【2915】 哀れな子タヌキカチカチきてる断固阻止します  (bqex 2009-04-01 12:54:41)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【No:2910】志摩子と父編
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【これ】
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【No:2926】大掃除編
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【No:2940】カメラ編
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回



 私、二条乃梨子は、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと一緒に天竺目指して旅をしている。

 街を出て長い旅路、何日かしてようやく次の村に差し掛かった。

「さびれてますね」

「お約束の妖怪でもいるのかしら」

 村は廃墟のようなところだった。警戒しながら進むと村外れで1人の背の高い少女と出会った。

「ごきげんよう。あなた達はもしや、有名な三蔵法師さまの御一行ですか?」

 少女が話しかけてきた。

「ごきげんよう。まあ、そんなところです」

 また、私を狙う妖怪なんだろうか。

「あの、法師さま、私を助けてください!」

 少女は急に泣き出した。一応話を聞くことにした。

「私は可南子と申します。実はこの先に住む妖怪にヒドイ目にあわされているのです」

「妖怪?」

「ええ。あれは入学式の事でした。私は難関の女子校に合格し、光り輝く憧れの先輩を見つけたのです。ところが、その先輩は雄タヌキの精でした」

「……」

「先輩は私が正体を知ってしまった事を知ると、『俺はお前の術で無理やり男に変えられたとみんなに言いふらす。お前は新入生、俺は生徒会長なのだからどっちの言葉をみんなが信じるか考えてみるがいい』などと言って脅してきたんです」

 可南子さんはさめざめと泣く。

「更に、『お前のようなやつはいつ俺の正体をばらすかわからないから24時間監視下に置く』と言ってどこまでも付いてくるんです。男についてこられるなんて!!」

「ちょっと待って」

 聖さま、蓉子さま、江利子さまと私は集まった。
 声をひそめてチーム三蔵法師ないしょ話ターイム。

「……これは、マリアはマリアでも、別のまりあの話に似てない?」

「また微妙な話とクロスしてるなあ」

「確かに、こっちのマリアのファンがあの話を読んだら主人公の女の子は可南子さんとしか思えませんよ」

「『まりあ†○りっく』を知らない人には何の事やらわからないでしょうけどね」

 全員がうなずいた。

「私、この件からは手を引きたいわ」

「この話は聞かなかった事にしましょう」

「私は関係ないから」

「じゃあ、この話はこれでおしまい」

 ないしょ話終了。

「ごめんなさい。それは私達の手に負える話じゃないから──」

「お待ちください!」

「ぐふあ!!」

 立ち去ろうとしたところを思い切りタックルされてひっくり返った。

「な、何をするの?」

「ここまでは前フリです! 先輩が家に来るようになってから、父の様子がおかしくなって、父と先輩が深い仲になったのです! あんなの父親じゃありません!!」

「ちょっと待って」

 聖さま、蓉子さま、江利子さまと私は集まった。
 声をひそめてチーム三蔵法師再びないしょ話ターイム。

「こっちの可南子ちゃんも深い事情があるのね〜」

「って、ハードすぎますよ!」

「プライベートに立ち入るのはどうかと思うわ」

「それ以前にそんな展開は嫌だ」

 全員がうなずいた。

「私、この件からは手を引きたいわ」

「この話は聞かなかった事にしましょう」

「私は関係ないから」

「じゃあ、この話はこれでおしまい」

 ないしょ話終了。

「ごめんなさい。それは私達の手に負える話じゃないから──」

「妖怪退治とかしてくれないんですかあぁ!!」

「悪いけど、西に行くのが目的で、妖怪退治は必ずするってもんじゃないから」

 そう答えたら可南子さんはフッと不敵な笑みを見せた。

「……ふっ、流石は三蔵法師御一行、思ったより手ごわい。妖怪退治と思わせて、牛魔王と相討ちにしたところを漁夫の利でいただく計画だったのに」

「じゃあ今の話は嘘だったの!?」

「一部はほぼ事実です」

 どこがどう実話なんだか。

「こうなったら本性を出して戦うまで! 私の名前は紅孩児」

 ゲッ! 牛魔王の子供、久々のビッグな妖怪登場だ!

「そこのロサギガ子とやらを頂く!!」

 可南子さんはビシィっと私を指さして宣言した。

「変な略称で呼ばない! 私はロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの二条乃梨子」

「乃梨子ちゃん、そこはツッコミいれなくていいから!」

「隙あり!」

 可南子さんは私を抱え、走り出した。私は拉致されてしまった。



 私は大きなお屋敷に連れ込まれた。

「お母さま、今日は食べると野望が叶うロサギガ子を捕まえて参りました」

 紅孩児の母、羅刹女は祥子さまそっくりだった。
 だが、その表情はとてもやつれて元気がないように見えた。

「ごめんなさい。今は食欲がないの。それはそこに置いておいて、あなたは少し休みなさい」

 可南子さんはがっかりした顔をすると私を縛り上げどこかに行ってしまった。
 私は部屋の片隅に放置されてしまった。

 少しすると聖さま、蓉子さま、江利子さまが忍び込んでくるのが見えた。
 祥子さまはまだ気づいていないようだった。

 私は聖さま達の方に移動しようとチラリと祥子さまの方を見た。
 祥子さまと目があった。

 マズイ!

「ごきげんよう」

 その時、蓉子さまが飛び出してきた。

「な、なんですの?」

「失礼。このお屋敷に迷い込んでしまったもので。すぐに帰るつもりだったのだけど、あなたと少し話がしたくて」

「何故ですか?」

「あなた、私の妹にそっくりだから、つい」

 聖さまと江利子さまが様子をうかがっている。
 蓉子さまが気を引いて、私を救出する作戦のようだ。

「あなた、さっきからため息をついているけど、何か悩んでいるんじゃない?」

「あなたには関係ありません」

「失礼。タヌキの精の事かと思ったんだけど、気のせいのようね」

 羅刹女祥子さまはびくりと体を震わせた。

「タヌキの精をご存じなんですか?」

「詳しくは話してくれなければわからないけれど、事と次第によってはなんとかできるかもしれないわ」

 祥子さまは大きく息をした。

「何故でしょう。初めて会ったのに、あなたになら話してもいいような気がします。お話しましょう」

 おー、流石祥子さまのお姉さま、この世界の祥子さまも落としてしまった。

「私の夫は牛魔王といいます。しかし、結婚初夜に『自分はタヌキの精しか愛せないから、君とは何もしない。君も君の好きなようにやって、この子供を二人の子供として育てよう』って言い出して、紅孩児を連れてきたんです」

 うわ、またハードな展開だ。

「そして、牛魔王はタヌキの精のところに行ってしまったんです。私はもうどうでもよい存在なんです」

 さめざめと祥子さまは泣いた。

「泣くのはおよしなさい。わかったわ。私が何とかするから」

 ……はい?

「蓉子、何言ってるのよ!?」

「敵の妖怪相手になんて約束してるのよ!」

「蓉子さま、姉バカがひどすぎます! 顔がそっくりってだけで、相手は妖怪なんですよ!」

 聖さま、江利子さま、私は思わずツッコミを入れた。

「うるさいわね。私は姉バカですよ。ええ、姉バカですとも。一生姉バカだと思うわ」

 蓉子さまは開き直った。

「では、乃梨子ちゃんは返してもらいましょう。私達の計画に必要だから」

「よろしいですわ」

 あっさりと羅刹女祥子さまは同意した。

「待ってください、お母さま」

 紅孩児可南子さんが騒ぎを聞きつけて現れた。

「この人達は、ロサギガ子を助けるために嘘をついているかもしれないじゃないですか。どうしてあっさり渡してしまうんですか?」

「わかったわ。じゃあ、ついてきなさい。その方がいいでしょう? 私達は逃げも隠れもしないわ」

 ……はい!?

「うわあ! 本当に助ける気なの!? 助けるふりしてノリリン連れて逃げる作戦だと思ったからあおったのに!」

「自分から退路を断ってどうするのよ! 途中でまいて逃げる事も出来なくなったわ!」

「蓉子さま、あなたは超姉バカです!」

 私達はツッコミを入れた。
 これがツッコまずにいられますか。

「つべこべ言わない! とにかく行くわよ」

 しぶしぶ私達は蓉子さまについて行く事になった。



 火焔山は炎でつつまれていた。羅刹女祥子さまが芭蕉扇で火を消した。

「ひいいいぃ!!」

 そこには火傷を負った祐巳さま……いや、雄だから祐麒さんそっくりなタヌキの精が倒れていた。

「あなたが諸悪の根源ね! 覚悟なさい!」

 蓉子さまが武器を構える。

「違います! 牛魔王に『笑いを取る』よう命じられて、火をつけた花火を背負わされてこうして──」

「嘘! それはロサギガ子を手に入れてお父さまとウハウハになろうという作戦ね!」

 可南子さんが祐麒さんに詰め寄る。

「誤解だ! 俺、そっちの趣味なんかないのに、牛魔王が、牛魔王が──」

「可愛いユキチ。何をやってるんだ? おやおや、お客さんかい?」

 そこに登場したのはスラリとしたイケメンだった。

「出たな、銀杏王子」

 聖さまが武器を構えた。

「別にタヌキがどうなろうとも知った事ではないが、そのムカつく顔は殴っておきたい」

 急に聖さまのモチベーションが上がった。2人の間に何があったのだろう?

「おいおい。君とは同士だと思っていたのに」

 聖さまがギロリと睨みつける。

「お父さんは最低! 私の背が高いのも、最近影が薄いとか言われるのも、みんなお父さんが悪いのよ!」

 どん、と音を立てて可南子さんが前に出る。

「それは僕のせいじゃない」

 涼しい笑顔で牛魔王はかわす。

「よくもあの子を泣かせてくれたわね!?」

 蓉子さま、顔が似てるだけで、あれは妖怪羅刹女です。

「君にそんな事を言われる筋合いはないと思うのだが」

「調子に乗るの、おやめになったら?」

 祥子さまはヒステリックに叫んだ。

「まいったな」

 ちっとも困ってないようなさわやかな笑顔で牛魔王はつぶやいた。
 聖さま、蓉子さま、可南子さんは牛魔王に飛びかかった。
 祥子さまも参戦している。
 牛魔王は武器をとり、華麗にさばく。
 4人相手に善戦する牛魔王、一方……

「江利子さまは参戦なさらないのですか?」

「う〜ん、なんだか『釈迦みて』叩きみたいよね」

「……」

「何よ、その目。私は山辺さんを探すために『釈迦みて』チェックしてるけど、何か問題があって?」

 まあ、確かに『お釈迦さまもみてる 学院のおもちゃ』絶賛発売中ですが。

「そこの美しいカッパさん、手伝ってくれたら山辺先生と積極的にからむように努力するよ」

 牛魔王が怖い事を言っている。

「お手伝いします」

「裏切るなーっ!」

 江利子さまが牛魔王側に参戦したおかげで、戦局は互角になってしまった。
 更に、牛魔王は恐ろしい手を使った。

「ユキチ!」

 祐麒さんはぎょっとした表情で牛魔王を見た。

「俺、火傷してますから!」

「ユ・キ・チ(はあと)」

 さわやかな笑顔で白い歯を光らせた牛魔王の圧力に屈し、タヌキの精が参戦した。
 まずい、手負いのタヌキと侮っていたら意外と強い。

 こうなったら奥の手を使うしかない。


 志摩子さん、志摩子さん、助けてください。


 私はロザリオに呼びかけた。

 目の前が光って志摩子さんが登場した。

「乃梨子、教えてあげるからお経を唱えなさい」

 志摩子さんはものすごく恥ずかしそうに私に耳打ちするように手を当ててそっとお経を唱え始めた。
 志摩子さんの真似をしてお経を唱えた。

 空が急にかき曇り、雷が目の前の一団に落ちた。

「ギャーッ!」

 目の前の人々は全滅していた。

「し、志摩子さん! 全滅させてどうするんですか!? 大惨事ですよ!!」

「銀杏の名を汚し、大罪を犯したあの人以外は回復させればいいわ」

 志摩子さんの目は冷ややかだった。
 こんな志摩子さんは初めて見た。

「志摩子さん!?」

「あの人のせいで、銀杏が好きという度に私がどんな目に遭ってきたか! あの人のせいで銀杏のイメージが悪いのよ!」

 よくわからないが、志摩子さんが牛魔王のせいで苦しんでいるのであれば、牛魔王は生かしてはおけない悪であり、それは抹殺してしかるべき相手という事になる。

「わかりました。では、聖さま達を回復させるお経を教えてください」

「ええ、乃梨子」

 志摩子さんがいつものように微笑んでくれた。
 志摩子さんの微笑みを取り戻せるなら多少の犠牲は仕方がない。
 私は志摩子さんに教えてもらったお経を唱え、聖さま達を復活させた。

 志摩子さんは満足して帰って行った。

「私達も、早く行きましょう」

「お待ちなさい!」

 立ち去ろうとしたところ、羅刹女祥子さまに呼び止められた。

「よく、生きてましたね」

「これで、うまくかわしたのよ」

 祥子さまは芭蕉扇を取り出した。
 聖さまが身構える。

「仇討ちでもするの?」

 祥子さまは首を横に振った。

「いいえ。もし、もしもよかったら……牛魔王、紅孩児、タヌキの精を助けてくれないかしら?」

「えっ、タヌキの精もですか!?」

「ええ。なんだかいろいろと事情があるみたいだし……」

 私はお経を唱えた。
 牛魔王、紅孩児、タヌキの精も復活した。

 私達は旅立った。

「これでよかったんでしょうか?」

「いいんじゃない? 全部丸く解決したみたいだし」

 聖さまがどうでもいいというように呟いた。

「お待ちください!」

 振り向くと紅孩児がいた。

「なんで全部復活させちゃったんですか!? 何にも解決してないじゃないですか! 責任とって下さい!!」

「ええっ、そんな事言われたって……」

「ひいいいいぃ!! 俺はそんな趣味無いって!!」

 タヌキの精が逃げてきた。

「照れるなよ、ユキチ」

 牛魔王が追ってきた。

「何をやってるんですの!?」

 羅刹女がヒステリックに追いかけてきた。

「これ、どーするの?」

 結局私は始めに志摩子さんに教わったお経を唱え、雷で牛魔王一家を倒して先に進んだ。

続く【No:2926】


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