【2942】 お騒がせキャラ恋に落ちたら巻き添えを食った  (くま一号 2009-05-07 21:52:06)


※オリキャラメインです。
※と言ってもROM人さまの創造したキャラクターですが、特権により勝手に出ます。とはいえ勝手に相当設定作っちゃったので【No:2922】と関係あるかどうかは読者のご想像にお任せすることにします。パラレルワールドもありってことで。
※ツベルクリンはたぶん+です。他は内緒♪

  †  †  †

 どうかしてた、とは思うんだけど。典が煽るからいけないのだ。

 美術室に駆けつけて、ガラッと扉を開けて飛び込んだら、目の前に白いもの。体操服? と思うまもなく。

「わ、わ」
「きゃあぁっ」

むにょ、と感触があって抱きとめられたらしい。
体操服。なんかいい感触。この高さに胸があるのはリリアンで一人よね、と馬鹿なことを考えていたら胸からその人の声がした。

「くま一号先輩?」
「か、可南子ちゃん。なにしてんの?」

 可南子ちゃん、ちょっと顔が紅い。私はたぶん真っ赤かもしれない。練習中にこれくらいの接触は珍しくもないんだけどな、ってなにを考えている?

「絵のモデルになってくださいって頼まれてたんです」
にまっと笑う可南子ちゃん。

「でも、一号先輩? なにをしているかって、それは私がお聞きすることじゃありませんか?」

 あ、そりゃそうだ、と周りを見回すと、カンバスの向こうにみちるさんが笑っていた。体操服に着替えて練習に出ようとしたところを引っ張られてきたわけか。敵は素早いぞ。
「ごきげんよう、ひとみさん」
にこっ。

 な、なに、その余裕の笑みは。

「ご、ごきげんよう」
「ちょうどよかったわ。そういうわけでお願いがあるのよ、バスケ部長さん」
「はぁ」

 ノリのいい前部長や、国公立の芸大へ行った美礼さまとか、キャラが立った三年生が卒業されたあと、美術部は見かけ上お嬢様風のメンバーで固められている。みちるさんもふわふわ系お嬢様なのだが……。

「次の展示会に向けた製作なのですけれど、可南子ちゃんがイメージにぴったりなの」
 私の前まで来て、胸の前で手を組んでお願いしますのポーズ。上目遣い、に、ちょっとくらっと来たのはないしょだ。

「しばらく、可南子ちゃんを一週間くらい貸してくださいな。いえ、あまりお邪魔をしてはいけないから一日一時間でどうかしら」
「いいですよね? くま一号先輩」

 予想通りの台詞。それも、可南子ちゃんは承諾済みらしい。なのに答えを考えていない私。やっぱり馬鹿だ。
 とりあえず逃げる。

「その呼び方はやめてって言うのに」
「わかりやすくていいじゃありませんか」
さらっと言う可南子ちゃん。

「あら、本当にそう呼ばれてるのね、ひとみさんとさとみさん」
にまっ。

 あーあ、また広まった。乙女をつかまえて「くま」はないと思うんだけど、それはこの2年であきらめた。
 それでも、可南子ちゃんにくまくま言われるのは結構……凹むんですけど。

 でも、一応私はバスケ部長なんだから、ちょっと抵抗してみる。

「練習はどうするの?」
 そう聞いたら、答えたのはみちるさん。
にまっ。

「新人戦、終わったばかりですよね。新入生が入ってくるまで時間はありますよね? しばらく可南子ちゃんに来てもらってもいいでしょう?」
 逃げられなかった。こんなに押しの強い人だったかなあ。

「可南子ちゃんはいいの?」
「なにごとも経験ですから」

 本人がいいというものは、仕方あるまい。熊沢ひとみ、敗北。
それにしても、入部してきたときには孤立しそうに見えた可南子ちゃん、ずいぶん積極的になったなあ。

 しかたない。せめて、捨て台詞。

「ヌードはだめだからね」

 可南子ちゃんとみちるさんが顔を見合わせた。

「それは、次の時にご相談しましょう」
 みちるさんがにっこり笑ってトドメを刺した。
「あ……」

 あーもう。
「可南子ちゃん、練習に行くわよ」
「はーーい」
 くすくす笑う可南子ちゃん。

 熊沢ひとみ、惨敗。

  †  †  †

「それで、何しに来たんですか? ひ・と・み・さま?」
 にやにや。こいつは。
こういうところは、薔薇の館で鍛え抜かれたらしい。

 なんとか反撃を試みる。

「可南子ちゃん、私の妹になって」

「ごめんなさい」

「即答?」
「だって、何度目ですか? もうちょっとバリエーションがあってもいいと思うんですけど」
「いや、答えはYesかNoかなんだから、単刀直入がいいかと思って」

「私は、お姉さまを持つつもりはありません」

「『私のお姉さまは火星にいます』でしょ? 『マリア様の星』とか。なに、その電波系な答え」
「あー、電波ってひどいですね。私の心の中の宝物なんですから」

「だから、そこんとこがわかんないんだってば。どういうことか教えてよ、可南子ちゃん」
「ですから、秘密です」
「ぶー」
「一号先輩、かーわいい」

 ふくらませた頬を人差し指でつつつかれた。

 熊沢ひとみ、本日完敗。


  †  †  †


「へ・た・れ」
と、さとみが言い放った。ノックもせずに入ってきて、私のベッドに転がってこの言いようなんだけど。

「うー」
「だってー、本人がいいって言う以上お断りする理由が」
「だから、へ・た・れ」
「うー」

 さとみがここまで強気なのは、『可南子ちゃんをどっちが妹にするか競争よ、でも他の邪魔者は排除するぞ同盟』をあっさり裏切って、バレンタインデーに部の後輩にロザリオ渡してしまったからだ。いまはもう、妹といちゃいちゃとかラブラブの真っ最中。
 しかも、それを三年生のお別れ会が終わるまで、二週間以上隠してた。許せる? これ。

「簡単にに言えるわけないじゃないの!」

 まあ、ね。わかるんだけどね。
松平瞳子さんがバレンタインデーにあの大告白をやっちゃったら、同じその日に典には話せないよね。『奇跡の人』を演じ終わったあとの典の顔を見て安心して、初めて打ち明けたって言うんだけど、それはあんまり妹がかわいそうじゃない?

「隠せば隠すほど燃える恋心、ってね」
えへ、と、さとみが笑う。

「私にまで隠さなくたって」
「ひとみは顔にでるもん」

「同じ顔じゃないの。だいたい二週間どこでいちゃついてたのよ」
「失礼ね、姉として妹とコミュニケーションを」
「だからどこで」

「部室よ。みんなが着替え終わって出たあとで、もう一度戻って」
「ちょっとマテーー。部長として、部室をそういういかがわしいことに使うのは」
「いかがわしくないでしょ。ひとみ、可南子ちゃんを妹にしたら、いかがわしいことするつもり?」

「ぐふっ」
 あ、いけない、さっきの感触が……。

「変態」
「ちょっと待ってよ。私は部長として……ってか、さとみ、鍵閉めたあとの部室にもう一度入ってたわけ? それは本気でまずいよ?」
「ま、済んだことだし、誰も気がつかなかったし。あなたは部長でキャプテン、私は平社員」
「それだって、投票の一票差でどうしてここまで差がつくのよ、もう」
「くふふふ。部員が奇数だったんだからしょうがないじゃない?」

 性格も成績も、運動能力もツベルクリンも一緒だった二人でも、私は部長。さとみには妹がいる。いつまでも同じというわけじゃない。

 一方的に苦労してるような気がしないでもないけれど。

「予算案は間に合ったんでしょうね」
「紅薔薇のつぼみのおかげでなんとか」

 まあ、部長なんてものは部員の世話役ですよ。印刷所の〆切に間に合わせるために余裕を持って参加者の原稿の〆切を作ったのに、経験者がほとんどいなくて『てにをは』からWordの使い方まで教えて結局全部の原稿の校正をしたという、どこかの投稿掲示板の主宰者のようなもので、その上最後を狙ってぎりぎりに駆け込む人がいたり、このスリルが最高のエクスタ……

「やっぱり変態。しかも本文中で主宰者ネタやるし」
「うー。(それ、初投稿からやってた)」
(そういえば、ROM人さまの、私たちの初出SSが検索しても見あたらないんだけど)
(この掲示板の動作テスト用の裏掲示板にあったのよ。今は存在していないわ、読むことはできないの)
(……そうだったorz 内輪ウケ乙)


「ねえ、さとみ、例の可南子ちゃんの『火星』だけど、正体わかった?」
「義理のお母さんで中学の先輩の夕子さんのことじゃないかと思ってたんだけどな」
「違う、っていうより、もう一人、もっと強力な人がいる感じがするのよね」

「……祐巳さんかな?」
「……別にお空の星になったりしてないよ」

「縁起でもないって」
「瞳子ちゃんの後押しもしてたみたいだし、違うでしょ」

「でもさ、相手が紅薔薇さまだったら諦めた方がいいんじゃない?」
「いやよ。瞳子ちゃんと違って決まったわけじゃないんだから」

「典もひとみも、叶わぬほど燃える恋心って、うーん、萌えるわ」
「叶わぬって言うなー」

「うん、がんばれひとみ」


  †  †  †


 それで結局。
演劇部の部室で、典と友情を深める私。

「どうぞ」
瞳子ちゃんが、紙コップで紅茶を出してくれる。文化部って優雅。

「美術部の部室を監視してるわけね、ストーカー部長」

『人のことが……』と喉まで出かかったけど、危うく止めた。さすがに瞳子ちゃんの前では言えない。後ろを向いた瞳子ちゃんの肩が揺れてるんですけど。盾ロールがぴょんぴょんするくらい。そんなに爆笑しなくても。

「ねえ、典。『火星』とか『マリア様の星』ってなんのことだかわかる?」

 典がぶっ、と吹き出し、瞳子ちゃんが爆笑体勢のままずりっとずっこけた。

「なっ」
「えーーー、あなた知らないの? ひとみ、だめだよそれ」
「なになに、なんなのよ」

「あーっはっはっはっ」
 典が大笑いし始めた。
瞳子ちゃんは……苦笑い? 瞳子ちゃん経由の情報ってことか。

「もう、なんなのよぉ」
「かっかっかっかっ」
 典が水戸黄門(東野英治郎バージョン)になり、瞳子ちゃんがますます苦虫を噛み潰す。

「っふぁっはっはっ。あーあ、もうっ、涙出てきた」
「典ぁ」
「まったくもう、自覚がない分、佐藤聖さまより始末が悪いわよ。ねっ、瞳子ちゃん」

 なぜか、憮然とする瞳子ちゃん。
「薔薇の館へ行きます」
「がんばってねー♪」
 手を振る典。

「ねえ、なんのことなのよ、教えなさいよ」
「だぁめ。これは、ひとみが乗り越える試練よ。自分で可南子ちゃんから聞き出しなさいな」
「なんだか、望みがなくなってきたなあ」
「そんなことないわ。さとみと同じ髪型でも同じゼッケンでも一瞬で」

 典がいきなり真顔になった。演劇部の狭い部室が消えて、舞台中央に立つ典。

「あなたをを見分けられるのって、可南子ちゃんだけよ」

 ……こんなところで、そんな大見得切られても、ね。


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