【2940】 異世界に飛ばされてそこにある危機武勇伝を作り続けて  (bqex 2009-05-04 09:59:33)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【No:2910】志摩子と父編
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【No:2915】火焔山編
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【No:2926】大掃除編
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【これ】
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回


 私、二条乃梨子は、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと一緒に天竺目指して旅をしている。

 今、私は猛烈に感動している。
 ここは元の世界では世界遺産にもなっている巨大石仏群のあるところなのだが、現在では破壊されてしまった。残念な事に、もう出会う事が出来ないのだ。
 しかし、この仏像だけは充実しているこの世界では、この巨大石仏群もちゃんとある。出会えないと思っていたものに出会えてまず感動。
 そして、この石仏は遠くで眺めても、近くで見上げても、凄く、いい。特に有名な西大仏と東大仏は感涙ものだ。感動が津波の如く押し寄せる。
 帰ったらタクヤ君に自慢したいものだが、西遊記の世界を旅してきたって言っても夢の中って事になっちゃうんだろう。う〜ん、残念。

「乃梨子ちゃん、嬉しそうね」

「デレデレね」

「まあ、元の世界じゃもう見られないものね」

 何とでも言ってください。
 二条乃梨子は今、すこぶる機嫌がよいのですから。

 ──カシャリ

「え?」

 不意にどこからか音がした。
 辺りを見回すが、よくわからない。

「ねえ、私の如意棒知らない?」

 聖さまが聞いてくる。
 見ると聖さまが手にしていた如意棒が消えている。

「知らないわよ」

 落したんでしょ、と蓉子さまが言う。

 ──カシャリ

「え?」

「また?」

 一同辺りを見回す。周りは岩山でどこかに誰かが隠れていてもおかしくない。
 相手が妖怪だとしたら、何かに化けている事も考えられるので余計わからない。

「あれ?」

 今度は蓉子さまのマグワ(という武器なんだそうな)が消えてしまった。

「ここを離れましょう」

 だが、間に合わなかった。

 ──カシャリ

 江利子さまの禅杖(という武器なんだそうな)が消えてしまった。

「そんなに武器に頼っていたわけじゃないけど、心細いわね」

 確かに、戦闘らしい戦闘と言えば牛魔王戦くらいで、それも雷で決着したし。戦闘とは縁遠いけど、それでも武器があった方がいいかもしれない。

「ごきげんよう」

 その人物は不意に現れた。
 不敵な笑みを浮かべた蔦子さまだった。

「私達の持ち物をとったのはあなたかしら?」

 蓉子さまが冷静に聞く。

「ええ」

 蔦子さまは否定しない。

「返して欲しいですか? 欲しいならロサギガン何某と交換といきましょう」

 どんどん変な呼び名が増えていく。

「お断りです」

「お断りされても、ロサギガン何某は頂くつもりですがね」

 キラリと眼鏡が光ったかと思うと蔦子さまは瞬間移動で私の背後に回り、私を抱えて再び瞬間移動した。
 私はさらわれてしまった。
 こちらの蔦子さまの屋敷と思われる場所に連れ込まれる。
 中には配下らしい妖怪達がウジャウジャいる。

「ちょっと、静かに」

 蔦子さまは私を縛り上げ、さるぐつわをかませた。
 そして、ある部屋へと私を連れて行く。

「ごきげんよう」

 蔦子さまは部屋に入る時とても優しい声を出した。

「姫、これはロサギガン何某よ。一緒に食べましょう」

 そう言うと蔦子さまは私を部屋に転がした。
 私は目の前にいる人物、たぶん姫、を見てびっくりした。

 目の前の人物は、全身モザイクがかかっていた。
 ドキュメンタリーで本人の希望で映像加工されているあんな感じで、どんな姿でどんな表情なのかはわからないのだが、そこに人間がいるのだけははっきりとわかる。

「私は、あなたの輝く姿を取り戻したいだけなの」

 蔦子さまは少し寂しそうに言った。
 もしかして、蔦子さまはこの人を元に戻したくて私をさらったのだろうか。
 まんざら悪い人ではないのでは……って、私を食べるのは勘弁してほしい。

「た、大変です! サルとブタとカッパが攻めてきました」

 配下の妖怪が慌てて飛び込んできた。
 聖さま達が助けに来てくれたらしい。

「仕方がない……じゃあ、ちょっとだけ待っててね」

 蔦子さまが出て行った。
 部屋に姫と二人で取り残される。

 姫はぼんやりと椅子に腰かけ、向こうを見ている。
 私は少しずつ、様子を見ながら位置を変えるが、姫は微動だにしない。
 これはチャンスだ。


 志摩子さん、志摩子さん、助けてください……


 目の前が光って志摩子さんが現れた。
 志摩子さんは私の縄を解いてくれた。

「ありがとう」

 小声で私は言う。

「あの、あれを戻す方法ってない?」

 隠れながら、私は姫の方を指す。

「ごめんなさい、あれはこの世界の蔦子さんにしか戻せないの」

「え? でも、蔦子さまは私を食べさせて元に戻そうとしていたよ」

 蔦子さまにしか戻せないなら、私は必要ないはずだ。

「ん?」

 志摩子さんは首をかしげた。
 そして、何か思い当たったようにぽん、と手を叩いた。

「乃梨子は姿の事を言っているのね」

 それって、と思った瞬間志摩子さんが言った。

「あの方、蔦子さんに心を操られているの。それは蔦子さんにしか戻せないわ。でも、姿の方は……ええと……たしか、腕輪を外せばいいんだったわ」

 志摩子さんは大胆にも姫に近づくと手探りで腕輪を外した。
 姫はきらきらと輝きながらモザイクだらけの姿から普通の人間の姿に戻っていく。
 姫は私達の知っている人物に似ていた。

「笙子さん」

 笙子さんはうつろな目をして椅子に腰かけていた。
 蔦子さま、なんて事をしてるんだ。
 人の心を操るなんて──

「ひどい。心を操っちゃうなんて」

「そうね」

 志摩子さんは私のつぶやきに答えた。

「でも、蔦子さんならきっと自分の犯した過ちに気付くと思うわ」

 その時遠くから激しい爆発音がした。

「今、聖さま達が蔦子さまと戦ってるんだった」

「乃梨子、行きましょう」

 私達は元の姿に戻った笙子さんを連れて音のした方に向かった。



 その部屋の入口から様子を見ると配下の妖怪は倒されていて、蔦子さまは肩で息をしていた。
 それに対峙している方は……

 江利子さまが鳥に化けて襲いかかる。
 合わせるように蓉子さまが水流で攻撃する。
 蔦子さま瞬間移動。
 しかし、動きを読んでいた聖さまが格闘ゲームの技のような術で蔦子さまを捕らえて吹き飛ばす。

 武器がないと心細いって言ってたのはどなたですか?
 滅茶苦茶強いじゃないですか、お三方。

 お三方は蔦子さまとは対照的に余裕の笑みすら浮かべている。

「降参して乃梨子ちゃんを返しなさい。もう、無駄だってわかっているでしょう?」

 蓉子さまの言葉に蔦子さまは無言で下唇をかむ。
 よく見ると蓉子さまの手にはカメラがあった。
 カメラを奪われた哀れな蔦子さまはサンドバッグと化してしまったようだった。

「……」

「降参しないようなので、次の術を試しまーす」

「あ、ずるい。私が術を使う番よ」

「あなた達、さっき決めた順番を守りなさい。次は私だって言ってるでしょう?」

 ん?

「こんな強い術、堂々と試せる機会なんてもうないかもしれないんだから、使わないことにはもったいないじゃない」

「西遊記なんだから、もっと私が活躍したっていいはずなのに」

「き、気になるわ。術の名前と威力、効力をもう少し調べておかないと。万が一暴発したら取り返しがつかないし……」

 ははあ、お三方は武器を奪われてしまい、仙術を駆使して戦いを進めるうちに、日常生活では絶対に使えない仙術を使うのが面白くなっちゃったんですね。
 もう、私の救出は建前でしかないんですね。
 なのに、蔦子さまは笙子さんのために意地でも降参しないんですね。
 蔦子さま、お可哀相に……
 私は巻き添えを食わぬよう、そっとその場を見守る事に徹した。

 その時笙子さんを連れてお三方の前に出て行けば、蔦子さまは降参してここまでボロボロにならなかったかもしれないなと気づいたのはお三方が満足してからの事だった。
 私は気まずいので、さも「ただ今脱出に成功しました」って顔をしてお三方の前に現れ、ちょっとわざとらしく再会を喜んだ。

「ところで、武器は返してもらえたんですか?」

「武器はこれをこうすると元に戻せます」

 聞くと、蔦子さまは写真を取り出して振って見せた。
 写真はすぐにいろいろな武器になって、その中に如意棒とマグワと禅杖が出てきた。
 あのカメラは武器を取り上げるだけの武器で、他の効力はないらしい。

「それから、操っている姫の心も戻してあげてください」

 蔦子さまは一瞬驚いたが、観念したのか素直に笙子さんの術を解いた。

「これで姫の心は元通りです。さあ、姫もロサギガン何某も武器も返しましたから、もうこれで勘弁してください」

 シュンとして蔦子さまは言った。

「待ってください。あの」

 笙子さんが前に進み出て聞いた。

「どうして私の心を操ったりしたんですか?」

 確かにそれは疑問だった。蔦子さまは答えた。

「私は輝いているあなたを見続けたいという欲望に駆られてしまって、思わずあなたをここにつれてきてしまった。でも、私はその武器を取り上げる武器を持っていることしか取り柄のない妖怪で、あなたにそばにいてもらえる自信がなかった」

「だから操ったというのですか!?」

 笙子さんが問い詰める。

「ごめんなさい。私は間違っていた」

 蔦子さまは頭を下げた。

「そんな事をしなくても、私は逃げなかったのに」

 笙子さんは言った。蔦子さまが驚いて顔を上げる。

「私はあなたの事を知っていました。王宮からあなたの事をずっと見てて、その……なのに、どうしてこんな事を?」

「姫……」

 見つめ合う二人を置いて、私達はそっと屋敷を立ち去った。



「これはちょっといい話という事でよいのでしょうか?」

「そういう事にしておこう」

 私のつぶやきに聖さまが答えた。

「そうだ、志摩子。帰る前に教えて、今、元の世界は何時なの?」

 江利子さまが突然聞いた。

「たしか、呼ばれた時は6時ぐらいだったでしょうか」

 思い出しすように志摩子さんが答える。

「今が大体この辺りだから……ねえ、天竺に入ったらゴールでいいのかしら?」

「天竺の雷音寺がゴールです」

「今までの距離と時間からいって……」

 江利子さまが必死に計算を始めた。

「まずい! このままじゃゴール時間が7時になるわ!」

「江利子、まだ門限7時なのね」

 江利子さまの叫びに蓉子さまが呟いた。
 7時ですか。私よりも早いですね。
 大学生で門限7時って、きつそうだ。

「もう、今さら術で遊び過ぎただのなんだのって言ってられないわ!」

 江利子さま、あなたが一番楽しそうでしたが。

「全員ダッシュよ! ダッシュ! ほら、乃梨子ちゃんも行くわよ!」

「はい?」

 振り向くとすでに蓉子さまと聖さまは走り出していた。

 ちょ、ちょっと待ってください。
 ここから天竺まで走って行く気ですか?
 元の世界に置き換えたら、アフガ○スタンからイ○ドまでの距離になるんですよ!?
 って、置いて行かないでくださいよーっ!

続く【No:2945】


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