【2922】 光あれいつもあなたと春  (ROM人 2009-04-10 14:29:53)


※オリキャラ有り。 原作キャラの性格が改悪されている可能性がありますので苦手な方はスルーしてください。

 あと、どっかで見たことのある名前の人が居たりしますが、年齢・性別・職業・ツベルクリン反応の如何と問わずおよそでっち上げの捏造なのであしからず。

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 あの子の首に光るロザリオを見る度、私の心はしくりと痛んだ。


「これで、最後かな……」
 薔薇の館に提出する書類の束を机の上でそろえて、ふとため息をつく。
 新年度が始まり、新入部員を迎えるための準備と活動スケジュール、そして予算獲得のための書類。
 活動の無い放課後、私は一人で書類の整理をしていた。
 書類の提出期限も近づき……というよりとっくに過ぎているのだが、つぼみの妹になった彼女のおかげで少しの猶予を得る事が出来た。
「別にサボっていたわけではないのよ」
 誰に言い訳をするわけでもなく、独り言をつぶやく。
 この部屋には現在私一人。

「うーん、残念。 もう一人居るよ」
 幻聴が聞こえる。

「幻聴じゃないってば。 山百合会に提出する書類、まだやってたの?」
 しつこい幻聴……いや、一匹の熊がバスケ部のユニフォームを着て立っていた。
「失礼な。 確かにさとみと二人で一号だ二号だ言われてるけど、ちゃんとした人間ですから」
 ていうか、さっきから人のモノローグにつっこみいれないで欲しい。
「何か用なの? ここは演劇部の部室で熊の檻ではないのよ?」
「用って言うか、遊びに来ただけだけど。 悪い?」
 ニカッと笑いながらさっきまで私が書類を整理していた机に腰掛けると、先ほどの書類を勝手に手に取った。
 まあ、それはいいとしてリリアンの生徒としては行儀悪過ぎない?
 ショートパンツからすらっと伸びる足がちょっと目のやり場に困る。
「相変わらず、きれいな字でびっしり書いてるね。 こりゃ、性格が出てるわ」
「悪かったわね。 それで、あなたの方はちゃんと提出したの?」
 目の前の相手、熊沢ひとみは今年のバスケ部部長で私の腐れ縁の友人だ。
「親友」
 チッチッチと片目をつぶり、人差し指を左右に振っていたずらっぽい笑みを浮かべると彼女はそう言った。
「ああ、はいはい。 親友ね」
「あきれた声出さないでよ。 幼稚舎からの親友でしょうが」
 まあ、そういうことにしておこう。
 彼女と彼女の双子の妹であるさとみと三人は幼稚舎からの付き合いである。
 スポーツ大好きな姉妹と本を読んだり演劇が好きな私。
 まったく趣味が合わない三人だが、上手い具合に得意分野と不得意分野が分かれていてバランスが取れている。
「で、用件は?」
「あはは」
 ひとみはショートパンツのポケットからくしゃくしゃの封筒を取り出すとその中身を私に手渡した。

「あなたねぇ……」
 それは、先ほどまで私が取り組んでいた書類と同じ書類のセットだった。
「物はついで……と言うじゃない? 薔薇の館まで持ってくのはやっぱり……ねぇ」
 この書類の本来の締め切り時にはつぼみ達が回収に来てくれた。
 もちろん、それより先に薔薇の館に自分で持っていく部もあるし、教室で関係者に渡して済ましてしまうことも出来た。
 つまり、今ここで最終締め切り……つまり、今日の放課後までに提出してないと「今年の予算はありませんからね」と薔薇様になった祐巳さん達に言われていた期限も過ぎている訳で。
 当然のことながら、薔薇の館に直接出向いて頭を下げて受け取って頂かなければならないのだ。
 まあ、早い話締め切りを守れなかった同人屋が多額の割増料金を支払い印刷屋さんに土下座をしてイベント当日に本を間に合わせてもらう状況に良く似た状況なわけで。
 このギリギリ感が最高のエクスタシーを…………
「変態だ……変態がいる」

 ポイっ

「うわぁ、うちの部の書類捨てないでよ」
「誰が、変態だ。 誰が」
 とりあえず、まるめて捨てるのはかわいそうなので封筒ごとゴミ箱にポイしてやった書類を拾いながらひとみが恨めしそうな顔をしている。
「……変態で下級生のストーカーやってる典」
「ちぎって、焼却炉に捨てましょうか?」
 ぼそぼそとつまらない事を言うのでお仕置きが必要のようね。
「か、顔が恐いよ……典ぁ」
「誰の顔が恐いって? 誰が女子高生に見えないですって? コスプレした熟女とか言うなっ!」
「痛い……い、痛いよ。 典さまぁ」
 彼女のコメカミに私のアイアンクローがギリギリと食い込んでいく。
「ず、頭蓋骨が変形しちゃう」
「ふふふふふ」


「あの……。 そろそろ書類を頂かないと本気で予算ゼロで新入部員勧誘の許可出せなくなっちゃうんですけど」
 何時の間にか開いていたドアの所に立っていたのは盾ロールがトレードマークのあの子だった。
 壁にかかってる時計を見るとすでに結構な時間だった。
「あはは、ごめんね瞳子ちゃん。 もう出来てるから」
 私はあわてて、書類をまとめると仕方が無いからひとみの持って来た書類と一緒に手渡した。
「バスケ部……今年の予算は無いかもしれませんよ?」
 ひとみの書類を見た瞳子ちゃんは苦笑した。
「そ、そんなぁ。 典だって今出すんじゃない」
「超法規的措置ですよ。 私、部員ですし」
 そう言ってぺロっと舌を出して笑った瞳子ちゃんに以前のような暗い影は存在していなかった。
「そこを何とか。 こう見えて私は典の親友で……いや恋人で、だからその」
「こら、そこ。 変なことを口走るな。 瞳子ちゃん、何とかしてやってあげてくれないかしら」
 まるで大名行列に頭を下げる村人の様に、部室の床に額をこすりつけて不穏な事を口走り始める友人にちょっとあきれながら私は助け舟を出してやる事にした。
「仕方ありませんね。 まあ、可南子さんも居ることですしお姉さまも何とかしてくれると思います」
「よかったぁ……」
 まだ、仕事が残ってますのでと書類を手にした瞳子ちゃんは薔薇の館へと帰っていった。

「彼女、可愛くなったわね」
 床にぺたんと座ったまま、瞳子ちゃんが去って行ったドアを見つめながら瞳はつぶやいた。
「あの子は元々可愛いわよ」
 そんなこといまさら言われなくたってわかってる。
 祐巳さんの妹に納まったあの子は背負っていた暗い影を払い落として、光り輝く大きな翼を広げた。
「さすが、ストーカー部長ね」
「誰が、ストーカーだ」
 私はひとみのおでこを指ではじいた。
「逃がした魚は大きい?」
「そうね、大きいわ」
 私は、あの日の瞳子ちゃんを思い返していた。

『私の妹になりなさい』

 あの時、私の妹にする事が出来ていたなら。

 いや、きっとそうしなくて良かったんだ。
 あの日、私の妹にならなかったからこそ今日の瞳子ちゃんの笑顔があったに違いない。
「ねえ、辛くない?」
 ふと、ひとみが心配そうに私を見つめていた。
「あなたこそ、どうなのよ」
 その答えは、今は聞いて欲しくなかった。
 だから、私は話をそらした。
「私は頑張るわ。 だって、可南子ちゃんはまだフリーだもの」
「そうね。 でも、美術部のみちるさんもあの子の事を狙っているみたいよ。 絵になる子だからって」
「え? マジ?」
 ひとみは急に立ち上がると、あわてて部屋を飛び出して行った。

 誰もいなくなった部室の空気が少しだけ寂しくて、騒がしい友人にハッピーエンドが訪れるのをマリア様に祈った。



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……部長ファンは絶対怒ってる(w
お久しぶりです。
名前どおり、ROMしていたROM人です。
最近、戻ってきてちょっとだけ別のHNでコメント欄に参加させていただいたりしてました。
随分書いてなかったのでなんとなくリハビリをかねて書いてみました。
関係各所あちこちに怒られそうなネタですが、とりあえずお怒りの際は

「その場で100数えてください」

たぶん、その間に何作品か投稿されて遥か彼方に押し流されて居る事でしょう(ぉぃ
 


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