああ、な、菜々、そういう意味じゃないの、ごめんね、その」

「そういえば、ちさとさまに一本とられてましたよね、お姉さま?」シャラ

「あ、あ、お、落ち着いて、ね」

「情けないですよね?」シャラ

「うあ、あぁ、あ、お、お願い、それだけは」

「……」シャラ

「ね、ホントにごめん、だ、だから」

「……」

「私を捨てないで、ロザリオを返したりしないで」

「……」

「ううっ」

「……」スッ

「ふぇっ?」

ぎゅうっ

「えっ」

「もっと私にかまってください」

「えっ?」

「姉妹なのに、ぜんぜん甘えさせてくれないじゃないですか」

「……さびしかったの?」

はい

「ごめんね、きょうは一緒に帰ろう?」

はい!

「ふふっ」

お姉さま、大好きですぅ

ぎゅっ

令さま、今日は私がお姉さまを独り占めさせていただきますよ?


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