俺、福沢祐麒（ふくざわ・ゆうき）には、３人の姉がいる。


【サクラ舞う】


「ほら、祐麒！撮影に遅れるよ！」

　玄関先で俺を呼んでいるのは、俺と同じ愛嬌のあるタヌキ顔で、今年リリアン女学園中等部に進学する年子の姉。福沢祐巳（ふくざわ・ゆみ）。

　まだ、学生服のカラーに馴染めなくて、うまく留めることができないけど、いい加減、家を出ないと一番下の姉ちゃんのカミナリが落ちそうだ。

「いま降りる！」

　返事だけと思われたくないから、真新しい鞄を掴んで、ダダダと勢い良く階段を駆け下りる。

　始業式前に、みんな揃って写真を撮るのが春の風物みたいになったけど、去年までは写真なんか残したくはなかった。一番上の姉が初等部に入学するときに記念撮影したのがきっかけか、一番下の姉が「来年は私たちも学校にいくから、また写真撮ろうね」という言葉に、親たちもにこやかに賛同してた。

　あのころは、そんなこと気にもしてなかったけど、やっぱり半年以上も時間の差があるのはいかんともしがたく、同じ学年で括られてる俺が姉ちゃんたちより『背が低い』事実を突きつけられるのがメチャクチャ嫌だった。

　がっつり食べてたっぷり運動して、今年の正月、並んで立っていた一番下の姉ちゃんがちょっとだけ視線を上にしていることに気付いたときには、俺の脳内にいる『田中さん』がゴールを決めたサッカー選手のようにガッツポーズをとって踊っていた。

　やるじゃん、俺の成長期！





　祐巳と並んで行くのは、厳つい門柱の先にある桜の木。今年もいい具合に咲いている。

「ユウキ！遅いよ！」

　一番下の姉ちゃんは桜を愛でる和の心も、たったひと言で斬りつけてきた。

　おさげ髪で俺を指差し、すんげー睨みつけているのは一番下の姉。島津由乃（しまづ・よしの）。

　入学の嬉しさか、かなりテンションが高めで声にも妙な張りがある。このままの勢いでググッとテンションを上げられたうえに、入学式で倒れられたら目も当てられないので、なるべく刺激しないように、襟元に手をもっていく。

「学生服のカラーがうまくはまらなかったんだよ」

　俺の襟元を見た由姉（よしねぇ）、

「も〜、ユウキはまだまだ手のかかる弟なんだから」

　と、にっこり笑いながら出来の悪い弟の襟カラーのホックを直してくれる。って、島津のオジサン、こんなとこ撮らないでよぉ。情けねぇ〜

　由姉の後ろで、妙なポーズをしながら肩を震わしているのは一番上の姉。支倉令（はせくら・れい）

　俺たちがちょっとだけ遅く来たことに腹を立てた由姉をなだめようとして腕を上げようとしたけど、途端に態度を軟化させた由姉が面白かったんだろう。あからさまに笑うと矛先が変わるから後ろを向いて笑いを堪えてるんだろうけど・・・

　令姉（れいねぇ）、その格好、アヤシイ人にみえるからヤメレ。ってか、笑いすぎ！そんでもって祐巳も笑うな！！

「ゆークン、、、よかった、、ねぇ〜」

令姉、声が笑いで震えてるって・・・

「ほらほら、みんな並んでならんで〜」

　お袋の柔らかな声に、支倉の庭に咲いている桜の木の下で、いつものポジションに並び始める。俺の右横に由姉。左横に祐巳。後ろ、由姉と俺の間から令姉。

　子どもたちだけで１枚。パシャリ

　家族全員で１枚。パシャリ

　各家庭で１枚ずつ。パシャリ　パシャリ　パシャリ



　いつからか、俺はごく自然に３人の弟になっていた。何があったのかも覚えていない。

　年が近いからか、俺は支倉家、島津家でも自分の子どものように扱われている。お袋たちが全員リリアンＯＧだっていうのも要因のうちなのか・・・

　そういや、木下が「ユキチ。それ、なんてラノベ？」なんて言ってたっけ。そんなの知らねぇっての！

　最後の撮影が終わった令姉が俺たち３人に心から笑顔で言う。

「由乃、祐巳ちゃん、ゆークン。進学おめでとう」

「「「 ありがとう！ 」」」

　このへんの息の合い方は、伊達に７年以上も姉弟やってないな。ってくらいピッタリだ。

「おーい祐麒。そろそろ出ないと、入学式に遅れるぞ」

　親父に言われて時計を確認したら、確かにバスの発車時刻が迫ってきている。

「じゃあ、姉ちゃんたち。いってきます」

「「「 いってらっしゃい 」」」

　今から、俺の中学の生活がスタートした。





　俺、福沢祐麒には、３人の姉がいる。

　でも、な〜んで、俺、３人の弟になったんだっけ？



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キャスト

　支倉令：長女
　福沢祐巳：次女
　島津由乃：三女（未改造）
　福沢祐麒：長男だけど弟

　支倉夫妻：令の両親
　島津夫妻：由乃の両親
　福沢夫妻：祐巳と祐麒の両親

　木下孝司：祐麒の同級生（特別出演）

　田中さん：福沢祐麒の心理描写で稀に出てくる謎の人物？



つづくの？

いやいやいやいやいやいや（「水曜どうでしょ」の大泉洋 風に）



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