【2937】 台風なんか色々はずかしい  (オキ&ハル 2009-05-02 00:14:52)


【No:2936】の続きです。


祐巳ちゃんを預かってから変わったこと。
まず、必ず誰かがいるようになった。
朝は一緒に家を出て、私は会社、祐巳ちゃんは学校。
夕方は聖が私の家にいて、祐巳ちゃんを迎える。
私が帰って来て3人でご飯。
その後、聖は仕事。
食事も祐巳ちゃんのことを考えてなるべく作るようにしている。
聖が下準備とかやってくれるおかげで何とかこなせている。
祐巳ちゃんも、好き嫌いがあまり無いようだし、私たちのことを気に入ってくれたよう。
土日になると3人で出かけることもある。
もちろん、祐巳ちゃんだけで遊びに行くこともある。
一応、知らない人について行かないように言ってるし、防犯ブザーも待たせている。
聖曰く、誰かに追われているとかではないらしいので。
その辺は、なるべく祐巳ちゃんの友人関係を変えないようにしたい。
おかげで、食器も増えたし、祐巳ちゃん用の衣装ケースも買った。
段々、聖の私物も増えてきた気がする。
おかげで
「ねぇ、蓉子、」
「なに?」
「いっそ、結婚しない?」
「馬鹿なこと言わないの。」
こんなことを言い出す始末。


「してみたら?」
「静さんまでそんなこと言わないで下さい。」
もし万が一何かあったときのために、静さんと瞳子ちゃんには事情を話した。
もちろん、祐巳ちゃんがお嬢様ってことは言っていない。
「でも、大変ですよね、それじゃ遊びにもいけないじゃないですか。」
瞳子には無理です。と、瞳子ちゃん。
「そんなにしょっちゅう友達と会うわけじゃないしね。」
これから一生ってわけじゃないだろうし。
「解ったわ、それで、早く帰りたいとか、ある?」
「いいえ、一応言っておいた方が良いと思っただけです。
仕事はいつもどおりで構いません。
友人も特にいつも始めから居なきゃいけないって訳でもないらしいですし。」
いくらなんでも、3人しか居ない事務所でそこまで迷惑は掛けられない。
「そう、とりあえず書類はなるべく早いうちに渡すことにするわ。
残業はなるべくしない方が良いでしょうし。」
「ありがとうございます。」
「ねぇねぇ、蓉子さん、」
瞳子ちゃんは、少し身を乗りだして、
「その子可愛いですか?」
「そうね、」
ぱっと見、お嬢様には見えないけど、ほんわかした空気だし、
タヌキみたいな顔も相まって、可愛らしい部類に入ると思う。
「可愛いわよ。」
「え〜、今度写メ撮ってきて下さいよ。」
瞳子ちゃんは、椅子に背中を押し付けて、是非と付け加えた。
「機会があればね。」
そうは言ったものの、顔を広めちゃって良いのかな?


そんな感じで、特に何が起きるわけでもなく日々は過ぎていった。


・・・なんていくわけもなく、2週間ほど経って
「なんですか、貴女は?!」
就業時間をなり、事務所を出たばかりの瞳子ちゃんの叫びが聞こえた。
「どうしたの?」
私と静さんがドアの外をのぞくと、エレベーターホールで瞳子ちゃんとおかっぱ頭のセーラー服の子が掴みあっていた。
「静さん、この子がいきなり。」
「うるさい、お前のせいでおねえちゃんが!!」
瞳子ちゃんがこちらに助けを求めてきた。
「ちょっと落ち着いて。
どうしたの?」
私が仲裁に入るけど
「私はおねえちゃんの敵をとるんです。」
「離しなさい。」
の繰り返し。
何回かそれを繰り返した後
とうとう静さんまで加わって
「貴女、瞳子ちゃんに何の用なのかしら?」
その言葉に、おかっぱの子は初めてこちらを向き

「違います、私は水野蓉子さんに用があるんです。」

「・・・え?」
私ですか?




「間違えてすいませんでした。」
事務所の中に一度戻り、落ち着いたらしく
お茶を出した瞳子ちゃんに謝る藤堂乃梨子ちゃん(16歳)。
それでも、私のことを鋭い目で見てくる。
「本当に迷惑ですわ。」
瞳子ちゃんは、乃梨子ちゃんの隣に座る。
「で、乃梨子ちゃんは、蓉子ちゃんに何の用なのかしら?」
中立である静さんの言葉に乃梨子ちゃんの目がさらに鋭くなる。
知らず知らず椅子の背もたれに背中を押し付けた。
「佐藤聖、という人をご存知ですね?」
突然出た知ってる人の名前に、ちょっと驚きながら
「ええ、知ってるけど・・・」
「お前のせいでお姉ちゃんがー!!」
「きゃあ。」
私に襲い掛かってきた乃梨子ちゃんを瞳子ちゃんがとっさに捕まえてくれた。


その後、紆余曲折ながら事情を聞いた。
その一部

「えーと、貴女のお姉さん、藤堂志摩子さんが最近何故か寂しげでため息が多くなった。と。」

「それで、佐藤聖さんと最近全く会っていない事に気付いた。と」

「それで、事情を聞いても話してくれないと。」

「それで、携帯を盗み見たら、『しばらく水野蓉子って人の家にいるから』というメールがあったと。」

「それで、お姉さんから聞いてここに勤めていることを知って、学校帰りに待ち伏せしていた。と。」


ここまで聞くのに1時間かかった。
とにかく認めたがらないのだ。
特に、お姉さんである志摩子さんと聖が少しでも関係すると否定をする。
もしかしたら、とか、万が一とか付け加えてやっと少し認めてくれる。
しかも、私が口を挟むと、すぐ
「お前のせいでおねえちゃんがー!!」
である。
隣の瞳子ちゃんなんて肩で息をしている。
今度何か奢ってあげよう。

結局、祐巳ちゃんの話をして、聖にもきちんと事情を話すように言うと約束すると
乃梨子ちゃんは、「ご迷惑をおかけしました。」と礼儀正しくお辞儀をして席を立った。
帰り際に
「随分とお姉さんが好きなのね?」
と静さんが聞くと
「いいえ、妹として気になっただけです。」
それでは、事務所を出て行く。
いやいや完全に重度のシスコンだから。
私と瞳子ちゃんは、多分同じことを思いながら目を合わせた。


マンションに帰るとまず
「お帰り〜、今日は遅かったね。」
なんて言いやがる同居人の頭を無言ではたいた。
祐巳ちゃんはビックリしていた。



【あとがき】
とりあえず、乃梨子と志摩子(?)登場ということで






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