【2932】 水野蓉子の決断  (オキ&ハル 2009-04-30 12:03:37)


パラレルです。
ご注意を



その法律事務所は、東京の端にある。
そこで働いている、私、水野蓉子(27)がカップに新しくコーヒーを入れて席に戻ると
「雨が降るかもしれないわね。」
所長である蟹名静さん(年齢不明)が呟いたのが聞こえた。
その時に窓から見えた空は、夏がもう終わるといえ、抜けるような青空で
雲ひとつ無かった。
でも、この人の予想は当たる。
梅雨の時期ですら、晴れるかどうかを当てられるのだから。
テレビの天気予報より当てになる。
実際、私の前に座るアルバイトの松平瞳子ちゃん(21)も天気予報を当てにしてハイヒールであることを後悔していた。
傘に関しては、仕事柄急に出ることもあるので置き傘もあるし、折りたたみも常備している。
でも、確かにハイヒールだと嫌だ。
「どうか、私が帰るまでもって。」
と、空に祈っている瞳子ちゃんが可愛らしい。
ふと、所長と目が合った。
「気をつけてね。」
と言われ
「あ、はい。」と返した。

案の定と言うか、やっぱりと言うか、夕方になると雲が多くなり雨になってきた。

明らかに不機嫌な顔をした瞳子ちゃんが先に帰ると、しばらくして
「私たちもそろそろ、」
所長の言葉で切り上げた。
雨は随分と強くなっていた。

私は、某大学を卒業後、ロウスクールを経て、弁護士になった。
その時研修として行った先の事務所に静さんがいて、
私の研修が終わると同時に静さんが独立することになり、
誘われる形でこの事務所に入った。
仕事も出来、人当たりもよく、尊敬できる人だったので、割とすぐ返事をした。
そうして、2年ほど経つ。
瞳子ちゃんも、ここ一年程に入った。
3人しかいない事務所だから、私が指導員みたいな形。
最近は随分慣れてきたきたけど、
最初は私も分からないことばかりで凹むこともあった。
その時は必死だったけど、こうして落ち着いてくると、急に不安になることもある。
このまま静さんのように、仕事をバリバリこなせる女性になりたいのか
ある程度仕事を抜いて、それ以外にも何かを求めた方が良いのか。
もうすぐ28歳、何かが欲しかった。


「ただいま。」
誰もいないと分かっていたけど、マンションの扉を開けて、
固まった。

「おかえり〜。」

見知った人物が中にいた。
「なんでいるのよ?」
思わず出てしまった驚いた声に、問われた人物、佐藤聖(28)は、こともなげに
「管理人さんにあけてもらった。」
「そうじゃなくて。」
慌てて、靴を脱いで上がると、
「出ました。」
と、玄関とリビングの間の扉が開いて、小さい子供が出てきた。
後姿だけど、髪の長さから女の子のようだ。
その子は、聖の視線を辿ったらしく、振り返り、私を見て
「あっ、」
固まった。
私も固まった。



聖は、事務所から少し離れたところでBarを持っている。
事務所に入ってからしばらくして、静さんに連れて行ってもらった。
それ以来、何故か私を気に入ったらしく、私の休みに買い物に誘われたり、時々飲みに来るように言われたりした。
会話も上手く、流行にも詳しいので、お客さんとの話題にも使えたし、
なにより距離のとり方が上手かった。

「で、なんのよう?」
着替えもせずに座ると、
「まま、落ち着いて。」
初めてこの部屋に入ったはずなのに、戸棚からカップを出し、勝手に作ってたコーヒーメーカーから注いで、テーブルに置いた。
一口飲んで、・・・美味しい
なんか悔しい。
それを読み取ったのか、聖はにやりと笑い、
私の正面、少女の隣に座った。
「じゃ、自己紹介して。」
そうして促すと、少女は緊張した面持ちで
「小笠原祐巳です。6歳です。」
と言ったのだけど、こちらとしては、
「え〜っと、それで?」
これは、聖に
「この子預かってくれない?」
突然のことに何のことか分からない。
「・・・は?」
「ちなみに、百万円もついてくる。」
「・・・・・・は?」

何故か、静さんの「気をつけてね。」が浮かんだ。

えっ、これのこと!!!???



久しぶりということで、リハビリな感じですが。


一つ戻る   一つ進む