【2931】 午後のティータイム蓉子ちゃんのえっち  (bqex 2009-04-29 23:03:50)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【No:2910】志摩子と父編
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【No:2915】火焔山編
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【No:2926】大掃除編
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【これ】
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【No:2940】カメラ編
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回


 私、二条乃梨子は、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと一緒に天竺目指して旅をしている。

 前回は悪夢だった。振り返りたくない。優しさがあるなら触れないでほしい。



 さて、気を取り直して旅を続けているチーム三蔵法師はある家の前を通りかかった。
 2人の少女が私達を見て声をかけてきた。

「お待ちください、あなたは天竺にお経を取りに行くロサギガなんとか法師さまではないかしら?」

「あら、乃梨子法師さまではなかったかしら?」

 この世界の敦子さんと美幸さんが現れた。

「……ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの二条乃梨子です」

 今度は何だ。

「まあ! 私たちはその……乃梨子さん、でいいかしら? 乃梨子さんがもし、ここを訪れるような事があったらおもてなしをするよう師匠から言い使っているんですの」

 ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンって言えないんだね。はいはい。

「ぜひ、お立ち寄りください。そして、お茶でも一杯。さあ、お連れの方も。どうぞどうぞ」

 私達は無理矢理家の中に連れ込まれた。
 2人はお茶とお茶菓子を持ってくると言っていなくなってしまった。

「ああ、またこの展開」

 私はため息をついた。

「様子を見て、おかしな事になったらすぐに倒してしまいましょう」

 蓉子さまの言葉に全員がうなずく。

「お待たせいたしました」

 敦子さんと美幸さんは私達の前にお茶と蓋をした皿を置いた。

「……これは?」

「これは人参果という素敵な果実です」

 敦子さんが言う。

「どう、素敵なんですか?」

 蓉子さまが訊く。

「私達は食べた事がないのでわかりませんわ。ただ、師匠は素敵だと仰ってました」

 美幸さんが答える。

「……」

 一同沈黙。

「人参果は鮮度が命ですの。蓋を開けたらすぐに皮をむいて召し上がってください」

 そんな得体の知れないもの食べたくない!

「へー、どれどれ?」

 江利子さま、何やってるんですかっ!?

「あら、お人形みたい」

 蓉子さままで……って、私はその人参果を見てぎょっとした。

 人参果は3〜4頭身のフランス人形のような姿で、ウサ耳が生えていて、俗に言う「ウサ・ギガンティア志摩子」にそっくりだった。皮はご丁寧にリリアンの制服に似た深い色である。
 ちなみに「ウサ・ギガンティア志摩子」とは、最近リリアンで流行っているウサ耳のキャラクター人形の事で、本当は別の名前があるアニメのキャラクターらしいのだが、志摩子さんに似ていると誰かが言い始めた事から「ウサ・ギガンティア志摩子」とリリアン限定で呼ばれ、密かに志摩子さんファンの間で流行っているキャラクターである。
 瞳子から教えられた時は一笑に付したが……

「なんじゃそりゃあ!」

 笑い事じゃない。

「人参果という果実ですわ」

 敦子さんが答える。
 そんな事を聞いているわけではない。

「さあ、召し上がらないと」

 美幸さんが促す。
 江利子さまは制服に似た皮の裂け目を破り、人参果の果肉を出そうと──

「ぁあん」

 な、な、な、な、なんだ今の!?

「え?」

 江利子さまがびっくりして手を止める。

「これは人参果の音ですわ。人参果は人間の声によく似た音を出すんですの。気にしないで召し上がってください」

 気になるわあぁ!!

「ふーん」

 江利子さまは皮をむき続ける。

「ん……ぁあん」

 しかも! しかも!
 今の声(?)は志摩子さんそっくりだったわあぁ!!

「ぁああん」

 蓉子さまも制服じゃなかった、皮をむき始めた!

「ひいっ!!」

 更に!! 更に!!
 白い果肉は空気に触れると徐々に薄紅色に変わっていき、まるでそれは、紅潮している人肌のやうに……

 を、を、を、を、を、を、をぢづけ、をぢづくのだ、にぞぉうのりご!!!!
 (落ちつけ、落ち着くのだ、二条乃梨子、と言いたい)

「まあ、乃梨子さん、鼻血が出てますわ」

 だ、だ、だ、だ、誰のぜいだとをもっでいるわぎゃ!!
 (誰のせいだと思っているわけ! と言いたい)

「そ、ぞんなえだいのじれない……だべるんれじゅご?」
(そんな得体の知れないもの食べられるの? と言いたい)

「まずは鼻血をお拭きになって、乃梨子さん」

 私は鼻血を拭かれた。

 待て、待て、待て、待て、これは何かの罠!?
 いかん、いかん、いかん、いかん、何を考えている。
 これは果実だ。志摩子さんではない。
 志摩子さんとはあんまり似ていない、アニメのキャラクターにちょっと似てるぐらいの何かで、つまり、その、志摩子さんではないのだ。
 落ちつけ、乃梨子。
 落ちつけ、乃梨子。
 落ちつけ、乃梨子。
 あれを志摩子さんだなんて思うな。
 あれを志摩子さんだなんて思いこむから志摩子さんの声に聞こえるんだ。
 全ては邪念あふれる妄想だ。
 あれは志摩子さんとは関係ない。

「あ……ぁあん……」

 を、を、を、を、を、を、をぢづけ、のりご!!!!
 (落ちつけ、乃梨子!!!! と言いたい)

「あら、また鼻血ですわ」

 あ、あ、あ、でわ志摩子すゎんではにゃい!
 (あれは志摩子さんではない! と言いたい)

 鼻血を拭いて息をする。
 うー、血の匂いが……

 その時私は聖さまの姿が目に入った。
 聖さまは微動だにしていなかった。
 なんだ、この落ち着きは?

「……ではない」

 ん? なんかブツブツ言ってる。

「これは志摩子ではない、これは志摩子ではない、これは志摩子ではない……」

 同志発見!
 ……いや、嬉しくないが。

 聖さまは私の視線にようやく気付いた。

「た、食べなくてもいいですよね?」

 私が訊くと聖さまは言った。

「た、食べなくてもいい!」

 その時だった。
 私は何者かに押しのけられた。
 それは、蓉子さまだった。

「聖……」

 蓉子さまは人差し指をそっと聖さまの眉間に当てるとゆっくりと下におろしていき、鼻の頭を通って唇に触れた。

「え?」

「うふふ」

 蓉子さまがとろんと酔っぱらったような目で聖さまを見ている。

「いい?」

 蓉子さまが人差し指で聖さまの唇を優しく叩くような仕草をしながら訊く。

「へ?」

 聖さまが変な声を出す。

 次の瞬間、蓉子さまは聖さまの肩を抱いてキスをしようとしている。

「よ、よ、よ、よ、よ、蓉子!!」

 聖さま、攻めに弱いタイプだったんですね。

 さて、どうしようと思っていた時、後ろからけだるそうな目をした江利子さまが蓉子さまの肩をつかんで強引に引き離し、聖さまの前に立った。

「結婚してください」

 突然無茶苦茶な事を言う江利子さま。
 なんだ、なんだこの展開は?

 蓉子さまは江利子さまを突き飛ばして聖さまの前に出る。
 江利子さまはお返しに蓉子さまにスライディングタックルを食らわせて転ばせる。
 蓉子さまは構わず聖さまに襲いかかろうとする。
 聖さまは慌てて飛び退く。

「の、の、乃梨子ちゃん、お願い! 雷お願い!」

「は、はい!」

 止めるにはそれしかないだろう。
 志摩子さんに習った雷を落とすお経を唱えて、蓉子さまと江利子さまを仕留めた。

「さて、これは一体何の真似か説明してもらおうか?」

 聖さまは敦子さんと美幸さんを捕まえると襟首をつかんだまま訊いた。

「ひいっ!! 私達はお師匠様からこれを出すようにと言われただけで──」

「私達もこんな事になるなんて知らなかったんですの!」

 2人は必死に言い訳する。

「うーん、聖……」

「山辺さぁん……」

 マズイ、目覚めて復活したらまたもや大変な事に。

「乃梨子ちゃん、2人をそこの柱に縛り付けて! 大変な事になる前に! 早く!」

「は、はい!」

 私は家にあった縄で蓉子さま、江利子さまを身動きできないように柱に縛り付けた。

「で、お2人は元に戻るんですか?」

 聞くと敦子さんと美幸さんは顔を見合わせて言った。

「わかりませんわ」

「知りませんの」

 役に立たない。

「2人の師匠は? 師匠なら対処法を知ってるでしょう?」

「……師匠は、知り合いのところに出かけて2、3日留守にすると」

 私は頭を抱えた。

「その、知り合いの住所を教えなさい」

 聖さまは粘って2人に師匠の居場所を吐かせた。

「乃梨子ちゃん、行ってくるから、2人の事頼む」

 聖さまはキント雲を呼んだ。

「ええっ!? この状況で私、残されちゃうんですか!」

 私は思わず言った。
 こんな状態のお2人と留守番だなんて危険な任務を押し付けないでくださいよ。

「絶対に師匠とやらを連れて戻ってくるから」

 聖さまは逃げるようにいなくなった。

「うーん。聖……」

 蓉子さま、気がついたみたいだ。
 縛り付けてあるから、簡単には抜け出せないだろうけど……

「聖ってこんなのが好きだったのね!? でも、そんな聖も好き」

 ああ、蓉子さまが変態になってしまわれた。

「うーん。山辺さん……」

 江利子さまも目覚めた。
 うーん、ブタとカッパの衣装って攻撃をいくらか受け止めるみたいだ。

「こんな近くにいるのに何にも出来ない! でも、あなたがいるから幸せ」

 ああ、江利子さまも変態になってしまわれた。

「ちょっと、私だって聖の事好きなんだからあ!」

「何よお! 絶対に振り向かせて見せるんだからあ!」

 2人はまるで酔っぱらいのように喧嘩を始めた。
 お互いに何言ってるかわかってるのかな?

 ミシ……

 ミシ?

 ゲッ! ブタとカッパの衣装で体力が数段パワーアップしているせいで、柱に簡単にヒビが入ってしまった!

「どうしてこんなに好きなのに……もう!!」

 ミシ……

「私には聖さえいればそれでいいのよぉ! 聖が幸せなら、栞さんだろうが、志摩子だろうが何でもいいと思ったけど、やっぱり、やっぱり……」

 ミシ……

「結婚して!」

 ミシ……

「聖となら!」

 ミシミシ……

 私は限界を悟り、脱出した。
 2人は後で志摩子さんに習ったお経で復活させればいいが、私を復活させる術を聖さまが使えるとは限らない。

 私の判断は正しかった。

 柱は折れ、家は大がかりなコントのように崩れ去った。

 さて、お2人はどうなってしまわれたか……

 ……2人は生きていた!

 蓉子&江利子のドキドキ脱出ショーは無事成功……じゃなかった。

「蓉子ぉ!!」

「江利子ぉ!!」

 ……まだ、カオス状態らしい。

「お待たせ」

 聖さまが敦子さんと美幸さんの師匠を連れて戻ってきた。

「……」

 あー、この人が師匠で素敵な事って言われたら誰も人参果なんて食べなかっただろうね。

「築山三奈子さま。早く元に戻してください」

 その、聖さまに連れてこられた師匠こと三奈子さまは言った。

「私は鎮元大仙です」

「どっちでもいいから!」

 聖さまがきつく言う。

「……こんな事になるなんて、知らなかったわ!」

 困ったように三奈子さまは言う。
 無責任な!

「じゃあ、どんな効き目があるというの?」

 聖さまが確認する。

「滋養強壮、疲労回復に効果抜群の栄養果実でこんな効果はないハズなのに!」

 ええっ!? でも、お2人とも悲惨な状態になってますが……

「……お茶だ。お茶に何か入ってたんだ」

 聖さまが言う。
 私も聖さまもお茶は飲んでいない。

「ちょっと! あなた達、お茶に何を入れたのよ!」

 三奈子さまが敦子さんと美幸さんを叱りつける。

「師匠愛飲の『般若湯』ですわ。これを飲めば疲れが飛ぶというお薬ですよね?」

「私達、乃梨子さんの旅の無事と健康のために良いものをと思いまして……」

 敦子さんと美幸さんが説明する。

「あ! あなた達、まさか私の愛飲のドンペリを!?」

 そんなもの飲んでるのかい!
 ドンペリとはシャンパン、お酒の銘柄です。

 二条乃梨子とみんなの約束……お酒は20歳になってから。20歳を過ぎていても適切な量を守ってほどほどに飲む事。

「じゃあ、これは……」

「単なる、酔っ払い?」

 私と聖さまはそっとお2人の方を見た。
 お2人は眠っていた。

「……」

「……はは」

 乾いた笑いがむなしく響いた。



 翌朝。

「……うう、頭痛がひどいわ。昨日、気がついたら眠ってしまったみたいで」

 江利子さま、それはたぶん二日酔いです。

「参ったわ。昨日の記憶がすっぽりと飛んでるのよ」

 蓉子さま、知らない方が幸せな事もあります。

「ねえ、私何かあった?」

「さあ? 私も覚えてませんので」

 昨日の事は聖さまと示し合わせてお2人には絶対に言わないという事にした。

 上からふわりと紙が降ってきた。

「……えー、なになに。天界かわら版?……ゲッ!」

 それはこちらの世界の三奈子さま監修のリリアンかわら版にあたるもので、そして、昨日のお2人の所業に尾ひれがついていた。

「……ふ、ふふふ……」

「……う、ふふふ……」

 蓉子さま、江利子さまの目が怪しく光った。

「聖、乃梨子ちゃん先に行ってて。ちょっと忘れ物したみたいだから」

「すぐに追いつくから心配しないで」

 蓉子さまと江利子さまは引き返して行った。

「聖さま?」

 聖さまは複雑な微笑みを浮かべて首を横に振った。

 数時間後、晴れやかな表情で戻ってきたお2人と合流し、旅は再開した。

 知らない事が幸せな事ってある。
 私と聖さまはお2人がどこで何をしたか聞かなかった。
 いや、聞けなかった。


続く【No:2940】


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